第7話 キングダム
森にキングダムの情報を話して持っている状況は続く。
「で……まあ、そういう目的でキングダムは結成されていたということは間違いありません」
そういう目的とは、被支配を減らす、支配を逃れるということを言っている。
「でもよ、ネイティブにも支配されていたんだろ?」
次郎はまた森に質問をしてきた。圭はそれにさっさと答えてやる。
「それも考えたらすぐわかる。三分の二ルールである以上、三分の一は同じでも問題ないということになるだろう。まだ分からないなら、さっきのと合わせて自宅で考えておけ。宿題だ」
「え~、宿題? やだな、ただでさえ多いのに」
なんて次郎が言っていると森は大きく咳払いをし、話を続けてきた。
「言ったように、キングダムは形だけのグループで特に活動もなかったんですが、あるときを境に、一気に形態が変化してしまいます。突如として、キングダムは支配する側のグループになっていきました」
「……具体的な過程は?」
「別に、過程っていうのほどのものもありません。一瞬でした」
森は一度、水を口に入れた。
「あるとき、キングダムのグループチャットにメッセージが寄せられました。「キングダムのリーダーは交代した。これからはわたしの指示に従ってもらう」といった意味合いのものです。
ちなみに、キングダムのグループチャットは匿名での発言が可能な設定で、そのメッセージ自体は匿名でした」
「ん? それって、ただのイタズラとかじゃねえのか?」
次郎が質問を重ねると森は小さく首を横に振った。
「実際、その後契約内容が変わっていきましたので」
とここで、森が自分で自分のセリフに割って「あっ」と声をあげた。
「重要なことを言っていなかったですね。キングダムの組織形態の話です」
「「組織形態?」」
圭と次郎は同時に反応していた。
「はい。キングダムはネイティブとは形式が異なっていました。ひとつの集団契約にまとめられているのは同じですが、それとは別で個々契約が上下関係付きで結ばされていました。
ひとつのアカウントから下につく複数のアカウント、さらにその下の……というピラミッド式の個々契約です」
「……うん? それはどういう意図があってのことだ?」
「情報伝達のためです。キングダムというグループ自体はあたしが入学するより前からあったみたいで、昔はお互いに支配からのがれるための情報共有をコントラクト通して行われていたと聞いています」
「ふむ……いや、腑に落ちないな。情報共有なら集団契約してしまえば、それで十分だろう。グループチャットもあるんだ。一括ですべて解決する」
「グループチャットは匿名での発言が可能の設定になっている、それは言いましたよね? そして、大体指示が出来る時も匿名で出されます。
おそらく、指示を出すグループ内のリーダーとなる人物、すなわち「王」が誰なのかを分からせないためでしょう。
でも、匿名による指示など誰も信用しませんよね? なので、全体は匿名で指示を出しておきながら、実際の支持は個々契約で繋がっているピラミッドに従って、下に指示が降りていくようになっていたわけです」
森が説明してくれている内容を頭の中でしっかり整理していった。
「王は自分のアカウントを特定されたくない……だが、グループの中心人物として、支持や情報展開はしたかった。ゆえにピラミッド組織を形成した。
王本人が出した指示ならば、ピラミッド式で全員に伝わる。だが、もし王以外の人物が勝手に王のフリをして匿名で指示を出したとしても、王は個々契約でピラミッドの下の情報展開をしないから、全体に行き渡ることはない。
そして、王のふりをした人物が下に情報を流したとしても、全体の話とは食い違いが生じるため、嘘の情報が流れているということも確認できる……というわけか。また、嘘情報は全体に行き渡るのを阻止できる。
言ってしまえば、チャットで全体に指示が下った後、個々契約の上から情報が来て、初めてその指示に効力がつくわけだ」
「その通りです」
次郎は少し首をかしげているみたいだが、それでも一部首を縦に頷かせているので、大体の雰囲気は掴めているのだろう。ならば、そのままでよかろう。
「そして、王以外がなにか提案がある、全体に報告したいことがある場合、上の人へ順に報告されていき、最終的に王に行き渡ったあと、展開されることになっているみたいですね」
「なるほど……本当に会社のピラミッド組織みたいになっているわけだ」
「そうですね。あと、これが具体的な個々契約の内容です。元のですが」
そう言って、用意していたのであろう紙とペンで契約の内容をさらっと書き記してきた。
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