第11話 事前契約の事前契約

「待て……その誓い……もっとしっかりとしてもらえる方法を思いついた」


 そんなことを突如言い出した長井。


「これはあくまでエンゲーム。コントラクトを使って契約はしてもらうよ。そして、君たち偽物側にも強要したいね。方法は……こうだ」


 そう言って長井は森と王の影武者を交互に指さした。


「まず、この三人で嘘をつけない契約をさせてもらう。それをしたあと、アリス……だったかな、君には田村くんと偽物のリーダーとの集団契約にある条文を加えてもらう。内容は、


『アリスが次に行うゲームにて敗北した場合、田村くんとリーダーは、アリスと僕で行う敗北契約に参加しなければならない』


 僕は契約における第三者となるが、僕を拘束するものではないから、ルール上問題ない。王にしたさっきの話が嘘ではないなら、この集団契約に一文付け替えるのは分けないことだよね?」


「もし、俺が王にも負けたら実質、この集団契約は破棄されるぞ?」

「なら、契約の処理の順番を一番勝利者に委ねたらいい」


 なるほどね……ここに来て、随分と頭を回しだしたな、長井……。


「続いて王、君と影武者との間で追加してもらう条文は……、


『王は影武者に対して、一人グループ:キングダムの支配から解放させる権利を与えること』


 これで十分だね。ゲームが終了して終われば、あとは好きにこの条文は削除してくれて構わないよ。だけど、ゲーム中はこの条文を付け加えてもらう。無論、有無は言わせないよ。嘘も付かせない。


 君たちから出した要求なんだから。当然、答えてくれるよね? 約束が間接的な契約になるだけのことだからね」


 爽やかな笑みを浮かべつつも、しっかりと交渉を重ねてくる。やはり、こいつもガチでやばい……。変に野放しにするよりは……このエンゲームで、止めるきっかけを作っておいたほうが良さそうだ……。

 目的は……しっかり聞かせてもらうぞ……。


「クククッ、それに関して、わたしたちに拒否権はないのだろうねえ」

「もちろんそうだよ。曖昧な約束がコントラクトによる強制になっただけ。実際にしなければならないことを強制にするまでのこと」


 これ以上、ここに議論することは……ないな。


「ならさっさと処理していこうか。まずはそれぞれの代表を一人用意し、三人で嘘を付けない契約からだな。こっちはアリスを出す」


 田村は事実上、解放者ではない。今回の話ではそぐわないし、そもそもこいつに委ねる状況にはしたくない。


 続いて王側から男子生徒、影武者を差し出す。当然のように偽物からは長井本人が選出された。


 仮契約

『第一条 TOSHI(以下甲という。)、ザ・キング(以下乙という。)、543レイン(以下丙という。)は先ほど決めた約束を偽りなくこなし、その結果を嘘つかずこの教室にいる全員に報告しなければならない。

 2.乙と丙はこの契約によって追加した契約条文を一字一句たがわず報告すること。


 第二条 甲、乙及び丙はこれから行うゲームの勝敗に応じて以下の要件を提案する。

 2・甲は、乙に対しアカウント一つ文の解除、丙に対し打倒王という目的の阻害禁止。

 3.乙は、甲に対し打倒王の目的をやめること、丙に対し田村零士の契約解除。

 4.丙は、甲に対し甲の目的を教えること、乙に対し、乙の正体を明かす。


 第三条 甲、乙及び丙は、上記に述べたそれぞれの要求に対してその精算に影響が出兼ねるような嘘をついてはならない。』


 その契約が終わるとそれぞれが散らばる。影武者は教室に端にいる女子の王のもとへ。とうぜん、森は圭たちがいる方へ。


「というわけだから……、共闘契約の追加をさせてもらうよ」

 森がそう言って自分のスマホを前につき出す。


「そうですね……。まぁ、中途半端な小細工程度では見抜かれてしまうでしょう。長井敏和……わたしは直接彼と対峙したのは初めてでしたけど……油断ならない相手です」


 横目でチラリと長井のほうを見る田村。まぁ、そう思って当然だろう。既に長井のことを少し分かっていた圭ですら、再認識させられたほど……。


「もし、ここで変に小細工してバレてしまえば、一気に立場は悪くなる。素直に受けよう」



 共闘契約に条文を一つしっかり付け加える。その後、三人は再び教室の中央に立った。


「では、アリスさんからどうぞ?」

 長井が森に向けて手を伸ばす。対して、森は胸に手を当て堂々と言い放つ。


「しっかりと契約条文を追加しておいた。

『乙がこれから行うゲームにてTOSHIに敗北した場合、甲、丙は乙とTOSHIの間で行われる契約に参加しなければならない』


 これが内容だ。王側の要求である田村零士に関することは、これから行うゲームにて、田村も合わせて契約に入れれば問題ないだろう」


 森は一通り言い終える。内容に関しては本当に変わりない。嘘偽りない答えだ。

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