第6話 圭対王_2

「でも……俺以外にも候補はいるんじゃないですか?」


 そこでペラペラとしゃべっていたはずの女子生徒は押し黙った。それに対し、構わずにこちらからさらに畳みかける。


「おそらく……他の候補者にはこのような感じで露骨に接触していないのでは? 他はより高い候補として。対して俺は本当にネイティブかどうかも分からない……。すなわち……候補者の中で俺は解放者の可能性が低いと考えているんじゃないでしょうか? 


 その低い可能性をゼロにするため……俺に敢えて……キングダムの王と言って接触し、解放者かどうかの鎌をかけに来た……ということでしょう。それ以外の人には尾行なりなんなりして調べ上げようとしているんじゃないですか?」


 おそらくだが、圭の予想ではネイティブだと思われる人すべてが候補に挙がっているはず。キングダムはおそらく、例のネイティブとキングダムの読みあい合戦の中で何人か圭以外にもネイティブ側と思われる人を見つけたはずだ。


 そいつらをかたっぱしから疑っているのではないだろうか。やはりネイティブが解放されたのだから解放者は元ネイティブである可能性が高いと考えるのが普通。


 だが、全員にこうした鎌をかけるような真似をしては、意味がない。まずは、確率が低い部類の圭を……いや、確率が高いやつか……。


 それがどっちに傾いているのかまでは、想定が付きづらい。


 こっちの推測に対して女子生徒は小さい仕草で人差し指を唇に当てた。


 この状況では何ともわざとらしい仕草だが、何も知らない男ならこのしぐさにドギマギするのだろう。

 だが、残念だが今の圭にはそんな感想はまずいだけない。圭の目には相も変わらず、何一つ油断ならない狡猾な人物に映っている。


「……君の考えだと、君が解放者である可能性がゼロか否かを判断するために……君とこうして話しているということになるよね? なら……そんな風にぺらぺらしゃべったりすれば……むしろ疑いが濃くなるとは思わない?」


 そんな実に鋭い女子生徒の質問に、軽く鼻で笑って見せた。


「もし俺が本物の解放者なら、そう思われる危険を感じてコントラクトのことはよく知らないの一点張りをすると思いますよ。まあ、俺は次郎からいろいろ聞いて知っていますけど。こんな濡れ衣を着せられるようになるならね」


「だからといっても……可能性がゼロになったわけじゃない」


「まあ、確かに……ゼロにするのは困難ですよね」


 ……スマホを持っているという証拠もないが、持っていないという証拠もまたない。


「でも、逆に言えば、あなたは俺が解放者だと決定づけることはできないということ。であれば、大したことはないですね」

「大した事……ない?」


「ええ。だって、事実、俺にはコントラクトと無関係なんですから。そのまま放っておいても何の問題もない。あなたが勝手に虚構の敵に探りを入れて、時間を無駄にするだけということです。俺は……何もしない。する必要もない」


 そこまで言ったところで今度こそ圭は席を立ちあがった。


「もう、いいですか? どちらにしても今の俺に言えることはあと一つ、俺は解放者なんかじゃないとはっきりいうことだけです。では」


 次郎の肩に手を置き合図。ふたりでその場を離れようとする。しかし、そんな圭らに女子生徒は捨て台詞を吐くように言い放ってきた。


「一応言ってくけど、キングダムは解放者という存在は認められない。いずれ叩くから」

「随分と臭いセリフですね。ま、頑張ってください」



 フライハイトを出た後、窓からフライハイトを眺める。だが、すでに女子生徒の姿はなかった。女子生徒は「たまたま見かけたから」なんて言っていたが、果たしてそれが本当かどうかも分からなかった。


 いや、意図してここに圭がいることを確認し、鎌をかけてきた可能性の方が高いか。


「なあ……圭? あんな対応をしてよかったのか?」

 圭は後ろを見てあの女子生徒がつけていないことを確認してから小さい声で次郎に返す。

「ペラペラしゃべったことか?」


「ああ、だって、あいつの言うとおり、黙って知らないよく分からないで通した方が、解放者として疑われずに済むんじゃないのか?」


「……だろうな」

「? ならなんで?」


「別に……俺はもう誰か大勢を解放するなんてことはしないし、するつもりもない。俺が解放者として動かない限り、解放者は二度と現れない。

 つまり、探しようがないだろ? 


 だったら……やられっぱなしなのも癪だったからと、ちょっと鎌かけてやっただけだよ。少しは相手にも悩んでもらうと思ったんだよ」


 そう言って適当に鼻で笑う。

「どれだけ言おうが。俺が確信につくことを話さない限り、俺が動くこともないんだから……解放者の正体などばれるわけがない」


「つまり……からかったってわけか?」

 物分かりがいい友人に答えの代わりに笑みをむけてやった。次郎はそんな圭になにやら呆れたようにため息をついた。


「それ……フラグにならないといいけどな」

「……は?」

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