後ろの正面は誰?

華也(カヤ)

第1話

『後ろの正面は誰?』



著・華也(カヤ)



噂である。

ネットに転がっていたただの噂。

いつの時代も噂は噂を呼び、若者の間で広まる。

口頭での噂は、尾ひれを付けて、元あった物とは別物に変化していく。

言霊というものがある。

言葉には魂が宿り、チカラを帯びる。本当には存在しないものがそれ故にチカラを、形を成して、更なる事実へと変貌を遂げる。


───────


「コックリさんコックリさん、私は今年中に恋人は出来ますか?」

昔からあるオカルト的な遊び。殆どは信用してない、ただのお遊びとしてやっている。こんな事をして、未来を神様やら幽霊が教えてくれるのか?

いやいや、教えてくれたりはしないよね。なんのメリットがあって教えてくれるというのだ。

案の定指を置いている10円玉は微動だにしない。誰か嘘でもいいから"Yes"の方に動かせよ。空気読めよ。

「…動かないね」

コックリさんに乗り気ではなかった優子が少しだけ残念そうに呟く。

動いたら動いたで文句言うつもりだったんでしょ貴女は。

提案者で本気にしていた元オカ研の未央がガックリしながら

「動かなくても、終わりの口上だけはしよう…。コックリさんコックリさんお帰りください」

10円玉は動かない。コックリさんなる物は降臨していない事実がこれでもかと3人に突き刺さる。いや、空気読めよ。

誰でもちょいと動かせば盛り上がるのに、誰も動かさないから盛り下がったじゃん。

私が未央に文句を言うが、さすがは元オカ研の女である。

「今日は来ない日だった。金星の力が足りなかった…」

返しが電波でサイコだ。

金星って、幽霊関係無いじゃん。それっぽい事を言えば、私達が少しでも信じると思ったのかこの脳の3%以外をオカルトで犯された女は。

「そうなんだ〜。残念だったね」

…優子は何を言っているのか?フォローのつもりか?本当に信じているのか。馬鹿か。この空間には馬鹿しかいないのか?私を含めて。

私だって少しだけ信じてました。ほんの少しの希望を、恋人はできるかという質問に乗せましたよ。結果は動かない10円玉といつも恋人なんていらないって言っていたけど、本当は欲しかったんだっていう友人2人の呆れた空気だけ。

「ネットでは…結構成功例あるんだけどな…」

目が横に泳ぎながら、コックリさん降臨セットを片付ける未央。

ネットを鵜呑みにするなと何度言えばいいのだろう。あんなの9割嘘なんだから。私がなんか暇潰しはないか?と聞いたからやってくれたんだけど、もう練りに練った古いネタではなく、目新しいのを求めていたのだけれど、オカルトというものは、昔から全然進歩してないと伺える。

「はあ〜〜〜〜〜…」

思わず大きい溜息が出てしまうほどに、無駄な時間と無駄な労力を費やしてしまった。それを見てた未央は申し訳なさそうに「ごめん」と謝る。

いや、私も少しだけ信じてたし、謝る必要は無いんだけど…一応受け取っておく。

なんかこのままで終わるのはつまらない。せめてなんかもっと面白いのは無いのか?できれば新しい目のと未央に聞いてみる

「もうやめようよ〜。帰ろうよ〜」

これ以上は嫌だと怖いのが大嫌いな優子は未央に聞く私を制止する。それが目に入っていないのか、

「一応はある…」

そう告げる未央の目はさっきまでとは違うオカルト好きの目をしている。

コックリさんの時は、ワクワクしているような目をしていた。子どもの好奇心がいっぱいといった眼差しだったのに対し、最新のオカルトの話があるという彼女の目は、言ったことに対して不本意であり、あまりオススメしないと後付けする。

「あるなら最初からそっちを言えよ」

なんで隠してたんだこの女は。

優子は私は何も聞いてないと言わんばかりに、「あ"〜〜」と耳を塞ぎ、未央の言葉を遮ろうと必死にする。

そんな優子の口を塞ぎ、耳に当てている手を半端無理矢理剥がし未央の話を聞くように仕向ける。

「で?早く話してよ」

優子の手を抑え、口を塞いでいる手がプルプル震えながら未央に早く話せと急かす。優子が思いの外、強い力で抵抗するから長く持たない。

「これはネットでも本当にやめた方がいいって意見が大多数で、私もあまりやりたくないというか、あんまり楽しそうでもないし、なんか…気持ち悪い…」

そんな事を言う未央に少しだけビビりながらも、いいから話してと言ってしまった

「…私はこれを直接やりたくないから自分で調べて。検索ワードは…」

検索して自分一人でやって欲しいと未央は言った。その後の事は自己責任でと付け加えて、検索ワードだけ教えてくれた。

「それ絶対ヤバいやつじゃん!ヤダー!聴きたくなかったー!あーあー!!」

優子が騒ぐ。うるさいし、力が強い。

でも、私も検索ワードには昔から聞き覚えのあるものが含まれていた。


───────


"かごめかごめ 後ろの正面は誰?"

