第4章 エンゲーム・タッグポーカー
第1話 仮の王チーム、対面
次郎にはゲームが行われる場所からは距離も棟も離れている別の教室に入ってもらう。対して、圭と森は約束通りの教室に入っていった。
時間にして四時十八分。
予想外の事態が発覚したため、解放者契約の解除や契約修正を行っていた。その結果、想定と違い、ぎりぎりの時間になっていた。
おかげで敵さんは既に机椅子をセッティングした状態で座って待っている状態。
四つの机が四角くピッタリくっつけ並べられている。そして、その四つの角に椅子。
その中の二つの席に三年生の生徒が座っていた。ちょうど、向こう側の席二つに並んで座っている。
一人はターゲットだったあの女子生徒。垢抜けた茶髪カールを巻く……仮の王。
そしてもうひとりは……男子生徒……。
その姿を見て……反応しかけたところをぐっとこらえた。
しかし……ちょっとばかし、しつこくないか? ええ? 田村……零士!!
不敵な笑みを浮かべて、こちらに視線を寄せてくる田村。対してこちらは極力無反応を貫いた。
隣にいる森が「何者?」とでも聞くように視線を向けてくるが、それに答えることもなくただ相手と向かい合う。
しかし……これは、どういうことだ? なぜ、田村零士が……?
いや……考えるまでもなかったな。田村が圭に接近してきたのは仮の王の指示だったんだ。圭の友になろうとしたのも、あのプロファイリングみたいな行動も、圭が解放者であるかどうかを探るために、仮の王が仕掛けたもの。
そして今、仮の王に従う一人として、このゲームに参加した。
可能性としては挙がっていたんだ。田村が仮の王の刺客という可能性は……。でも……勝手にその可能性を目で瞑っていた。無意識のうちに、可能性は低い……そんな風に思っていた。
「やぁ、待ってたよ。それとも、先にここにいたらまずかったかな?」
仮の王は立ち上がり、着席を促すよう手を差し伸べる。
かと思ったのだが、その手から、いくつもの物体が床に向かって放り投げられた。
その数、数十個。小さいものがゴロゴロと無造作に巻かれる。
「随分と用意したんだね。用意周到なこと……。もしかして、解放者って暇人だったのかな?」
あらら……ざっと見る限り、隠しカメラはほとんどむしり取られたみたい。フックに偽装された隠しカメラとかもご丁寧に取られている。
『確かに大半のカメラは失われた……けど、一ついい場所にあるのが残ってる。この場所であれば、相手の手札も見れるかも』
無線イヤホンに次郎の声が聞こえてきた。よかった、まだ残っている。やはり、数打ったのは正解だったらしい。
「本当にたっくさん。いっぱいつければ全て取られない、なんて思っていたのかもしれないね……」
仮の王が優しい笑みを浮かべながらそう言う。
「ね!!」
『ひっ!!?』
と思えば、仮の王が彼女の背後へ一気に顔を近づけた。それと同時にイヤホンから聞こえた次郎の驚愕。
「ざ~んね~ん、ちゃんと見つけたよ、これも……」
そう言って仮の王が取り上げたのは黒板消し。確かに……そこにも監視カメラは仕込んであった。
仮の王は机の中から白い布の袋を取り出すとその黒板消しを入れる。そして、それを隣にいる田村に差し出す。
「了解」
田村はそう言うと、しゃがみ込み、さっき仮の王がばら撒いた監視カメラの袋の中に入れ始めた。
「結構、高価だったんだろうからね。壊さないであげる。本来なら念のため全て壊したいんだけど、お姉さん、やさしいから」
「……それはどうも」
森がそう呟きながらさりげなく一つ監視カメラを拾おうとしたが、田村に手を掴まれていた。森はため息をつきつつも、田村にそれも渡している。
『まともなカメラは……全て取られた』
晴れて次郎からそう宣告された。
この様子だと、彼らは時間たっぷり監視カメラ探しに費やしたらしい。
数打てばいくらかは残ると思っていたんだけどな……。
だが、これは逆に考えよう。監視カメラを全力で探して外した。ならば、相手はイカサマ自体を契約で阻止する気はないということになる。
イカサマを阻止すれば、監視カメラは使えないのだから、わざわざ外さなくてもいい。
少なくとも、こんな不確定な方法に時間をとった時点で、監視カメラを契約で制限するつもりはないと見られる。
すなわち、胸ポケットに挿してある、ペン型の監視カメラはゲームでも……利用可能。
それを確信したあと、森から順に並べられた椅子に座った。
そんな様子を見た仮の王もすぐに席に着く。監視カメラを全て回収し終えた田村が遅れて席についた。
全員が着席した頃、仮の王がスマホをおもむろに取り出した。
「なら、早速はじめよう。まずは契約の改正からだね。エンゲーム事前契約をエンゲームのための契約に改正するとしようか」
仮の王は仕切りなおすように一つ席を払い、説明を始めてきた。
仮の王はスマホを机に置き、説明を始める。
「このゲームにおいて、こちらとして絶対に守ってもらいたいこと。それはタッグ同士の意思疎通の制限。
お互いの手札を見ること、そしてタッグ相手にアクションの指示を出すことは禁止とさせてもらうから。
あからさまなジェスチャーなどで意思を伝えることも禁止とする。タッグ相手の表情などを読み取って、行動を考えるのはOKってことで。
そこの範囲の裁量は、相手次第ね。
まあ、と言ってもその仮面かぶっている状態じゃ、お互い考えていることなど分からないだろうけど?」
「……」
「どうする? 取るなら今の内だけど? このゲーム、相手にポーカーフェイスを通すのも大切だけど、それ以上に仲間との数少ない意思疎通も重要になってくるよ? 身振り手振りは絶対許さないから」
なるほど……、仮面を取らせようって魂胆がこのゲーム内容にあるわけか……。だが、そんな挑発に乗るわけもないだろう。大体仮面をかぶることで相手に表情を読まれにくいというメリットも存在するのだ。外す理由はない。
「このままで結構です」
森は続けてくれ、と言うように手を促した。
「そう。ちなみに、もし、ショーダウン以外でホールカード、すなわち手札を公開してしまった場合、その一戦はやり直しとするからね」
「分かりました。了承しましょう。その代わり、こちらもひとつ要求します」
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