第5話 作戦内容
一度、田村零士に邪魔されたが、その後も張り込みを続けた結果、仮の王の学年、組を突き止めていた。
といっても、それは後をつければすぐわかることなので大した苦労はなかった。
また、奴の下駄箱の場所まで突き止められていた。
と、いうわけで。
「お前らいいか?」
昼休み、作戦の準備を兼ねて例の二人を集めていた。
髪型が分からないよう深く帽子をかぶりながら圭が問う。顔はマスクで隠され、スリッパは市販のもの。二人も似たような格好でいた。すなわち、契約により今、圭たちは解放者としてこの場に立っているというわけだ。
「まず、ボブ。お前に俺のケータイを預ける。その代り、お前のスマホを貸してくれ」
「……へ?」
突然の申し出に次郎は困惑気味。それに対し有無言わさずに圭のケータイを握らせる。
「お前には放課後、ターゲットを下駄箱から尾行してもらう。ターゲットの下駄箱にこの手紙を置いて、これに対してどう反応するか確認しろ。そして、動き出したらこのケータイを使って連絡を入れてくれ。入れる先はボブのスマホだ」
そういって圭はその紙を見せた。内容はこうだ。
『君をキングダムの重要人と見たうえで告ぐ。わたしは解放者だ。もし、興味があるのならば、特別棟四階、西から二番目の教室で待つ』
それを見たアリスこと森が首をかしげた。
「これで相手は動く? 正直言ってあたしがターゲットの立場なら無視するかも」
「いや、奴からすればこば……学生としての俺に「君が解放者なのか?」という鎌をかけたそのあと、すぐこの手紙が来ることになる。
この手紙を読めば、奴の中で小林圭(俺のこと)=解放者という方程式の完成度が増すはず。だからこそ、それを確かめるためにも、奴はくると思う。ある意味、俺が餌ということだな」
「……なるほど」
森はこの作戦に納得してくれたようだが、次郎はまだ首をかしげている。
「でも、なんで俺がお前のケータイを使う必要が?」
「この部屋を盗聴するため……と言えば大げさかな。アリスがターゲットとこの教室で接触するときに、アリスには俺のスマホを自分のスマホの代わりに使ってもらう。
そして、アリスのスマホはアリス自身に隠し持ってもらう。このアリスのスマホとボブのスマホをLIONアプリでできる無料通話状態にしてな。
んで、
そういって圭は購入してあったケーブルすらない完全な無線イヤホンを取り出した。アリスのスマホにイヤホンと連動させた端末を差し込み、森に渡す。
「髪と帽子でしっかりイヤホンは隠してくれ。隣の教室でアリスが隠し持つアリスのスマホから俺が聞きながら状況に応じてボブのスマホから指示を送る」
「ややこしいな。お前のケータイとスマホをつなげてもいいんじゃね? それかアリスの」
「無理だ。まず、俺のスマホはデータ通信のみだからケータイと繋がらない。それにアリスには接触の過程でターゲットとエンゲームの事前契約をおこなってもらうつもりだ。
だが、アリスは既にターゲットと個々契約を結んでいる。ゆえに俺のアカウントを利用して「仮面ファイター5103」としてアリスに契約を結んでもらうんだ」
「ああ……そうか……。でも、そんなこと可能なのか?」
「コントラクトのルール上は問題ない。代理アカウントを利用する契約は無理となっているが、それはあくまで俺のアカウントでアリスの契約を結ぶのが不可能というだけ。アリスのスマホを利用して俺がアリスの契約を結ぶのは可能だ。
この場合、契約を結ぶのはアリスになる」
「待って。あたしにそんな大役を任せてもいいの? あたしにあなたのスマホを預けるなんて……それ、もしあたしが裏切ったら」
「その通りだ。その状況になれば、アリスは簡単に裏切れるぞ。コントラクトはその裏切りをさせないようにする力はない」
「事前にこの契約だけはさせてもらう。あとはアリスを信用するしかないな」
そう言って圭は自分のスマホである解放者契約にある条文を付け加えた。
『第七条 甲、乙及び丙は解放者として動く作戦のために自分以外のメンバーのケータイ及びスマホを手にした場合、作戦のために必要な最低限以外の機能は使用してはならない。』
「まあ、それは必要だな。他人にスマホを預けるわけだから」
「と言うわけだ。アリス。お前を無条件に信用する。いいな?」
「……分かった」
森の了承を得たことで、圭のスマホと無線イヤホンを持たせた森太菜、次郎のケータイを持たせた西田次郎、そして次郎のスマホを持った小林圭は放課後の作戦決行に向けて動いた。
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