第28話『おやすみ、おはよう、おやすみ。』
お風呂から出て、会長さんと一緒に綾奈先輩の部屋に戻る。綾奈先輩はネコのぬいぐるみを抱きしめながらテレビを観ていた。……凄く可愛い。
「ただいま、綾奈」
「お風呂気持ち良かったです」
「おかえり、愛花、百合。お風呂を楽しめたみたいで良かったよ。さあ、2人とも髪を乾かしてあげるからこっちにおいで」
そう言って手招きをする綾奈先輩にキュンとくる。
「百合ちゃんから先にしてもらいなさい」
「分かりました。綾奈先輩、お願いします」
「はーい」
私は綾奈先輩の前に背を向ける形で座る。すると、綾奈先輩にドライヤーを使って髪を乾かしてもらい始める。
ドライヤーの温かい風が気持ち良くて眠気が襲ってくるなぁ。綾奈先輩に髪を乾かしてもらっているドキドキもあるけれど、今は眠気が勝ちそう。
「百合の髪はサラサラだね。セミロングだしやりやすいな」
「綾奈先輩の髪はとても長いですもんね。それでもサラサラしていそうですから、とても気を遣っているんだろうなと思います」
ただ、短い髪になった綾奈先輩も一度見てみたいな。さっぱりとして今よりもかっこよくなりそうな気がする。
「髪が長いから大変なこともあるけど、好きだから苦じゃないかな」
「そうなんですね。そういえば、今年も梅雨の季節に入りましたけど、先輩方は雨が降ると髪はどうなりますか? 私はふんわりしちゃうタイプで」
「私もちょっとふんわりする方かな。髪をサイドに結ぶから、そんなに気にならないけど」
「私は2人とは違ってぺたんこになるタイプ。普段よりも髪が柔らかくなった感じもするから、嫌ではないかな」
「そうなんですか! ぺたんこになる人って実在したんですね! 家族や地元の友達はみんなふんわりなってしまうタイプで。ぺたんこの人も世の中にはいるらしいとは聞いていたんですけど。さすがは東京ですね!」
あとで、地元の友達にぺたんこになる人がいたって教えないと。
「髪がぺたんこなところのどこに東京要素があるのかしら……」
「たまたま、百合の周りの子がふんわりタイプばかりで、地元にもぺたんこタイプの人はいると思うけどね。まあ、東京は人も多いし色々な人がいそうな気はするよね。……はい、百合。これで終わりだよ」
「ありがとうございます」
「どういたしまして。サラサラな髪を触ることができて嬉しかったよ。私のベッドで良ければゴロゴロしていいよ。ちなみに、最近は減ったけど、愛花は小学生の頃、私のベッドにゴロゴロするのが癖だったんだ」
「へえ、そうだったんですね」
それはご本人から既に聞いています。
ベッドって言葉が出た途端、会長さんと一緒に匂いを嗅いでいるのがバレたかと思ったよ。会長さんのことをチラッと見てみると、彼女ははにかんでいた。
「では、お言葉に甘えて」
私は綾奈先輩のベッドにゴロゴロすることに。枕に頭を乗せると綾奈先輩の匂いがふんわりと感じられて。心地よいドキドキが全身に伝わっていく。ここでなら何日でも眠れそう。
ベッドで横になりながら、会長さんの髪を乾かす綾奈先輩のことを見る。とても絵になる光景だな。先輩方が学校で人気があることを改めて納得する。
「愛花の髪は変わらず柔らかくて気持ちいいね。顔を埋めたいくらい」
「……それ、小学生のときにやったよね。私のことを後ろから抱きしめて。そのまま寝ちゃったの。結構しっかりと抱きしめられたから身動きも取れなくてね」
「へえ、綾奈先輩もそんなことをするんですね」
「全然覚えていないけれど、きっと、温かくて愛花のいい匂いがしたからそのまま寝ちゃったんだろうな」
「スヤスヤ眠っていたよ」
「じゃあ、絶対にそれが理由だ」
綾奈先輩と会長さんは楽しそうに笑っている。会長さんが羨ましいと同時に、私の髪に顔を埋めて寝てくれてもいいのにと思う。
「はい、愛花もこれでいいかな」
「ありがとう、綾奈」
「いえいえ。もうすぐ10時だけど、今くらいの時間だと百合っていつもどうしているの?」
「翌日に学校があるとこのくらいの時間に寝ちゃう日もありますね。今日みたいに翌日が休みなら、好きなアニメやドラマのDVDやBlu-rayを観たり、友達と電話やメッセージでお話ししたりしながらゆっくりすることが多いです。でも、お風呂に入って、ベッドで横になったら眠気が来ちゃいました……」
「ははっ、そっか。じゃあ、早めだけど今日はもう寝よっか」
「そ、そんな! まだいいですって。せっかくのお泊まりなのに。何だかもったいない気がします」
「百合の気持ちも分かるけど、こうして3人でのお泊まりは今回だけじゃないでしょ?」
「……そうですね」
優しい笑みを浮かべながらそう言われると、他に何も言えなくなってしまう。それに、今回だけじゃないっていう言葉がとても嬉しい。
「綾奈の言うとおりね。これからも3人でお泊まりしたいな。それに、眠たいときに寝た方が気持ちいいし、明日も元気に過ごせると思うの。あと、実を言うと私もお風呂に入ったから眠気が来ちゃって」
「愛花も眠たいんだ。じゃあ、今日は寝ましょう。そこにあるふとんを敷くから愛花もベッドでくつろいでて」
「ええ」
会長さんがベッドにやってくると、綾奈先輩はテーブルやクッションなどを動かし、ふとんを敷いていく。そのテキパキとした動きが凄いなと思った。
