第14話 エンゲームの性質

「さあて、ネイティブさん。早速交渉を始めましょう」

「……」


 ついに面と向かって顔を向けてきたネイティブ。その姿を改めて見た。


 茶色に染めた髪でなんとも目つきが悪い。荒々しい雰囲気が漂っている。あの時、机を蹴飛ばした野郎だというのはよく分かる。だが、こいつが繊細にも心理を読み取る奴だと思えばちょっとしたギャップか。


 それでも厄介な能力に変わり無い。一応対策として、表情を読まれないため持ってきていたマスクを圭はかぶった。

 家にあった仮面ファイターのお面の視界を広くしたものだ。素のままだと視界が狭く視線を動かすには顔ごと動かさないといけなかったから広げた。


「ふっ、それが俺対策のつもりか?」

「ええ、まあ……」


 マスクをつけた圭をネイティブはあざ笑うように腹を抱え込みだした。まあ、はた見れば滑稽だろう。だが、これでもこちとら真剣なんでね。


「ネイティブ。あなたにはもう既に伝えていますが、改めて。俺とエンゲームを行ってもらいます」

「エンゲーム……ね」

「こちらがかけるのは……」


 そう言って圭はおもむろに出したスマホでネイティブの顔を写真に収めた。はっきりとネイティブの顔が写った完璧な写真。


「この画像データとあなたの正体です。あなたがエンゲームに勝てば、この画像データ含めたあなたの顔写真のデータは削除します。正体を一切口外、発信しないことを契約しましょう」


「……お前が望むものは何だ?」

「俺たちの不平等契約の解除、今まで俺たちからむしり取った金の返却、そして俺たちの独立を認めてもらうこと」


 そこまで攻め込むとネイティブは唸りだした。思考を始めたらしい。


「……ん~、いくらなんでもそれは欲張りすぎなんじゃねえか?」


 それは言うだろうと思った。でも、それだけの価値がネイティブの正体にあるはず。


「いや……別に強制ではありません。エンゲームを望まないというのであればそれで結構です。俺は無条件にネイティブの正体を公表するだけですよ」

「……」


「ふっ、さあ、どうします?」


 さすがに悩んでくれている。そうでなくては。実に順調。


「別に正体を口外しない代わりに契約の解除を求めているわけではありませんよ。あくまでも持ち込むのはエンゲーム。すなわち、あなたは勝てばいいのですよ。勝てば自身の正体も守れ、尚且つ俺たちの支配も続けられるではないですか」


「……ふっ、口がうまいな」

「エンゲームってそういうものでしょう?」


 そう、エンゲームとはよく考えたものだ。普通、契約はお互い相手の要求を呑む代わり、その対等となれる要求をしたりするもの。だが、これはお互い与えるものが本当に対等であることにこだわる必要がある。


 だが、エンゲームは別だ。お互いに相手の要求を呑むわけではない。お互いにベット(賭けるもの)を用意し、勝った方が全ての利益を得る。そしてベットには「まだ勝てる、逆転できるチャンスを与える」ことすら、考慮に入れられる。


 いわば、強い立場を利用して、助かるチャンスを与える代わりに、こっちはその分の要求も突きつけるわけだ。こっちは勝てば対等以上の成果を得られる。


 逆に相手にとっては、勝てば逆転で一方的に利益を得られるチャンスがまだ与えられたのだから、悪い話ではない。ちょっとくらい厳しい要求を突き付けられても、勝てば関係ないという形になる。


 今のネイティブのように追い詰められている現状では、敗北の損より、勝利の利益が目先に入るものだ。エンゲームを受け、勝利するだけで正体がばらされる事もない。だが、受けなければ問答無用で正体がばらされる。


 正体が本人にとって大切なものであればあるほど、勝利という可能性に光が見えるはずだ。ネイティブ、お前は散々人から金をむしり取ったみたいだな。なら、その分、正体がばらされるのはさぞ怖かろう。


「俺が勝てば……本当に正体を口外しないのか? お前の別の仲間に既に正体をバラしているという事実はないのか?」


「それはありません。不安なら契約でそこもうまくまとめればいい。そうですね……『ネイティブの正体について世間、学校内に広がらないようにすること』なんてことにすれば問題ないかと。そこらはコントラクトの強制力に任せましょう」


 ネイティブの手が力強く握り締められている。結構、怒っているのかな? もう少し、やつの冷静さを奪ってやるか。


「どうしたんです? もし俺があなたの立場なら間違いなく勝負を受けますけどね。もちろん、自信がないというのなら別ですけど。

 まあ、正体がばらされたくないなら一択では?


 特にあなたは相手の心理を読むのに自身があるのでしょう? ならここで、それを使わないで、いつ使うんです? ここでしかないでしょう!」


「……」

「正体がばらされるのを選ぶか、エンゲームを選ぶか! どっちですか!」

「……エンゲーム……受けよう」

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