第6話 ネイティブからの挑戦状

 昨日はああいっていたが、圭は朝早く、学校に入ってきていた。具体的には七時半、八時半頃が基本的な登校時間であるので、一時間ほど早く来ていた。


 無論、真っ先に向かうのは投函箱がある教室だった。


 昨日、確かに次郎は「納金場所は変わらない」と言っていた。それに関してはおそらく嘘ではないのだろう。そこまで細かい制限を儲けさせるほどの契約をネイティブに結ばされているとは思えない。


 そして、嘘ではないのだからこそ、こうして早く来たわけだ。


 ネイティブは圭に対してなんらかの対策をかけ始めている可能性は考えられる。その対策として一番手っ取り早いのは、今までの行動に変化をもたらすこと。それだけで、こっちに牽制することは十分できるだろう。


 だからこそ、納金場所に入ったとき衝撃が走った。

「投函箱が……ない?」


 しばらく教室の中を探してみるが、ぱっと見つけることはできない。気がついて他に確認していた別の納金場所も見回ったがどこも全て、箱なんてものはなかった。


「や……やられた……。既に回収されていた……」


 流石に甘く見ていた。だが……昨日はあのあと一人、七時まで教室に不審な動きはないかは一応見ていた。だとすれば、回収されたのは、朝……七時半より前?


「いや……待て……」

 思考の端にもなかったが、別に申請さえ学校側に出せば八時まで残ることは可能だ。部活などは基本的にそんな申請を出して、八時までこなしている。文化祭の準備なので延長するときも同じように、申請を出すこともあったはず。


 まあ、個人が申請を出すのは難しいだろうが、部活動をやっている奴が、途中で部活を抜け出すか、終わってすぐに回収に来た可能性もあるだろう……。

 やはり、圭に探られるのを防ぐため、すぐ回収させるよう運び屋となる生徒を動かした。


「うん? これは……?」


 そこでこの教室の……既に使われていないであろう教卓の上にひとつの封筒が置いてあった。一応、各教室に箱が隠されていないか探していたが、こんな封筒は今までの教室にはなかった。ここだけに……。


「……宛先はない……、差出人も……」


 最初は開封することに抵抗を持ったが、ここに置いてある封筒に抵抗を持つ理由なんてないと、改めて思い直し開封。当然のように手紙が一枚入っていた。


 そっと折りたたまれた手紙を取り出して開く。その文は……こうだ。


『おそらくこの手紙を読んでいるのだとすれば、小林圭。お前だ』


 その最初の一文で差出人が誰なのわかった。ネイティブだ。パソコンのワードか何かで出力されたのであろうそれは、さらに続く。


『もし違ったら申し訳ないです。この手紙は捨ててください。

 まあ、でもそんなことはないだろう。お前は必ず動く。この手紙を手にする。だろ?』


 手紙を握る手に力がこもった。少し感情の加減を間違えば、手紙を握りつぶしていた。一応手紙を読み進める。


『さて本題だ。お前は投函箱が行き渡る先を見つけるために、目をつけたのだろう。だが、残念だったな、既に箱は移動済みだ。もっとも、この手紙を置かせたのは俺じゃない。

 俺が箱を手にするのはもっと後だ。お前ごときに、つきとめられるかな?』


 こいつ……。


『どうするかはお前の好きにしたらいい。だが、簡単に行くと思うなよ?』


 最後までネイティブをこの手紙の中で名乗ることはなかったが、まず間違いない。あいつにとったら、名乗るまでもないってことだ。最後に書かれた一文。


『Ps・この手紙に指紋は残ってると思うぞ? あがいてみるか?』


「なめやがって!!」

 思わず手紙を机に叩きつけた。


 指紋?

 確かに指紋を取るのはそこまで難しくはないだろう。だが、それを照らし合わせられるデータベースがなければ意味がない。DNAはなおのこと無理。こいつ、それを当然わかっていて、おちょくっているわけだ。

 こっちの感情を逆なでするために。


 だいたい、この『俺が箱を手にするのはもっと後だ』という文。これも引っかかる。これ自体、あいつの駆け引きじゃないのか? こうして回収するのはずっと後だと思わせれば、尾行に力を入れるのは、後になる。


 いや、そんな馬鹿なことをする理由はない。ここに書かれたことが本当である保証は全くない。中途半端に踊らされるぐらいなら、この手紙など見なかったことに……。


「いや……こっちからも、攻めを見せてみるか……」


 その時、圭のポケットに入っていたスマホが揺れる。それがコントラクトのお知らせで、今日の納金場所が変更されたことを知らせるものだった。


 その後、とりあえず次郎に今日の分の尾行は必要ないことを告げた。今更なんの策もないまま、ただ尾行するだけじゃ、奴の尻尾は掴めない。

 やはり、下手に次郎を動かして、ネイティブに次郎の現状を知られるリスクを考えれば、黙らせておくほうがいい。

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