第5話 契約の確認
圭は田村が渡してきた条文の草案書を一瞥した。
「……内容として大まかに言えば、自分は王に加担することはしない、そう言いたいわけだな?」
「えぇ。単純に「君の味方になる」であったり、「裏切らない」「命令を聴く」であったりといった契約はルール上出来ませんからね。こういう形になるのは仕方ありません。
ですがそれでも、王に加担するようなこと、打倒王に対し不利になるようなことは絶対にしないことを、ここで誓いましょう」
……、まぁ理屈としては通っているんだがな……。実際、王と対面するとき、田村に対して一番警戒しなければならないことは、王と田村の関係であることは事実。
だけど、こいつもまた、打倒王を掲げているのも事実。田村もまたキングダムの一人であるということに、しっかり意識をむけていれば、田村に対する心配は特に必要もないのか……。
スマホにある田村との契約条文を改めて見て、その契約と合わせて、追加分の条約を並べてみる。
『共闘契約』集団契約
第一条 仮面ファイター5103(以下、甲という。)、543レイン(以下、乙という。)及びレクス(以下、丙という。)はキングダムの真の王なる人物を打倒することをこの契約で誓う。
2.そのためこの三人は共闘関係にある。
第二条 甲、乙及び丙はお互いに、キングダムの真の王なる人物を打倒するという目的を邪魔するような行動をしてはならない。
第三条 甲、乙及び丙は、この契約に関する情報を一切、口外及び発信してはならない。
第四条 コントラクトを用いたゲームをする際、丙は甲及び乙に対し、倒すべき対象である王を倒すため協力をする。
第五条 丙は全契約者の目的遂行のため、目的を妨げるような行動はいっさい行わない。
2.打倒王という目的を達成するために、最善の行動を取る。
第六条 丙は打倒対象である王と連絡を取ることをしない。
2 行うゲームの内容などで必要に迫られる場合はその限りではないが、その場合でも甲及び乙にとって目的遂行の妨げとなる、不利となるような情報通達などはいっさい行わない。
念のため、圭は一度森に顔を向けた。
「アリス、お前はどう思う?」
だが、森は適当にそっぽを向いた。
「別に、どうでも。もともと、あたしはこのロミオと組むことに賛成じゃなかったから。それを踏まえたら否定の言葉しか返ってこないよ」
「……そうだったな」
だが、言葉の綾として捉えれば、完全否定というわけではない。この条文であれば、最低限はクリアしていると評価はしていると捉えておこう。
「ですが……」
だが、そんなところに口を挟んできたのはあろう事か、田村だった。指を一本縦、圭に顔を向ける。
「今回の相手はもうひとり、偽物もいるということは十分に考えておくべきでしょうね。わたしたちとしてはこのまま王を倒せば終わりですが、偽物が何をしてくるか……。
少なくとも、今の状況だと解放者対王の戦いになっても、まず割り込んでくると考えていいと思っています」
「言われなくても分かってる。だが、ここまでの情報を整理すれば、偽物が王と繋がりを持っている可能性は比較的少ないと思っている。もしかしたら、奴もまた俺を狙ってくるかもしれないが、お前かアリスにでも足止めしてもらえば十分。
その間に王を倒せばしまいだ。
無論、繋がりの可能性が完全になくなったわけではない。むしろ、もしつながっていたなら、この状況は結構不利でもある。最新の注意は払っておくがな」
「まぁ、確かにそうですね……。偽物と王が繋がっているとしたら、これまでの行動がちょっとクサすぎますよね。繋がりを隠すというのなら、もうちょっと綺麗にやるとは思えます」
「でも、完全に繋がりの可能性を否定できているわけではないよね? むしろ、もし彼らに繋がりがあったなら、わたしたちの状況はかなり振りってことになる。敵の懐で挟み撃ちされるようなもの。
可能性は常に頭の片隅に入れておくべきだとは思う」
「それも当然だな。警戒するに越したことはない」
全く、対戦中に意識を向けておくべきことが多すぎるな……。田村に、王に、偽物。この状況じゃ、やはり田村は邪魔か……?
「ボブさん、今、わたしのこと、邪魔って思いました?」
……また観察眼か。というより、この状況だ、同じ思考に至るのも当然か。
「本当にお前は察しがいいな。なら、空気読んでこの場を退散することをおすすめするよ」
「冗談言わないでください。必ず役に立ってみせますから。注意を向けるべき相手が多いのならば、尚更わたしも使って注意の範囲を広げればいいんです」
「俺はお前に注意を向けつつ、お前が黙って報告をしないことがないように、お前が注意を向ける相手にも結局注意を向けなくてはいけないな。二度手間だ」
圭は自分で出した草案書に一条追加し始める。
「なら、第七条を追加しましょう。丙ことわたしは、王や偽物、ゲーム中に関して得た情報は全て、あなたに対して報告することを契約しておきます。
それで、どうでしょう?」
「なるほどね……。すでに俺に対して情報を隠していた事実もあるからな。この契約は確かにしておくべきだったな」
「ご理解いただきありがとうございます。今の仮想敵は王と偽物、実質二つのグループです。一方で無視の可能ですが、あなたが言ったように足止めは必要。
人手は……やはり欲しいのではないですか?」
……確かにその通りだ。実際、次郎と田村を横に並べた場合、より強いのは間違いなくこいつだ。次郎だって完全に白ではない以上……。
「少しでも妙な動きをしてみろ? 叩き出すぞ」
「嬉しいご理解と在り来りなご忠告、ありがとうございます」
こうして、最後第七条に、報告の義務を付け加え、再度こいつとの契約を交わす。時間がない、さっさと奴らのもとに向かわねば。
「……ボブ、また言いくるめられたね」
「……気に食わないのか、アリス?」
「……戦力であることには違いないし……別にいいんじゃない」
森はただそう言うと、すべてを任せるといったように、両手を圭のほうへ向けたのだった。
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