上京から始まる異世界ノーフィクション

化無流 人

第1話 上京フィクション

ずぼっ。

聞き慣れた感触とともに流れる足音、その正体は…  

雪だ。

深さは毎年平均して50センチは積もっている。


「はぁ〜さむっ」


かじかむ手を摩りながら10キロ先のコンビニまで足を進ませていた。

時間は朝の7時過ぎ、この日は晴れで太陽が出ている分、光が雪に反射して目が痛い。

「この雪とももうお別れと思うとなんだか寂しいな」


文面から察してくれた人はいるとは思うがここはど田舎だ。

だが問題ない。No problem!

なぜなら今日から俺、切咲 凪斗は上京するからです!

そして、いまからコンビニへわざわざ10キロも歩いている理由は、俺の幼馴染で超絶美少女のマイちゃんに告白するためだ。

成功率は多く見積もっても95%は堅いだろう。


これまで小学校、中学校、高校と積み重ねてきた布石をいま発揮する!

しかも行く日は違えどマイちゃんも上京する、、、

よって!問題点の遠恋になってしまうという点もなくなるわけだ。


「完璧っ…」


凪斗は満面の笑みを浮かべながら真っ白な雪の上にダイブした。


「冷たっ!」


俺は計算高いところはあるが、たまになにも考えずにやってしまったことをあとあと後悔することが多い…

しかしわかっていてもいつもやってしまうのが人間ではないだろうか、、


などと柄でもなく悟っている間にコンビニまであと500メートルほどで着く距離まで来てしまっていた。


「やっぱりわかっていても緊張するな…」


凪斗の容姿はそれほど悪くはない。といってもイケメンかどうかと言われると怪しくはなってくるが、中の上といったところだろうか。

身長は170センチほどだが、私服が壊滅的にダサい。

田舎だからといってそこに住む人全てがダサい格好をしているわけではなく、凪斗の都会への憧れと知識の不十分さが重なり、変な方向へと進んでしまったのだ。


そして現在、告白をしに行く凪斗が勝負服に選んだのは”みかん”と白文字で書いてある黒の長袖にどこで入手したのかド派手な赤のロングコートに白のパンツ、きわめつけにブーツと見せかけた長靴だ。

そしてここが一番わからない…着ている服上下全てにカッターで切ったようなダメージが入っているのだ。

まるで何かの事件に巻き込まれたあとを思い浮かばせるほどだ。

もちろんこんな田舎でそんな事件が起きるはずもない。

凪斗が自分でカッターでオシャレと思ってやったことだ。



私服のダサさで告白の成功率は一気に下がることだろう。

さぁいってみよう。告白タイムだ。



凪斗がコンビニに着くと幼馴染のまいちゃんはガラス窓にもたれながら携帯を触っていた。


「ごめんごめん!またせちゃったね。」


「うんうん!全然大丈夫…」


まいちゃんは凪斗の服装を見るや否や唖然。

思わず持っていたスマートフォンが小さな手のひらから抜け落ちる。


「どっどうしたの!?事故にでもあったの!?」


「えっ?ああ この服?知らないのまいちゃん?今はやりのダメージファッションだよ!上京するんだからこれくらい普通だよ」


「ふっ普通なんだ…東京ってなんかすごいね…わたしこわくなてきちゃったよ」


「こわくなんてないよ!あれだったら今度教えてあげるよ?ダメージファッション!」


「うっうん!じゃあお願いしよっかな…」


掴みはおっけいだな…最新の服で来た甲斐があったぜ。


凪斗には見えていないのかまいちゃんの表情は一点の曇りなく引きつっていた。

ひとまずまいちゃんは落としたスマホを拾うため足元に目を落とすと必然的に凪斗の靴が視界にはいった。

一瞬、紐も付いているしブーツと見ていたがスマホを拾い上げもう一度見てみると黒い長靴に穴を開け、そこにそれっぽく紐を通しているだけとわかりさらに言葉を失った。

3分ほど沈黙が続くと凪斗が本題に話題を変える。


「でさ!今日話があってきてもらったんだけどさ…」


「うん…」


告白の定番だがやはり直前で言葉が詰まる…

だがまいちゃんの方はそのどこから突っ込んでいいのかわからない凪斗の服装で頭がいっぱいだった。


「実は…おれまいちゃんのことが…」


凪斗があと一言を残し、口ごもりしているとまいちゃんが痺れを切らしたのかついに言ってはならない一言を言ってしまう。


「ダサい…幾ら何でもダサすぎるよ…」


「え?まいちゃん?」


さすがの凪斗でもまいちゃんの様子の変化に気づく。


「ごめんね凪斗くん。今日わたしに告白してくれようとしてくれてたんだよね…」


「うん…って ええっ!?」


「それでね?わたし凪斗くんと付き合ってもいいかな〜って思ってたんだよね…」


「ほんとに!?よかった〜!おれめちゃくちゃ緊張したよ!これで東京にいっても一緒だね!」


「でもね凪斗くん…ごめん 無理になっちゃった」


「え?なんで?おれなんかした?悪かったことあるならあやまるよ!」


「ううん 違うの… 単純にね 私服がダサすぎて無理なの」


そのあと永遠と凪斗は私服のダサさを指摘され続けたあげく振られた。









それから数時間が経ち、凪斗は東京行きのバスの中にいた。

凪斗の服装はさっきとはまるで違いどノーマルになっていた。


「はぁ〜まさかおれのファッションが間違っていたなんて」


まいちゃんに振られた事実よりもファッションを否定されたのが凪斗的にはダメージが大きかったらしい。


「まぁなにはともあれ数時間後にはついに東京だ!いままでの人生はフィクション。これからがおれにとっての本当のノーフィクションの始まりだ!」


 そう息巻くとテンションとは裏腹に深い眠りにつく、これから起こりうる事がフィクションでないとも知らずに…










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