第3話 戻る仲、変わらない仲
解放者関連の契約は無事破棄。森と田村にはそのまま教室を出ていってもらい、圭と次郎二人だけで教室に居残った。
二人になった後、どう話を切り出していいのか分からず、しばらく無言の時間が過ぎていた。
なんとか、その空気を打破しようと、言葉を選ぶ。
「まぁ……その……ほんと……いろいろあったよな」
次郎は圭に顔を合わせることなく、空を見る。
「……あぁ……そー……だな」
またしばらく、沈黙が入るが、次郎は声を陰筒、椅子に座りこんだ。
「……あぁ、なんか俺…に三回くらい、圭を裏切った気がするな」
「……まぁ……そりゃぁ……な。……でも、それがなぜ起こったのかは理解しているつもりだし、……当然攻めるつもりもないよ……。大体、まったくもって気づけなかった俺も悪いんだ。
ネイティブを倒した時、俺は自身とお前を救ったつもりでいたが……次郎はまだキングダムの支配下にあった。それをまったくもって気づけなかった」
「……まぁ、俺だって気づかれるわけにはいかなかったから、全力で隠していたしな……。契約上、ばれないようにするのは絶対条件だった」
ふと、キツネの仮面をかぶる次郎、影武者の行動を思い出す。
「そして、その結果、あのバカみたいに芝居がかった影武者というキャラが出来ていたんだな」
「……アレは……忘れよっか。うん、マジで」
パッと頭の中で浮かび上がったセリフを出してみる。
「お初にお目にかかる。わたしはグループ:キングダムのリーダーを勤めている、王という物だ。以後、お見知りおきを、解放者殿」
仮面をつけるふりして、丁寧に腰を折って見せる。
「いや、なんで詳しく覚えてんだよ!? 全力で今すぐ忘れろよ!?」
「クククッ、どうやら君の黒歴史となってしまったようだね。影武者殿」
ことのほか反応がいいのでさらに責め立ててみた。
「……ったく、ざけんなよ……。じゃぁ……」
次郎も仮面をつけるふりして、顔を抑える。
「クククッ……フフフフ……。……お前の負けだとか言いました? 違いますよ……俺の勝ちだ!」
そういって、カードをめくるしぐさをする次郎。
最初はピンとこなかったが、思い返せば……うん……。
「それ……ネイティブを倒した時の俺が口走ったセリフだったか?」
「おうよ。ことのほか策がはまったお前は、テンション上がったのか、無駄に格好つけてたの、今でも覚えてるよ」
思わず頭を抑え込んだ。
「……お互い黒歴史がたくさん出来上がったわけだな……」
圭の真似をしながら笑う次郎を見て、圭も思わず笑みをこぼす。
「まぁ、でもこうやって、笑い話に出来るほどに、丸く収まったってことで……本当に……良かったよ」
そして、敢えていつも以上に明るいトーンで声をかけた。
「じゃぁ、帰ろっか」
次の日、一人でフライハイトにいた。そのまま待っていると、呼び出した人物が顔を見せてくる。
「圭くん、こんにちは。君からのお誘いなんて、嬉しいですよ」
田村零士は圭に声を掛けつつ、ある物を机の上に置いてきた。
「卵サンド。おやつにどうです? 半分ずつ分けましょう」
圭が言葉を返すより先に、袋を開け、二つ入っているうちの一つを圭に向けてくる。
「……じゃぁ……いただきます」
田村と一緒に卵サンドをかじる。たしか、田村と出会ったきっかけは、ある意味この卵サンドなのかもしれない。この出会いが田村の意図だったのか、偶然だったのかは分からないし、どうせ聞いてもこの人は答えない。
なにより、……どうでもいい。
「先輩……俺いろいろ思っていたんですけど……」
「うん? なんです?」
口についた卵をぬぐいつつ耳を傾ける田村。
その姿に少し和み、圭の表情も緩くする。
「やっぱり、俺は先輩に感謝すべきなのかなって……」
本当に田村零士との関係はいろいろ複雑だ。解放者として、共闘もしたし、暗躍もしあったし、騙しあった。でも……田村は一貫して圭のことに対しては友であると言い、最後まで圭を裏切ることはなかった。
しかし、田村はあの不敵な笑みを浮かべる。
「感謝? 何を言っているんです? そんなもの、必要ないでしょう。君は、「マラソン一緒に走ろう」と約束したのに、先走り去った友人に対して感謝の言葉を述べるんですか? 訳が分かりません」
「いや……その例えはなんか違うような……いや……言い得て妙……」
「まぁ、わたしたちの場合、その先に走り去った友人に、追い付き、さらに追い越して抜き去る。かと思えば、お互い先を奪い合いつつ、結局並走してゴールしちゃった感じですか。これは、もはやライバルでしょうか」
「……単純に抜き去るなら可愛いものでしたけどね。俺たちの場合なら、足を引っかけて転ばしたりをしていましたよね。走っているところの肩に手を置き、思いっきり後ろに言いて踏み台にしたり」
今までの圭と田村のやり取りを思い出しながら、言っていると、田村は不敵な笑みから少しひきつった笑みに変えた。
「マラソンに例えると、なかなかに壮絶な……。でも……お互いに感謝も謝罪も必要ない。わたしはこの例えでよりそれを確信しました。圭くんはどうです?」
「……そうですね……。俺も納得できました。きっと、このままでいいのでしょう。俺たちの間柄は」
気が付けば、卵サンドもすべて胃の中に入っていった。田村も最後の一口を食べると、おもむろにスマホを取ります。
「じゃぁ、ちょっと久しぶりにゲームでもしません? オセロとか」
その提案に圭はちょっとワクワクした。
「いいですよ。俺、あれからオセロちょっと勉強しましたからね。少しなら先輩を苦しませることができるかもしれませんよ」
圭のちょっとした自身に対して、田村の表情は再び不敵なものに変わる。だけど、その表情が心底ゲームを楽しもうとしているのはすぐ理解できた。
「それは面白いですね。楽しくなりそうです」
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