「うん、2人分のふとんは何とか敷けた。愛花と百合、ふとんとベッドのどっちで寝たい?」
「私はふとんでいいわ」
「私もふとんでいいです。お泊まりって感じがしますし」
本当は綾奈先輩と一緒に寝たいけど、それはいつか先輩と2人きりでお泊まりすることにときに取っておこう。
「やっぱりそうだよね。分かった。じゃあ、私がベッドで愛花と百合がふとんね」
どこで寝るかも決まったので、私達は歯を磨いて早めの就寝をすることに。会長さんが気遣ってくれたのか、私を綾奈先輩の眠るベッドに近い方に寝かせてくれる。
「こうしてみんなで寝ると修学旅行を思い出すな」
「そうですね。でも、大丈夫だったんですか? 例のサキュバス体質の影響で、夜中に襲われそうになったとか」
「私は端で寝たし、隣には愛花に寝てもらったから大丈夫だったよ。もちろん、百合のことは信用しているから」
「そ、それは嬉しい言葉ですね」
その信用を裏切らないように気を付けないと。綾奈先輩に何もしないまま一夜を明かす自信はあまりないけど。
「ねえ、百合ちゃん。枕をくっつけて寝ようよ。百合ちゃんの匂い気に入ったから」
「いいですよ」
お互いの枕をふとんの端まで動かしてくっつけ、私のかけぶとんを使うことに。会長さんは私の左腕をそっと抱いてくる。
「何か、愛花と百合は今日でとても仲良くなったね」
「ええ。百合ちゃんとは色々と話して、お互いの髪と体を洗ったからね」
「そっか。1つ後輩だけれど、愛花に仲のいい子ができて嬉しいよ」
「ふふっ。綾奈、百合ちゃん、おやすみ」
「うん、2人ともおやすみ」
「おやすみなさい」
それからすぐに綾奈先輩や会長さんの可愛らしい寝息が聞こえてくる。
綾奈先輩がすぐ近くで眠っていることの緊張やドキドキはあるけど、会長さんが私の左腕を抱いてくれていることや、彼女の可愛らしい寝顔や温もり、甘い匂いのおかげで安らぎの気持ちの方が強かった。
目を瞑るとふわふわとした感覚になり、程なくして私も眠りにつくのであった。
6月17日、日曜日。
ゆっくりと目を覚ますと薄暗い中、知らない天井が見えている。
一瞬、ここはどこなのかと思ったけれど、綾奈先輩の家に泊まりに来ているんだっけ。旅行に来たときとかはいつも「ここはどこなんだ」って思ってしまう。そういえば、今の家に住み始めてから1週間くらいもそうだったな。
「百合ちゃん……」
夢に出ているのか、会長さんは私の寝言を呟きながら気持ち良さそうに眠っている。てっきり、サキュバス体質の影響で綾奈先輩の夢を見ていると思ったけど。
そういえば、昨日寝たときのように、左側には会長さんが寝ているけど、どうして右側からも温もりを感じるんだろう。何かに右腕を掴まれているし。昨日、綾奈先輩のふとんを被ったときに嗅いだ匂いもしっかりと感じるし。
「うん……」
綾奈先輩の声がすぐ近くから聞こえてくるし。右側を見てみると、
「百合……」
綾奈先輩が気持ち良さそうに眠っていた。先輩はベッドにあったふとんを掛けている。
先輩の姿を見た瞬間、急にドキドキしてきてしまう。寝顔もとても可愛いし。この激しい鼓動で先輩が起きてしまわないかどうか心配だ。
それにしても、昨日はベッドで寝たのに、どうしてここで寝ているんだろう。寝ぼけたのかな。それとも、寂しくて私の側に来ちゃったとか。
あと、私の名前を言うってことは綾奈先輩の夢に私がいるんですか? そこではキスとか色々なことをしているんですか?
きっと、これはサキュバス体質の影響なんだろう。綾奈先輩に色々なことをしてみたくなっちゃうよ。ただ、右腕は綾奈先輩に左腕は会長さんに抱かれているのであまり身動きが取れない。すぐにできることは、綾奈先輩の髪の匂いを嗅ぐことくらいだった。
――すぅ。
綾奈先輩の髪、シャンプーの甘い匂いがして凄くいい。そのおかげで今までの中で一番といっていいくらいのいい目覚めになった気がする。
「うんっ……」
綾奈先輩はゆっくりと目を覚ました。
「百合……起きてたんだ。おはよう」
「おはようございます。ごめんなさい、起こしちゃいましたか?」
「ううん、気持ち良く目覚めたよ」
「そうですか。あの、綾奈先輩。昨日の夜はベッドにいたのにどうしてふとんに?」
「一度、夜中にお手洗いに行ったんだよ。そのときに、3人で寝るのもありかなって思ったんだ。2人が寄り添っているからスペースがあったし。それに、百合の横で寝てみたかったのもある。愛花の言うとおり、百合っていい匂いがするんだなって思った。おかげですぐに眠れたよ」
「そ、そうですか」
綾奈先輩が可愛すぎるのですが。私と一緒に寝てみたかったって言ってくれるのが嬉しくて。本当にいい目覚めになったと思う。
「まだ5時半か。今日は休日だし、私はもうちょっと寝ようかな。このまま腕を抱いていてもいい?」
「もちろんいいですよ。じゃあ、私も二度寝しちゃおうかな」
「うんうん、それがいいよ。じゃあ、おやすみ」
「おやすみなさい」
実際に眠れるか分からないけど。もし、眠ることができなければすぐ側に綾奈先輩がいる時間を楽しむことにしよう。
実際に目を瞑ってみると意外と心地よく、再び眠り始めるのであった。
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