第7話 ゲームの約束
森がこちらの条件を提示したことで、ターゲットは感嘆の声を漏らした。
『その条件から察するに、わたしから順に少しずつ王に近づいていこうという算段かな? いや、わたしよりも下からこれが続いてきて、わたしにたどり着いたの?』
『そこはご想像におまかせします。
しかし、あなただって、支配されている立場でしょ? もともとは結束集団を推進する一人だった。でも今は支配することを肯定するような行動をしている。それは……あなたもまた支配され、そうせざるを得ないから。
わたしが……あなたも解放して見せましょう。あなただって、本当は支配するのはいやなはずですよ』
『わたしが? どうかな。少なくとも、今のわたしは今の王にしたがっているけどね。
にしても……君って、キングダムのメンバーなの? というより、その話し方だと、わたしが知っている人なのかな、君は? 私からみた下の立場のひとり?』
まあ、そう察するだろうな。その誘導が狙いだ。よし、この線を信じ込ませるためにするべきセリフは、それは……、
「ノーコメントで」
『ノーコメントで』
『……そうか』
何か言いたそうながらもそこ言葉だけが流れて来た
『でも、エンゲーム、受けようかな。ゲームの内容をわたしが決める』
『そうですか。それは良かったです』
『ただし、ひとつ条件がある』
『なに!?』「なに!?」
そんな言葉を発したのは森と圭同時だった。
『二人。お互い、自分を含め、プレイヤーを二人用意した上でゲームをやろう』
二人? どういうことだ? まさか、解放者が二人以上いると感づいているのか? なぜ、二人の指示を出した!? くそ、森はポーカーフェイスでいてくれているだろうな。
『二人、なぜ二人なのですか?』
圭の頭の中で、右手をチョキの形で二を表しながら笑みを浮かべるターゲットの姿が出来上がる。
『わたしがしたいゲームが二対二のタッグ戦になるだけだよ』
この状況をどうすべきか、瞬時に思考し、森へ伝える。
「こっちは一人しかいないと言え」
『すみません。わたし、解放者は一人しかいないんです。残念ですが、二人……もう一人を用意することはできません』
『騙すなり、正体を明かすなりして無理矢理でももう一人集めてもらおうかな』
『むちゃくちゃですね……』
なるほどね……解放者に関係する人物を無理やり増やすのが狙いか? いや、適当に作ったタッグでは勝てないゲームでも仕込むつもりか……。
『ゲーム内容はこっちで決めていいんだよね? なら、二人で行うゲームをするというのも内容の内。何か言い分が間違っているかな?』
『わたしはあなたを開放したいだけ。なぜそれを拒むようなことを?』
『……契約だからね』
……契約だから、それは……キングダムのリーダー、王の意思ということ。王に従い、敵を返り討ちにする。
ターゲットの彼女は、ただそれを遂行するために行動する。
圭は顎に手を当てながらも、そっと伝えた。
「アリス。その条件を呑め」
『……分かりました。その条件で呑みましょう』
『ありがとう、助かる。あと、悪いけど、ゲームの日にちを今日とかに設定しないでよね』
『まあ、それはこちらの都合も悪いですしね。というか、日にちを今日にさせないようにするのも、目的の一つだったのでは? その二人ルールには……』
『さあ、ノーコメント』
「よし、事前契約に持ち込もう。頼むぞ」
『では、契約を行いましょうか。いずれ、エンゲームをするという事前契約を』
『やっぱりするの…、分かった…。契約の改正?』
『え? いえ、新規の個々契約ですよ。さあ、契約を結びましょう。
内容は……「お互いゲームをするにあたり、それぞれ自分を含め二人ずつプレイヤーを集めること」、「ゲーム内容はそちらが決める」「ゲームの日時時間はこちらが決める」という内容でいいでしょうか?』
『……構わない。それでいこう』
『それにプラス、「わたしがあなたを支配している人物の情報をほしがっているという事実を伏せる」契約をさせていただきます。契約で情報を口外するな、なんてものを今から結ばれたりしたら話になりませんからね』
『……、なるほど、用心深いですね。本当に、君が解放者なんだと実感してきたよ、本当に』
『分って頂けて何よりです。では、この内容で契約を』
『えぇ、同意しよう』
そんなやり取りを聞いて圭は安堵のため息をつく。そのまま、音を立てないようゆっくりと壁にもたれた。
あとは……無事、契約を済ませた森が返ってくるのを待つだけだ。
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