魔導師は現代で生きづらい
@kiychan
プロローグ
~アリッサ~
私は、アリッサ・ホングール16歳。生まれも育ちも、カレル国フィオナ村だ。
カレル国は魔術師の国と言われ、魔術師の人口は世界最大。各国の宮廷魔導師は、カレル国から派遣され、さらに伝説的な名を残す魔導師達は、ほとんどフィオナ村の出身なのだ。なぜなら、フィオナ村には、世界でただ1人「大魔導師」と呼ばれる人物がいる。
大魔導師イリーナ。各国の宮廷魔導師や伝説の魔導師は、みんな大魔導師イリーナの弟子達だ。年齢は千歳を越えるだろうが、見た目はお色気タップリの美女である。私は、イリーナ最後の弟子。私が弟子入りしたのは5年前。それ以降、新しい弟子は取っていない。
「アリッサ。アタシはもう弟子を取らないからね。お前が一人前になったら、引退して余生を過ごすんだ。だから、さっさと一人前になりな」
お師様は、こちらを見もせず、長い煙草をふかしながら言った。私はビックリして、持っていた薪を取り落とし、お師様にすがりついた。
「そんな!お師様…。無理です…!お師様が居ないと私…」
もっと沢山言いたいことはあるのに、言葉が詰まって出てこない。涙が溢れて、振り向くお師様が歪んでいる。
「何いってんだい。引退するとは言ったが、ここから出て行くなんて、一言も言ってないだろ。面倒な仕事はお前に全部任せて、アタシは自由にやるからと言ってるんだよ」
フフンと私を一瞥し、また煙草をふかした。
(…今と何が違うんだか)
はぁ、と肩を落とし溢れた涙は引っ込んだ。薪を拾い、暖炉の方へ歩き出した。その背中に、お師様が
「それで、隣国のカルフェールから、ドラゴンの討伐依頼が来てるんだけど。アリッサ、お前お行き」
と、突然言い出した。薪を暖炉に焼べるべく、中腰になっていた私は、体勢はそのままにゆっくり振り向いた。
「ドラゴン…?」
顔のひきつりが治まらない。
「そうさ。お前も上級魔導師になったんだ。ドラゴンの一匹も退治できなくて、私の代わりが務まるワケがなかろう?」
ああ、いつもの顔だ。何か企んでいるときの、意地悪そうな笑顔。お師様がその顔をするときはろくなことがない。
「いきなりドラゴンって…、私まだ実践はせいぜいサイクロプスくらいで、しかも村の周りの魔物を倒すことしかしたことがないのに、ドラゴンなんて」
必死に無理だと説明するも、お師様の意地悪な笑顔は変わらない。
「流石にドラゴン討伐に、お前1人で行かせると思うのかい?カルフェールの腕利きの戦士やらと一緒だよ。奇襲をかけるべく少数精鋭でいくらしいが。カルフェールには、今までの弟子の中でも一番の魔導師が行くって言ってあるからね」
イヒヒと更に意地悪な顔で笑っている。絶望しかない。
「私が
ホントに泣きたい。
「たった5年で上級魔導師になったんだ。なんとでもなるさ。お前に足りないのは経験だよ。経験積めば自信も出てくるってもんさ。技術はあるんだからね。って、お前が一番心配なのは仲間に入れてもらえるかって事じゃないかい?」
またも、イヒヒと意地悪に笑う。励ましてくれてると思わせてこれだもん。
確かに、私は極度の人見知りだ。村の人達は家族みたいなものだから大丈夫だけど、村から出たことのない私は、知らない人とまともに話せない。今まで、お師様を訪ねて来た人達に、何度失礼な事をしたか。ああ、頭が痛い…
魔術師は総称で、レベルによってその名が変わる。一般的なレベルの魔術を扱うのが一般魔術師、やや高度な魔術を扱い、魔術の先生になれるのが、下級魔導師、高度な魔術を扱え、才能と技術がなければなれない、一握りの魔術師を上級魔導師と呼ぶ。11歳で弟子入りし、5年で上級魔導師となったが、実感はほとんどない。周りは凄いと誉めてくれるが。何が凄いのか、自分ではわからないのだ。私が尊敬する、各国の宮廷魔導師になった兄様や姉様達とは全然違う。あんな風になれるとはどうしても思えない。
カレル国は、中立国だ。他国もカレル国には不可侵となっている。各国に宮廷魔導師を派遣している性質上、どこかの国と同盟を結ぶ事はできない。異国間の戦争や、内紛などには要請があっても、その国の宮廷魔導師以外が力を貸すことはない。ただし、魔物の侵攻においては、どんなに遠くの国からの要請であっても断ることはない。もし、カレル国が魔物や他国に攻められたら、その他の国はいち早く援軍を送る。
魔物は魔力を帯びており、体に纏った魔力のベールは剣をはじき、魔術師にしか剥がせない。そのため、魔物退治には魔術師が絶対必要なのだ。自国が魔物に襲われた場合、カレル国に頼るしかなく、カレル国を敵に回すことはできない。それ故に、魔物の討伐依頼が、世界中からカレル国に届く。その中でも、より危険で困難な依頼が、フィオナ村に来るのだ。必然的に最もやっかいな依頼は、大魔導師のところにやってくる。ドラゴン討伐と言うのはそう言うことだ。
「明後日カルフェールからお迎えがやってくるからね。準備しておきな。詳細はそのお迎えに聞くんだね」
お師様はそう言うと、煙草の煙をふーっと吐いた。私にはその煙が、この先に立ち込める暗雲に思えて仕方なかった。
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