第4話 会合直前契約

 圭は自分の仮面の位置を確認するように触った。そして、耳についている隠しイヤホンとそれを隠すように深くかぶった帽子をチェック。そして、となりで同じように正体を隠す森太菜に視線を寄せた。


「よし……、問題ないな」

「えぇ」


 森が圭のとなりで頷いてみせる。


『こっちもOK』


「といってもまずやるのは田村との契約だがな」

『……本当びっくりしたよ。お前、いつのまに田村と共闘関係にあったんだよ……。よくもまあ、あんな関係の状態でよ』


 今回の話になるため、ずっと黙っていた田村との共闘関係は事前に次郎へ伝えておいていた。その次郎の反応を見るに、本当にこの関係には気がついていなかったらしい。


 まぁ、次郎からしてみれば、圭と田村の関係が際立って見えていたことが一躍かっていたのだろう


「さて……そろそろ時間だ、無駄な話はやめようか」


 圭の合図で教室内が一気に静まり返る。イヤホンの向こう側に居る次郎も黙り込み、そのときを待つ。


 やがて、ドアのノックがきたと思うと、田村零士がその教室に姿を現した。


「やぁ、直接会うのは実に久しぶりですね、解放者のアリスさんとボブさん」


「……どうも」

 圭が適当に返事をし、森がとなりで軽く会釈する。


「といっても、ボブさんとは、それ以外でも良く会っているような気がするんですけどね?」


「くだらんジョークを言うために来たんじゃないだろう。時間は押しているんだ、さっさと本題に入ろうか」


「久しぶりの再会なのに、つれないですね」


 状況を理解しているのかどうかは知らないが、不敵な笑みを浮かべながらゆっくりと近づいてくる田村。このあと、すぐ奴らとの会合があるというのに……。


 話を急がせるべく圭から話を進めていく。

「早速聞かせてもらうぞ。お前が考えてきた契約条文を示せ」


「君も考えてはくれているんですよね?」


 来た田村の言葉に対し、圭は即座に返答を返した。

「ない。俺にとってみれば、お前などなくてもいいんだ。だが、お前は俺と手を組みたんだろう? だったら、そう思えるだけの契約条文をしっかり俺に提案するんだな」


「……あくまで主導権は自分だと……いうことですね?」


「そういうことだ。だが、安心していい。お前の実力は十分理解しているつもりだ。俺に対して信頼を勝ち取れるような条文さえ作れば、メリットはあると考えてやる。


 存分に考えてきた契約条文を披露するがいい」


 あくまでこれは解放者としての戦いだ。田村によって引っ掻き回されるのはもちろん、接触的に指示されるようなことにはしたくない。

 横に奥としてもあくまで補佐だ。


「そうですか……では、まず信頼を勝ち取るため、というわけではないですが、例のことに関する報告を行っておきましょう」


「……例のこと?」

「はい。長井に付けたわたしの友人の話についてです」


 圭はその言葉に対し、「あぁ」と声を漏らす。

「やっとか……全くそのことについて連絡が来なかったら、てっきり失敗でもしていたのかと思っていましたよ」


「すみません……、でも、失敗というのもあながち間違いではないのでしょうけどね……たいした情報は得られずきていたので、報告するのも無駄かな……と」


 この立場なら本来、重要かどうかは圭が判断することだろうが……。大体、重要な話くらいあっただろう。

「あぁ、いい。さっさと話せ。手短にな」


 本来ならこんな話を聞いている場合ではないだろう。だが、何も知らない解放者ボブとしては聞かざるを得ないこと……。全く、理不尽なことだ。


「まぁ、大きな話としてはその友人は、王と出会っていたということでしょうか。といっても、友人の話から察するにおそらく影武者のほうかと……。フライハイトでの会合で顔を出した彼だと思います」


 まったく、なんて目新しさのない情報だ。

「……それは重要な話ではないのか? なぜ、さっさと話さなかった?」


「まぁ、すでに電話でも話したと思うんですが、おそらく偽物はいずれ王と、少なくともその影武者と接触するであろうことは考えていたんじゃないんですか?」


「……あくまで王と偽物の繋がりがないならば、という話だろ? 直接会ったという情報があればその繋がりを否定する根拠になる」


 そんな感じで、結局圭がすでに知っている情報が適当にバラバラと話される時間がただ、過ぎた。


「……で? 隠していた話は確かに聞いたが、これでお前と共闘してエンゲームに挑もうとは到底思えないぞ?」


「まぁ、慌てないでくださいよ。あくまで説得するのは条文での話。落ち着いてわたしの本題を聞いてください」


 一番最初から本題に入れといって言っていただろうが。


「そうか……内容は?」

「こちらになります」


 田村はすでに用意していたらしい紙を取り出した。そこには契約条文が記されている。


 すでにある契約のあとに続く四条から。

 甲は圭、乙は森、丙は田村のアカウントを指す。


『第四条 コントラクトを用いたゲームをする際、丙は甲及び乙に対し、、倒すべき対象である王を倒すため協力をする。


第五条 丙は全契約者の目的遂行のため、目的を妨げるような行動はいっさい行わない。

 2.打倒王という目的を達成するために、最善の行動を取る。


第六条 丙は打倒対象である王と連絡を取ることをしない。

 2 行うゲームの内容などで必要に迫られる場合はその限りではないが、その場合でも甲及び乙にとって目的遂行の妨げとなる、不利となるような情報通達などはいっさい行わない』


「こんな感じで……どうでしょうか?」

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