第4話 新たな関係と……
放課後、田村と三戦ほどオセロをやった後、下駄箱へ向かって一緒に歩いていた。
「圭くん。確かにオセロ、うまくなっていましたよ。間違いなく、いい手を打ってくるようになりましたよ」
「……三連敗した俺に対して皮肉という形でトドメさそうとしているんですね。分かります」
「いやいやいや、本心ですから。そのまま回数重ねていると、そのうち勝てるようになりますよ。あ、ちなみにわたしは一切、手加減しませんから」
「でしょうね」
そんな会話をしていると、下駄箱の前で話をしている男女の姿があった。それは次郎と森で、二人で些細な話でもしていたのだろう。
「次郎、俺は用事あるから一緒に帰らんっていったよな?」
「いやぁ、別に暇だったし、お前の靴もまだそこにあるし、待ってようかなって……。そしたら、森と会ってよ」
「勝手に声かけられた挙句、先輩方を待つのに付き合わされたわけです」
森が食い気味に補足説明をしてきた。
すると田村が次郎たちの前に一歩でる。
「いいですね。じゃぁ、みんなで一緒に帰りましょうか。次郎くん、太菜さん、かまいませんよね?」
……、二人に対しても名前呼びになった。……そっか、田村は二人に対してももう友だちだと思っているわけか。
田村から聞いた話によると、森は田村に謝りに来たそうだ。仮面をつけていたとは言え、面識ない先輩に対してタメ口を付いていたことや、一切信用せず突っぱねようとしていたこととかに対して。
ただ、田村はそれを笑って無しにしたらしく、その後田村は森に対して一方的に友だちだとしてしまったのだろう。
「田村先輩……その名前で呼ばれるのは……ちょっと違和感が強すぎて……呼び捨てでいいんで、苗字にしてもらえます?」
「いいではないですか。別に太菜さんだって、わたしのことを「零士くん」と呼んでいただいても結構なんですよ?
それか、もし本当に嫌でしたら、あだ名という意味で「アリスさん」で行きましょう」
森ことアリスは一気に表情をゆがませた。
「……それはもっとやめてください……。素顔のあたしにその呼び名は……」
「……黒歴史?」
次郎が漏らした言葉に対して、森はありえないレベルの睨みを次郎に対して突き付けていた。どうやら、黒歴史になったらしい。
ちょっと妙な空気が流れかけたが、そのキッカケとなる人物はさっさと自分の靴がある棚に向かっていた。
「まぁ、皆さん。そろそろ帰りましょうよ。そこに立ってると……ほら、後ろの人につっかえ……あら?」
田村が圭たちの後ろを見て表情を少し固める。それに合わせて、圭たちも視線を後ろに向けた。
そこに立っていたのは、かつて真正面から戦ったもの。今は……なんとも言えない間柄になっている人物……。泉亜壽香の姿がそこにあった。
「ど……どうも」
戸惑いつつ頭を下げる森。だが、亜壽香はそんな森に対し少し首を傾げつつ軽く会釈で返す。そういや、亜壽香はアリスが森であることはまだ知らないんだった。
圭とは視線を合わせるものの、その横を素通りして、自分の靴を手に取る。
そんな亜壽香に対して圭はまるでどうすればいいのか分からなかった。ただ、ぼーっと突っ立って、振り返ることもできず、硬直するだけ。
だけど、次郎が圭の体を無理やり前に押し込んできた。
結果、体だけが圭の意思より前に……亜壽香へと近づいてしまう。そして振り向きざま、亜壽香と完全に目が合った。
「あ……あの……さ……」
もう、声をかけるしかないが、どんなことを話せばいいのか分からない。亜壽香も同じように戸惑うのかと思いきや、あっさりと言葉を出してくる。
「ごめん、これから用事があって。また明日……。お疲れ様」
そうシンプルにそういうと、一人昇降口を出ていった。
「仲直り、できそうですか?」
靴に履き替えた田村がひょっこりと顔を出してくる。次郎と森の圭を見る目もまた、その質問を訴えてくる。
対して、圭は深いため息をついてしまう。
「……どう……でしょう」
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