第3章 偽解放者の側近で

第1話 圭と田村、ボブと田村

 また田村に呼び出された圭は、再びフライハイトにいた。


「で、どうなりました?」

 田村が圭のほうに身を乗り出し、現状報告を望んでくる。


 それに対して、特に嘘をつく理由はないので、素直に長井とのことを説明した。長井は現状、圭に疑いをかけているということ。長井の手伝いをすることになったということ。


 また、圭に置かれている現状(ガラケーのみ、次郎のことを思って行動にでたこと)を長井に話したことも含めて。


「ほう……なるほど……」

 圭の説明を一通り聞き終えた田村が何度も首を縦に振った。


「やっぱり……長井敏和……彼は只者ではないらしいですね。その話を聞く限りでは……本気で支配する側の人たちを片っ端から倒そうと考えている可能性すら……ありますよね」


「そうですよね……。あのの感じは、ただの遊びってことはないと思います」


 ただ、問題なのは、田村が言う支配する人らを倒すというのが、目的である可能性。奴が本物の解放者であるするなら、その答えに行き着くだろうが、事実は違う。


 であれば、やはり本物の解放者をおびき寄せようするのが、第一に目的である可能性が高い。


 ただ、そのことを長井が明かすことはないだろうし、ここでその話題が上がることもない。


「ちなみに、今後、彼のことを手伝うということですが……、具体的な話は聞いていますか?」


 圭はその言葉に対し、ああと思いながらガラケーを田村の前に出した。電話帳から登録された長井の電話番号を見せた。


「まだ具体的な話は聞いていません。俺に何をしてもらうかは、これから考えるらしいです。で、またこの連絡先から電話が来ることになっています」


「そうですか。まぁ、話としてはこれからということですね」


 それなりに満足しているというように、笑みを浮かべる田村。実際、さぞかし自分は田村の思惑通り動いていることなのだろう。


 そこで、一応次の質問をしてみた。

「ところで、先輩の目的って、これで達成したことになりませんか?」

 この回答がどうであれ、圭の行動が変わることはない。だが、これに対して田村はどう思っているのか……。


 無論、この圭と田村の関係は、互いに嘘を付き合っている間柄である以上、考察の一要素でしかないが。


「解放者を名乗る彼らの目的を確かめるという目的のことですか? それに関しては、まだ完全に解明されたわけではありませんけどね」


「……なぜです? 彼らは支配する側の人たちを倒すのが、彼らから解放するのが目的だろうと、先輩を言いましたよね?

 それであれば、それでいいのでしょう? 先輩は、彼らの手助けをするために動くというわけじゃないんですか?」


「確信に至っていないというのが、現状ですけどね。なにより、彼らがどうやって解放に導くのか、その方法も分かっていませんし」


 そう言いながら田村は圭に軽く指を向ける。


「だからこそ、君には引き続き彼との接触を続けていただきたいと思います。といっても、君にとっても、彼に近づくのにたいしたデメリットはないはず。

 次郎くんのことを考えれば、そのまま彼の手伝いをするという選択肢しかないと思いますしね」


 まったくもってその通りだ。今の圭の設定上、これを降りるという選択肢はない。降りたらそこで、本当はコントラクトと関係ありました、ってことになりかねない。


「じゃあ、このまま彼の手伝いをしていけばいいんですね?」

「ええ。お願いします。きっと君にとっても有益な話になっていると思いますよ。ご武運を祈っています」


 そう言って、田村は最後に不敵な笑みをかますことを忘れなかった。



 その日の帰宅後、自宅の部屋にてスマホからLIONを通じて通話が入ってきていた。当然のように相手は田村。

 思わず溜息をついてしまう。


「……本当に忙しいことで。お互いに」


 圭は解放者ボブである自分に頭を切り替え、通話ボタンを押した。


『やぁ、こんにちは。本物の解放者さん』

「ご丁寧にどうも。で、なんのようだ?」


 しっかり、さっきまでの圭とは違う雰囲気を出しながら言葉を出す。


『いやぁ、あれから、どうなったのかな、と思いまして』

「まだ、たいした情報は得てない。名前とかそんな程度だ」


『そうですか。では、そんな君にわたしからご報告があります』

 一度椅子に座り直し、スマホを耳に当てなおす。

「報告?」


『はい。実は、わたしの友人にスマホを持っていない、すなわちコントラクトと完全に無関係な人がいるんです。そんな彼に対して、偽物との接触のお願いをしました』


 ……思いっきり圭のことである。

「都合のいい友人がいるもんだ。まだガラケー持っている奴いるのか?」


『あれ? スマホを持っていないとは言いましたけど、ガラケーを持ってるとは一言も言っていませんけど? そもそも携帯機器を持っていないというのも可能性として上がりませんか?』


 ……マジクソ。ちょっとイラっとした。

「……で、なにか情報は得られたのか?」


『ふふふっ、ええ得られました。彼の話を聴く限り、どうやら彼らは君、本物の解放者をおびき寄せようとしているみたいですね』


「……ほう……どうしてそういう結論になった?」


『今は過程などどうでもいいでしょう。とにかく、彼らの狙いは君である可能性が高くなったんです。


 警戒はしっかりしてくださいよ。探りを入れるために、自ら接触しにいくのは、くれぐれも避けてください。彼の思うツボになりかねません。

 それとも、もしかして既に彼らに接触を始めたりしちゃってます?』


 お前がそうさせたんだろうが。

「安心しろ。愚直な行動はとってない」


『そうですか、それは良かった。では、また。なにか情報が入り次第』

 最後にそう締めくくると、田村は通話を切ってきた。


 にしても……本当に最低限だけの情報だったな。これでもし、小林圭と田村しか知らない情報をうっかり、解放者ボブが出したら疑われるわけか……。

 まったく、随所にアミを仕掛けてくる奴だよ……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る