それが未央の教えてくれた検索ワード。

「かごめかごめって…あのかごめかごめ?」

「そう…」

「なんか怖い事なんてある?」

「違和感ない…?幼稚園児の時は、何気なく歌っていたけど、歌詞をよく見ると、意味がわからないってことに…」

「…確かに意味がわからないけど」

「あの歌詞には諸説あって、5番まであったり、10番まである場合も。実際に歌詞も存在する。元からなのか後付けなのか分からないけど…。おかしいと思わない?籠の中の鳥って?夜明けの晩って?鶴と亀って長生きの象徴だけど、滑ったって?」

「…それは…確かに意味はわからないけど」

「後ろの正面だあれ?って何?誰なの?後ろの正面って?後ろの人だあれ?ならわかるけど、後ろの正面ってなに?他諸説あるけど、後ろの少年だあれ?って歌詞もある…。後ろの少年って何?誰?いつから少年居たの?」

…それ以上は聞けなかった。未央がマジの顔してたのと、私が少しだけ怖くなってしまったから。

その話を打ち切って、帰ることにした。

この話をしている間、ずっと優子は耳を塞いで「あー!あー!」っと自分に聴こえないようにしていた。


───────


本能的に検索してはいけないとわかってる。でも、気になって寝付けない。

目を閉じても、未央の言葉が頭から離れない。なんでもこの事を調べた人は音信不通になるという。

オカルト系、心霊系ではよくある話だけど、妙に引っかかってしまう。

私は布団から起き上がり、パソコンの電源を入れる。あっという間に立ち上がるパソコンのデスクトップから、Googleの検索エンジンを起動する。

"かごめかごめ 後ろの正面は誰"

そうワードを打ち込んで検索をかける。トップにある動画が出てきた。タイトルは"no title"

怪しさ満点だけど、気になってしまった。それに検索結果が1件って何?有名でもなんでもないじゃん。そう思いながらも、動画を確認したくて開こうとしている。

その時、ブーブーっとスマホが鳴った。

静寂の中でのスマホのバイブレーションにビクッとし、画面を確認すると、未央からLINE電話の通知だった。

もう夜中の2時だよ?なんでこんな時間に電話?

そう思いながら電話を出る。

未央が恐る恐る聞いてきた

「も、もしかして…もう見た?」

なにを?動画?それとも検索結果画面を?そんな事が頭の中で巡り、心を落ち着けて返答する

「動画の事?まだ見てないけど、今見ようとしてる…。というか、検索結果1件ってマイナーにも程があるでしょ。初めて見たわ」

「ホントやめな!マズイって。興味があるとはいえ、教えた私が言うのもアレだけど、やめなよ!」

珍しく凄い剣幕で宥める未央。ここまで言われると、恐怖よりも逆に興味の方が勝ってしまう。

「じゃあ、私が調べてみるから、未央はそれを見ててよ。ビデオ通話にして、パソコンじゃなくて私の方にカメラ向けておくから、リアクションだけ見てて」

なんの解決にもなってないけど、無理矢理にでも未央に提案をし、渋々わかったと承諾する。「少しでもなんかあったら止めるからね」といざという時のストッパーができたので、万が一ということもないだろう。

私は未央との通話をビデオ通話に切り替えて、私の頭から胸下まで映るようにスマホの画面をパソコンの隣で固定させる。

準備はオッケー。これから検索結果のトップに出てきたというか、唯一1件の動画を再生してみるねと未央に告げ、再生ボタンをクリックする。

動画は真っ暗だった。なにも見えない…いや、なんか見える。真っ暗な画面にボンヤリ映るのは、人の影?

机座っている人の後ろ姿?テレビ画面?パソコンの画面?を見ている人の後ろ姿を撮っている動画だ。

音は…なんか僅かに聴こえる…。なんだこれ?聴こえない…。

動画のボリュームをMAXにしても何を言っているか聴こえない…。パソコン本体のボリュームを上げてみる。

「…聴こえた。なんか歌が…」

ボリュームをもっとあげる

「もう……めな……やめ……」

通信状態が悪いのか、未央の声が途切れてよく聴こえない。

パソコンのボリュームをもっとあげる。

『か〜ごめかごめ 籠の中の鳥は いついつ出やる…』

…かごめかごめの唄だ。

誰かがかごめかごめの唄を聴いている後ろ姿の動画だ。

何これ?気持ち悪い…。

でも、目が離せない。


『かごめかごめ 籠の中の鳥は いついつ出やる 夜明けの晩に 鶴と亀と滑った 後ろの正面だあれ?』


動画が終わった。

見間違いかもしれないけど、最後の方に動画を見ている人の後ろに別の影が重なったように見えたけど…。

「…未央どうだった?」

と聞くと、やっぱりビデオ通話は回線的に重いのか、よく未央の声が聴こえない…。

「…え……ろ……だ……?……ね…う……れ……?…し………?」

「ん?なんて?大きい声で言ってよ」

「……ろ!………ろ!…………しろ!…………うしろ!………」

その言葉を聞き取ると背筋がゾクッとした。なんで動画の人の後ろ姿、私と同じ髪を後ろで束ねていたのか?なんでパソコンの隣に置いてあるぬいぐるみが一緒なのか?なんで後ろに影が重なったのか?


───────


再生が終わったと思った動画から音が、歌が聴こえた。


『後ろの正面だあれ?後ろの正面だあれ?後ろの正面だあれ?後ろの正面だあれ?後ろの正面だあれ?』


後ろを振り向く。


私の後ろの…。


私の後ろの正面…。


「……だれ?」






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

後ろの正面は誰? 華也(カヤ) @kaya_666

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