怪盗と12+1の神器
Yukihigo/雪籤
プロローグ1 歴史は繰り返される。
――矛盾。前に言ったこととあとに言ったこととが一致しないこと。一般に、理屈として二つのつじつまが合わないこと。
君たちは、この〈矛盾〉の語源と言われて思いつくのは、古代中国で商人がなんでも突ききれる矛となんでも守りきれる盾を売っているところに、その矛と盾を突き合せたらどちらが勝つのかと問う者が現れ、その商人が答えることができなかったという物語だろう。
しかし、これは誤っている。いや、正しく言うのならば省略されている。
この商人が矛と盾を売りだすより前の話。
ある集落にお互いをライバル視し、競い合っている双子がいた。その双子は、日ごろいろんな対決をしては、引き合っていた。
しかし、双子の対決は親の思惑により、弟が敵国に人質になるという結果で勝負もつかぬまま、一度終わりを迎える。
双子が15歳になったある時、戦争が始まってしまう。
それは、皮肉にも双子の対決の続きとなってしまった。
そして、対決前日。
兄のもとに、謎の男が現れた。
「――様。あなたは、――様に勝たれたことがないとお聞きしますが」
その男は、全身を灰色の毛皮に身を包み、顔もよくわからない。
「おぬしは、誰だ」
兄は、その男に威嚇ついでに問いかけた。
「おっと、これは失敬。怪しいものではありませんよ。私は、ここから少し離れた村の工房のものです」
男は身を包んでいた毛皮を脱ぎ、体に纏っている工具を兄に見せつけた。そして敵意がないことを、両腕を上にあげることで表した。
「そうか、その工房の者が俺に何の用だ」
兄は男の発言を信じきれずに、まだ威嚇を声に乗せる。
「そうですね、簡単に言えば売り込みですよ。私が工房で作ったこの〈矛〉を明日行われる戦争で使ってはいただけないかという提案です。私の作った〈矛〉を使えば、――様に勝てるやもしれませんよ」
男は近くに置いていた鞄から、長い棒状のものを取り出し、その長い棒を纏っていた布をするすると剥いでいく。
そして、光輝く矛が姿を現す。
「これは…」
少年はその矛のうつくしさ、威圧感に言葉が出なかった。
そんな兄の姿に、男は追い打ちをかける。
「使っていただけますか」
兄は男の言葉に言葉ではなく、動作ででしか答えることが出来なかった。
男は壁に矛を立てかける。
「そうですか、ありがとうございます。あ、あとこれもお守り程度と思ってお使いください」
男は、兄が立ち尽くしている近くの台に手首が通るほどのブレスレットを置いて、その場を離れていった。
兄は男の姿など気にせずに矛を眺めるだけだった。
兄が男に矛をもらっているのと同時期。弟のもとに、灰色の毛皮を身にまとった女が現れる。
そして、その女は弟に語りかける。
「――様。あなたは、――様に勝たれたことがないとお聞きしますが」
「そうですね、簡単に言えば売り込みですよ。私が工房で作った〈盾〉を今後行われる戦争で使ってはいただけないかという提案です。私の作った〈盾〉を使えば、――様に勝てるやもしれませんよ」
そして、女は盾を取り出し、弟の目の前に立てかける。
そのうつくしさ、威圧感に弟は立ち尽くし、女は礼を言ってブレスレットを置き、その場から去っていった。
双子は男、女にもらったブレスレット、矛と盾を身に着け、戦争で使った。
その二人は、しのぎを削ったが、結局、双子の対決はまた引き合ってしまった。
その戦争後、一時して双子は同時期に失踪する。
そして、二人は死したと噂されるとともに、英雄として語られた。
そこで〈矛盾〉の語源に戻る。
商人は、双子が使った伝説の矛と盾を売りだした。その矛と盾を突き合せたら、どうなるのかと問う者が現れ、それに商人は答えられなかった。
そんなのは、当たり前だ。英雄たちが使った矛や盾を巷の商人が売り出せるわけがない。
つまり、商人が売っていたのは〈贋作〉だったのだから答えられなかったのだ。
プロローグ1 END
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