第4話 疑心暗鬼
森と圭、お互い田村との接触の準備を終えた。
「では、頼むぞ。俺はここからお前に指示を出す」
森は圭の言葉に頷きで返した。
「その前に、ひとつだけ気になっていることがあるんだけど」
「……気になること?」
森は改めて圭の前に立つと、控えめな声で話し始めた。
「あの仮の王とのエンゲームでの話。あの時、確かにあたしは仮の王たちのイカサマが、トランプの裏面にあると推測していた。
でも……、もう一つ、推測できた可能性があった」
森は指を一本立てる。
「チャーリー……いや、ボブというべきかな……、彼の裏切り……または買収……。奴らと手を組んで、情報を流していた可能性」
圭は森の言葉を聞き、目をそっと閉じた。チャーリーだろうとボブだろうと、言いたいことは分かる。すなわち次郎。
「……とりあえず、チャーリーでいいだろう。ロミオたちの前に立つ以上、俺がボブだ。そして……その可能性は……」
圭は口を噤んだが、森は続けてきた。
「今は解放者契約をし直しているけど、あのエンゲーム時では集団契約がされていなかった。もし、チャーリーが仮の王と手を組んでいた場合、情報を漏らすのはたやすいこと。
そして、あたしたちがチャーリーに手札を見せなくなったとたん、勝機が訪れるようになった。
おまけで、解放者契約はチャーリー(次郎)の提案で解除していた」
……これに関しては圭もゲーム中考えていたもう一つの可能性だ。トランプのイカサマを森が言った時の仮の王たちの反応を見る限り、もう一つの可能性は薄くなったとは思った。
だが、トランプにイカサマがあったと、確信できたわけではない。当然、次郎が裏切っていないと、証明する手段もない。
「これって、ボブ。あなたも考えていた可能性だったのでは? でなければ、ここにチャーリーも呼んでいたはず」
圭は言葉を返せなかった。まったくもってその通りだったからだ。
「可能性は……薄いと思っているがな」
「それは彼が友人だから、だよね? もっと客観的に見たほうがいい」
森は少しため息をつきながら机に軽く腰掛けた。
「でも、このままチャーリーを放っておくわけにはいかない。できる限り早く彼が白なのか黒なのか、はっきりさせないと。
解放者として動くにも弊害が多すぎる。しかも、そんな中でブラックボックスであるロミオにも接触しようとしているのだから。
とにかく、冷静に物事を見るのを、お互い欠かしたら終わり」
「言われなくても分かっている……、チャーリーも、ロミオも……味方になってくれるのか……いや、キングダムを倒す上で利用できるかどうか、しっかり見極めていくつもりだ」
「……いいね、それ」
森は意味深に少し笑った。
しばらく圭と森の間で沈黙が訪れたが、やがて森は腰掛けていた机から離れた。そのまま、教室のドアに向かっていく。
「じゃ、解放者に協力したいという、レクスくんに会ってこようかな」
森は圭に向かって手を挙げ、ドアに手を掛けようとする。
「待て」
そんな森を圭は止めた。
「冷静に物事を見る、それをした上で、お前に問いただしておきたいことができた」
「……なにを?」
圭は森がドアに掛けていた手を話したのを確認し、続ける。
「お前、俺とボブの間……解放者の間の関係を崩しにかかっているんじゃないだろうな?」
疑えばキリがないのはわかる。だが、それこそ客観的に見れば森が次郎に疑いを持たせるように働かせているように捉えることもできる。圭に次郎を敵視させ、内部崩壊を目論む……とか。
森はいたって真剣に圭と向き合ってきた。
「もちろん、そんなつもりはない。なんてセリフは期待してないよね。ここで「そのつもりだ」なんていう訳もないから、このセリフに意味はない」
そして森は再び圭の前に立った。
「それが本当かどうかは、ボブが直接チャーリーを見るしかない。ボブからしっかりとチャーリーを見て、白黒はっきりさせればいい。
そして、それに関して言えばあたしこそ、問いただしたい」
森はゆっくりと圭に指先を向けた。
「君こそ、内部崩壊を企んでいたりしない? チャーリーが白黒つかない状態で、謎のロミオまで取り込もうなんて……リスクが大きいように思える。
無論、今のあたしには君が解放者を崩壊させる動機も見つけられないけど」
確かにそれに関しては返す言葉が見当たらない。森から見ればリスクが大きいと思えるだろう。
でも、圭から見たら……田村の力を見ている圭からすれば、リスクを追ってでも確かめたい逸材なのだ。
それは、森も田村と真正面から接触すれば、わかることだろう。
だが、今それを証明する手立てはない。
「解放者は俺が作り上げたグループだ。何が何でも、キングダムを倒してやるさ。お前の真の目的もそれのはずだ」
だからこそ、別の言葉で信用を促すほかない。
「ふっ。その解放者というグループ。疑心暗鬼の塊に向かって行かないことを祈っているよ」
森は最後にそう言うと、教室を出て行った。
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