第5話 お前は解放者か?

「君、わたしが王であるということを……話したみたいだね」

 素敵な笑顔に確かな威圧を感じる。


「まぁ……そうですね」

 下手に誤魔化そうとすれば余計不自然になる。ここはもう、はっきりと認めたほうがいいだろう。


「これで、ますます君が解放者である線が濃厚になったね。何パーセントぐらいになったかなぁ」

「なぜ、それだけで俺が解放者になるんですか?」


 女子生徒は笑みを浮かべたまま、肘をついて身を乗り出した。


「言ったよね。君が本当にコントラクトと関係がないというのなら、わたしが王であるということ、誰にも言う必要なんてなかった。


 でも、実際は西田君に話していた。少なくとも西田君と君の間で、コントラクトのことについてなにかしら話題にあがっている、ということだよね。それに、この情報は、コントラクトの影響を受けていれば入れるほど、意味ある情報になる」


「勘違いしないでいただきたい。俺は親しい友人に、話のネタの一つとして話題にあげたまでですよ。


 いきなり、名前も知らないかわいい先輩女子に声をかけられた。

 それこそ俺たちみたいな年頃男子にとったら話題に挙がるにふさわしい、意味ある情報だと思いますよ?」


「あら、そう。わたしのこと、かわいいって言ってくれるの? うれしいね。解放者くん?」

「しつこいですね。ガラケーの俺に対する遠まわしの侮辱だったりします?」

「しつこい女子は嫌われたりするのかな?」

「さぁ、どうでしょうね」


 流石に圭と女子生徒の間にただならない雰囲気を感じ、既に動けないでいる次郎がいた。そんな次郎には一切触れず、女子生徒と顔を合わせ続ける。


「俺はコントラクトとはなんの関わりもない。ガラケーだし、興味もない。だからこそ、どうでもいい他愛もない会話で話してみただけですよ。

 もし、あの時俺が嘘をついて、本当はコントラクトと関係を持っていたら、それこそ警戒して次郎にも話したりなんか、しなかったですよ。そうは思いませんか?」


「どうかな……君の言うことも一理ある。でも……わたしから見た君って、君の立場がどうであれ、かなり考えて行動するタイプだと思っているんだよね」

「……それは買いかぶり過ぎでは?」


 おどけたように笑ってみせるが、女子生徒は人差し指を圭の胸元に突きつけてきた。


「いや、そうでなかったら、あそこで、あのタイミングで自分の疑いを晴らすために、わざわざガラケーを見せてアピールなどしなかったと思うのね。少なくともその発想にいたれるということは、回転数がどうであれ、君は思考して行動するタイプ。


 そして、もし君が本当にスマホを持っていない、コントラクトとは無縁だったとしたら、中途半端に……これ以上妙に誤解されないようにするためにも、君はわたしが王であることは絶対に言わなかったと思う。自分から誤解されるような、冤罪を促すような行動を取るとは思えない。


 でも、実際はこうして、友人に打ち明けていた。ということは……それがやはり、重要な情報になり得た。誤解される可能性を与えてでも、西田君に伝えるべき情報だった。


 ひとえに、君はやはり、コントラクトに関わっているんじゃないのかな? スマホを持っていようが、いまいがね」


 ……。


「それともう一つ、言っておこうかな。君がネイティブの一員……だった可能性は……まだ十分わたしの中では残っている。あの状況じゃ、君がネイティブの一員でないと、確証を得るものは何一つとしてないからね。


 ガラケーしか持っていなと言っているけど、スマホを持っていないという証明はないし、おそらく、ないことを証明することもできない。そういった面々から、あの誤魔化したという結果を踏まえると、君に何かしらを感じているのは……確かだよ」


「……なるほど」

 まあ、圭自身も自分のとった行動が、ごまかし方に怪しさが募っていることは十分察していた。その怪しいという部分にこの人は注目しているということだろう。


 だが、逆に言えばそれは、「かもしれない」という以上のものはない。怪しいから確認してみる。もし、一割でも何かを感じれば、その一割が二割三割となるか、ゼロとなるか見るために、近寄っていると。


 たとえ一割の可能性でも、他に可能性がないのなら、そこにまず飛びつく。

「そして……俺が解放者である可能性も見えてきたと?」

「そういうこと」


「でも……俺以外にも候補はいるんじゃないですか?」

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