第123話 私、肌瑪兎です

 ”バングラァ~””キシャー キシャー”

 深夜に飛び入りで訪れた客と如才ないバーテンという役割を互いに演じられたならどれほど良かっただろう。

 あ、私、肌瑪兎です。陣ちゃん、あ、工辞基がいつもお世話になっております(ペコリ)その、陣ちゃんが巨大化している間の陣ちゃんのモノローグを、かってにアテレコするのが趣味みたいなところがあったりして(テヘペロ)。

 わたしら、こっちにきてからはけっこうすき放題やってたし。このバーに来る間に、読モ? の専属契約だって五、六誌と結べたからけっこう、忙しくなるし。陣ちゃんは、人の心でいるときはけっこう用意周到かつ大胆不敵なところがあって、わたしなんか『ペテン師』だなって感心しちゃうんだけど、怪獣ごっこにキヨ? 今日? 興じ… そう。興じてるときってほんっとに子供っぽさが抜けなくて母性本能くすぐられちゃうんだな。特撮映画のオファーきてたもの。ウルトラQ とかいう、特撮のパイオニアかつバイブルかつイデアかつ引用元の、何百目かのリメイク映画をつくるんだって、南青山六丁目の公衆電話って茶色いのね ぜんぜん知らなかったわ私、ってことばかりに気をとられていたから、あんまり詳しいことはアレなんだけど、わたしだって、水着のきわどさをどこまで許容するかって問題を、マネージャー派遣のフリーエージェント会社の営業担当から『これ重要ですから。肩紐を片方でもズラされたらもうM字開脚までは秒ですから』って散々、かわいそうなか弱い女の子たちの夢を剥き出しにされちゃって、あとは借金と薬漬けみたいな古典的ギャグをかまされたんで、解雇して契約に関してはこっちもプロがついてるんでって、そのときはまだ巨大化中で品川プリンスホテルの屋上ガーデンプールを覗き込んで小指であふれさせてる無邪気な陣ちゃんに、ちょっともどってきてくんない? ってライン飛ばして、でも陣ちゃん巨大化してたから、拾ったスマホ操作するの難しいじゃん? って気がついた。

 全身リブロースのオオミズアオみたいなバーテンが、のど仏のボウタイから血をだらだら流して、今は縦よりも横幅で対抗している陣ちゃんとがっぷり四つに組んだまま、静寂中。

 ということで、さっきの話の続きするね。ん? 今の陣ちゃんの気持ち? 知らない。私、人の心はわかるけど、人じゃない人の心ってぜんぜんわからないから。だから適当でいいなら「おまえ、なかなかやるな」「おまえこそ。俺にここまで汗をかかせたのはお前が始めてだぜ」って丹下左膳の映画みたいなアテレコしてあげなくもないけど、今は緊迫した場面だから。一緒に店に入った隊毛頭象(呼びつけ)なんて、とっとと突き当たりのカラオケステージ裏のキラキラスパンコールの隠し扉をピッキングして奥のパーティー会場へすたすたいっちゃうしさ。いくら、陣ちゃんが三度の飯より四度の飯が好きだからって、違う。戦いが好きだからって、もっと敬意を払ってほしいもんだわ。だいたいわたしあの人大嫌いなのよね。何考えてるのかさっぱりわかんないんだもの。そこいくとボスって人? あの人はなかなか繊細な心の襞の持ち主だったな。わたし、襞って大好きよ。さわさわさわファサファサファサって全身をなでられちゃったらもう、キャイーンたまりませんわって、これは斉藤ルミ子ちゃんの受け売りなんだけど。知ってる? モデルエージェントの一番人気の女の子。このごろ流行りの女の子。微妙にたとえが古いのは、今がリバイバルブームだから。ライバルサバイバルブームだから。デトマソパンティーラ五台をキャシュで買えちゃうくらい稼いでるんだルミ子ちゃんはさ、きちんと服を着た仕事でね。わたしそういうのって断然尊敬しちゃう。大人の自立した女性って感じがする。だけど、モードの世界って結局は『欲望湯沸かし器』なのよね。マネーの世界なの。私、そういうのって断然軽蔑しちゃう。賞賛と名声ならばいくらでもだけど、投げ銭なんていらないの。あなたが認めてくれさえすれば、私はここに存在できるから。

 なのに、バカ作者って、わたしのこと無視しすぎじゃない?(プンスカ)

 先ほど精神官能、ってちょっとエッチな誤変換じゃなくって? 精神感応したところによれば、この後のPoI(パーソンオブインタレスト)はですね、なんと復活したマグダラのマリアこと、地媚真巳瑠ちゃん、その人だったのでした! これ確かな裏筋からの情報だからね。作者の創作メモ盗み見たくらいには統計学的に確かな選挙速報開票率0で当選確実だから。え? どうしてわかるって? ささやくのよ。私の○○ト○○が…… ひわいね。

 ところでわたしって、こんなキャラじゃなかったっくなかったっくない? 作者混乱しておるな? もしくは今私は完全にフリーwifi垂れ流し状態なのかもしれないね。

”バングラー””キシャー キシャー”

 あ、ちょっと動きありました。でもまた止まりました。焦げ臭い臭いが漂ってきています。どっか漏電火災でも起きているのかもしれないので、店内のブレーカー一旦落としまぁ~す。(バチン)ナイスアシストゥ!

