第4話 あの女子生徒

 圭らが教室をできるころ、次のメンツが待機していた。やはり同じネイティブたちだろう。そして彼らもまた……圭だけに視線を寄せてきた。


 つまり、この人たちは今まで集会で見たことなかった奴に反応して見ているということらしい。


 そしてそれ以外、この時間に集まった人たち同士はネイティブに支配されていると暗黙の裡に知っている。だが、それ以外のネイティブは分からないということだ。


 つまり、それ以外の時間に集まる人たちのこと。


 おそらくこの狙いは……ネイティブに支配される人たちで団結させないこと。反乱の対策を施しているということ。

 むろん、それ以外の意図もあるかもしれない。


 こうしてわざわざ呼び出すのも、物理的に面と向かって指示することで逆らっても無駄だ、という圧力と権力による立場の違いを植え付けるためのものだろう。


「あ……あの……」


 自分の教室に戻ろうと特別棟を出る廊下を歩むその時、一人の生徒から声をかけられた。それはさっき隣にいた人だった。今改めてその人物像を見てみる。


 茶色のショートヘアの小柄な女子生徒で赤いサンダルから一年生だと分かる。そんな女子生徒の顔には見覚えがあった。


 どこで見たのか過去を遡り考えて、そういえばフライハイトから覗いていたセカンドパティオにいたあの女子だと思い出す。


「なんだ?」

「ひゃ、あ……あの……ネイティブに……あんまり立てつくのは……」


 どうやらこの子は圭に忠告をしているらしい。少し離れた位置で次郎もいる。だが、圭は適当に笑うと足を進ませ続けた。


「いやだね。俺はいつまでも漫画の世界にいるようなごっこ遊びをし続けたくはないからな。

 支配? コントラクト? 一体、なんなんだよ、これは……冗談じゃない」


 そう言い切ると女子生徒驚いたように圭に向かって見開いた。


「先輩……」


 そんな反応は置いておいて先に進もうとする。だが、その所でふと足が止まった。突如、脳に流れるのは確かな状況分析。


 気が付けば、あのネイティブと対峙したときのように、不思議に疑問などといった邪念は捨て去り、冷静に思考を巡らせていた。


 ここでネイティブに対して啖呵を切ったこと、もしこいつに言いふらされたら……どうなる?

 別に悪気はなくても、噂として広がる可能性はあるのは事実。


 現状、このネイティブだとか、キングダムだとかいうグループやらなんやらは……冗談みたいだが、本気でこいつらはやっていることだと考えていい。いや、考えるしかない。


 コントラクトの強制力が確かである以上、遊び程度に考えたら飲まれるぐらいの覚悟はもったほうがいい。

 もちろん、冗談、でなくても大げさである可能性はある。だけど、その可能性に欠けるよりは、こっちも真剣に対処したほうが、いいのは確実。


「ならば……」


 この状況において一番避けるべきことは……目立つことだ。すでにネイティブに目を付けられている状態。

 これ以上……ほかのやつらにも注目を浴びたりしたら……。


 それこそ、このコントラクトに踊らされているほかの連中らから注目を浴びたら……この先何があるのか分からない。正直言ってこれ以上面倒事は絶対増やすことは、マジで避けたい。


「なあ、君と契約がしたい」

「え? わ、わたしと!?」


 圭は最善の行動を取るべく、スマホを女子生徒につきだした。


「ああそうだ。さっきの教室で起こったことを決して口外しないこと。むろん、俺のことを話すこと自体禁止する」


 女子生徒は一瞬ポカンとした様子を見せたが、ぼそっと呟いた。


「一方的に……ですか?」


 ……つまり、対等な条件を出せ、というわけか……まあ、当然か。すでにネイティブに支配されている身。契約内容に対して敏感になんるのも当然というわけか。


 なら……ここで圭が提示すべき条件はなにか……。こいつの口を封じるにふさわしい条件。いや、こいつが契約するメリットを見いだせる条件か。こいつが乗らなければ契約は成立しない。こいつが、今、欲しがっているもの……。


「……その代り、もし、俺がネイティブの支配から抜けられた場合には、お前も助ける。これでどうだ?」


「……支配から抜けられる? そ、そんなこと……できるのですか? そんな保障もない条件……なんて……。はっきり言って期待が……」


 オドオドしながらも……物事をはっきり言うやつだ。……いや、違う、むしろ隠しているのか……。つまり、こいつは……そんな可能性が低い条件では対等にならないといいたいわけだ。


 口外させたくないなら……もっといい条件を出せと。……しかたない……。


「なら……君が助けを求めた場合、俺にできる範囲で助けてやる。その条件をプラスだ」


「別に……それなら……構いませんけど。まあ、助けてもらえるっていうのであれば……。いや……もう一つ……いいですか?」


「……は?」


 予想外にも女子生徒が恐る恐るといった感じに指を差し出してきた。


「……あなたは支配から抜けるために全力を注ぐ」

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