 で、なんだっけ。

 あ、作者の作品メモの話か。えっと、地媚さんが当面は怪しいってことになるみたいよ。理由はね、えっとぅ…… ごめんね。ちょっと待って。字が汚いったらないわ。きっと心も汚いのね作者。襞七瀬、字、違ってるかもしれないけど、テレパスの大先輩にして美人の七瀬さんも言っていたとおり、テレパスに流入していくる観念っていうのは案外自由なものなんだけど、それが一次刺激、つまり、皮膚やなんかがまず感じる刺激? アツッとか、イタッとかいう言葉になる以前の刺激ってことはまずなくてね、たぶん脳の中で処理された後の情報がなだれ込んでくるわけなの。それがどんな拡張子をもったファイルなのかは、時と場合によってマチマチだから、今回は視覚的に私には、創作メモとして見えているんだけども、実際にそういうメモがあるってことじゃないのね。いや、実際にあるのかもしれなくて、作者がそのメモを今見ている、または書いている、もしくは、見ていたことを思い出している、あるいは、書こうとしている、ところのものなわけ。

 どぅゆーあんだすたんど?

 だから、汚い字は、心の汚れの反映かもしれないってことだし、これから書こうとしているからまだ粘土がよく固まってないのかもしれないってことなのよ。いい?

 で、どうして真巳瑠ちゃんた怪しいのかっていうと、うん、うん。ただ一人、生き残ったから、なんだって。陣ちゃん子飼いの三人娘のうちの二人、未伊那深夷耶、瑞名芹は悲惨な最期を遂げたけど、地媚真巳瑠だけは、途中、勤怠管理部の地媚真巳瑠型端末に配置換えさせられて、氷の女として社員を恐れさせたけど、それも当座を生き延びるためのカモフラージュで、さらに社内の全情報にアクセスすることが可能だったことで、あらゆる諜報もしくはハッキングに有利だった。それに、Pranariaとboooooksワクチンで、再び生身の身体をノーダメージで取り戻せたのも計算ではないのか。ですって!

 じゃ、何かゐ?

 そんな命令をした室田六郎ってやつが、策士だったってことなの? あのうすぼんやりの出世ゴリゴリ至上主義の唐変木金髪豚野郎が?

 ふむふむ。さらに、工辞基我陣と室田六郎とは互いに牽制しあっているようで、実はアシストしあっていた節がある、ですって!!

 そりゃね。あのタイミングで陣ちゃんが、まったくフリーなじょうたいでイフガメ砂漠に来られたのは、「お前、空海かよ!」って突っ込みたくもなったけどさ。でもおかげで、また遭えた偶然が、仕組まれた必然だってわたしはそれでかまわないんだ。それから、何? ふぁ、ファケリド? ファエカラ? ファ… ファイ。ああファイルか。ほんっと日ペンの巫女ちゃん(変換が変かな)の足の裏でも舐めてきてほしいくらいだわ、まったく下手糞。

 青いファイルね。うん。見た見た。さっき砂漠で、全裸の或日野君がふところから取り出したところのあの、水色のファイルのことね。それが何? 空大学? 空大系? なんのこと。しかたない、ちょっと直接くすぐってみるか。


 あ、あばばばあ、あひゃあひゃあひゃ。ぷふい。ぷふい。こらやめんかすぱいくこらやめんかすぱいく。―― なんだ今のは。梅雨が近いせいかもしれんな。宇津救命丸でも飲むか……


 わかった。「空想技術体系」の略で「空大系」って、体と大を混同しているよちゃんとしてよまったく。

体系はシステム、組織。大系はシリーズ、書物。

って、あれ? そんじゃ、このお話って、ずっとはじめから、ププ、間違っププ チャッテルぷぷのぷぷぷ。空想技術体系って、空想技術の組織? あながちどっちでもいいか。

 それで、あとは、そのファイルが、タコブネから出てくる、て書いてあるね。何? タコフネって。馬鹿なの死ぬの? 荒唐無稽支離滅裂。

 ”バングラァ~””キシャー キシャー”

 お! 陣ちゃんの両肩からでかい丸鋸が一対出た。相手を肉翅部分をビンビンジャブジャブ切断完了したら、屈強なボディービルダーと、貧相な裸のサラリーマン風のサラリーマンに早代わりっと。

 この、おとといきやがれ!!!

 ケツけられてケツまくってほうほうの体で逃げていったわ。で、のこったボディービルダーはっと…… あーあ。陣ちゃん食べちゃったんだ。さすがにそれはグロいわね。

 でもいいわ。それもみんな幼児の残虐性の現れってことで。テクマクマヤキミヨシダテルミキ人の心を取り戻してお願い(涙☆キラリ)

「肌瑪兎」

「陣ちゃん。お疲れ様」

「ちょっと胃もたれがするな。宇津救命丸はあるかい?」

「うん。どうぞ。隊毛さんはとっくに奥へ入っていったよ」

「そうか。だがわれわれはここを出る」

「え? なんで。これからパーティーでしょ?」

「そっちは罠だ。俺たちはあの、身包みはがされて、いや剥がした、男を尾行するのだよ、肌瑪兎。それに、ボスの不在も気にかかるな」

「うん。作者メモにはなかったもの。あのひと、単独行動が好きなんでしょ?」

「そうだね。肌瑪兎。だが、スタンドアロンであることの利点は、バックアップシステムの前進基地であることなんだ」

「難しいね。陣ちゃん。で、尾行は?」

「発信機があるから、それを追跡すればいいのさ」

 全裸にボウタイを喉に突き刺した一文無しが、深夜の町をとぼとぼと歩いていった。

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