第31話 甘味、オリハルコン
――翌日。
クロウはドワーフの鍛冶師・ドルフの所へ来ていた。
ドルフの店は粗末な露天であったが、今の街の状況を考えればやむを得ない。
「爺さん、この『フルティン』という剣を鍛えなおして欲しいんだが」
「『フルチン』? そんなもの鍛えたら『フルボッキン』になっちまうぞ?」
「剣にモザイクがかかるのはちょっと……。それにその名前だと18禁になっちまう」
「ハッハ! 儂はそれでもいいがの」
「冗談は置いといて、何かいいアイディアはないか?」
ドルフはフルティンを手に取り、眺めた。
「ふむ……、これは水属性か。前に使ってたのは雷属性だったか?」
「そう、雷属性の『雷神剣』だった」
「剣の強度、切れ味を上げるにはアダマントイトとオリハルコンじゃが、属性を変えるのは無理じゃな。一から作った方がいい」
「そうなのか? 材料は?」
「属性を付与した武器を作るには、特殊な『魔石』が必要だ。その魔石の強さによって、武器の属性の強さも決まる」
「ふむ……」
「だがな、武器は使い手次第。腕が無ければどんな強い武器でも持ちぐされじゃ」
「それは分かってるつもりだけど……」
「今の水属性であっても、仲間との連携で相乗効果を得られるかもしれんしの」
(そういや、フェイの氷魔法と連携すれば、魔法の効果が上がってたな……)
(ヒナの炎の刀だと打ち消しあうみたいだし……)
「わかった、爺さん。色々考えてみるよ」
「そうじゃな、武器を作りたくなったら素材を持ってこい。いつでも作ってやるぞ」
「ああ、その時は頼む」
クロウはドルフとそう話すと、ギルド拠点へ戻って行った。
――ギルド拠点。
クロウを除く四人は、席に座り朝食を取っていた。
「クロ、どっか行ってたの?」
「うん、ドルフ爺さんの所に」
「武器の素材のこととかかな?」
「まあ、そんな感じ。鉱石の情報は無かったけど」
「オリハルコンの場所の話なら聞いて来ましたよ?」
「おおぅ、それはどこに?」
「竜背山脈の中腹にある、雪男の所で見かけたとかいう話ですね」
「あの山か……」
「雪男か、
「冒険者ギルドも復興するまでしばらく営業中止だってさ」
「じゃあ、竜背山脈の雪男の所を探してみるか」
五人はそう話して、竜背山脈へ向かう旅支度をした。
竜背山脈の麓の村で情報を集めることにした一行であったが、村人達は雪男のことになると口を閉ざし、何も情報は得られなかった。
「この村の人達、少しも話してくれないな」
「分かったのは『イエティ』って名前だけだね」
「ここの村の人達、イエティを守っているのかしら?」
「そうかもしれませんね……」
「ふむ、村の人に大事にされてるのだな……」
「俺達は無理に戦わなくてもいいんだけど、それだけじゃ教えてくれないよな」
「信用してくれないだろうね」
「困ったわね、山の中を探し回るのも大変だし……」
「そうですね……、何か手がかりがあるといいのですけど」
「ふむ……、……これは?」
そう話している五人の上から、ちらほらと雪が降ってきた。
「雪か」
「きれいね~」
「雪……、雪の妖精がいるかもしれないわ!」
「雪の妖精ですか?」
「どんな姿をしているのだ?」
「雪の玉よ。名前を『スノウボール』って言って、雪だるまの頭だけで転がっているはずよ」
「雪の玉か、探してみよう」
五人はそれぞれ村の周囲へ散って、雪の妖精『スノウボール』を探し始めた。
雪は降り続け、地表が白く変わり始めた頃、リノがスノウボールを見つけた。
全員がそこに集まり、リノは彼から話しを聞こうとする。
「……イエティさんか、オリハルコンという鉱石の場所を知りませんか?」
スノウボールは地面を転がっている。聞こえているのだろうか?
「イエティさんをやっつけるのではなくて、私たちはオリハルコンが欲しいのです」
スノウボールは転がるのを止め、リノの顔をじっと見つめる。
「そうですね……、これでどうでしょう?」
リノはそう言って、鞄からチョコレートを取り出し、スノウボールの口に添えた。
彼の口が大きく開き、一口でリノの手からチョコを食べた。
彼はチョコを食べると、その頭がチョコのような色に変わってきたが、ぼそぼそと話しだした。
「……、イエティさんは、山の中腹の崖にある洞穴にいるようです。……そこの洞穴にオリハルコンがあるのだけど、勝手に取ったらイエティさんに怒られるかもしれない、との事です」
「そうか、場所は分かったけど、イエティと戦いたくないな。村の人に好かれてるみたいだし」
「そうね、戦わなくていい方法ないかしら?」
「聞いてみますね……、……イエティさんの好きなものは、サルナシ、ヤマブドウ、川魚とかですが、お腹が空いてれば手近なものを食べるそうです」
「クマみたいだね~」
「それでは、村で熊の好物を買っていくのはどうだろう?」
「そうですね、その方がいいかもしれません」
この話を聞いた五人は、自分達の食糧の他に、クマの好きそうな食べ物を持ち、山へ登って行った。
一行はイエティの棲んでいる洞穴を目指し、山を登って行く。
道中には小動物系の魔物が出たが、今の彼らの敵ではない。彼らを倒し登って行く。
雪の妖精・スノウボールに教えられた通り登り進んで行くも、言葉で聞いたものと実際の歩く道は違う。
苦心の末、イエティの足跡らしきものを発見し、そこを辿ることで、やっと彼の棲んでいる洞穴を見つけることができた。
一行はその洞穴にすぐ入ることをせず、少し離れて様子を覗った。
「……あれがイエティの洞穴だろうな……」
「そうね、足跡があそこへ続いてるしね」
「彼に怒られずに近づけないかしら?」
「まず、警戒されないようにしなければなりませんね」
「イエティの姿は熊なのだろうか、人なのだろうか……」
そう話していると、洞穴の中から誰か出てきた。
その姿は白いクマの頭をしていて、体は白い毛に覆われ、直立二足歩行をしている。
どうやら、シロクマの獣人という表現が一番近いようだ。
イエティは周囲を警戒し、風の臭いを嗅いだ後、こちらをじっと見つめてきた。
その姿を岩陰から覗く五人。
(どうやら、こっちに気づいているっぽいな)
(嗅覚が鋭いのかな?)
(こちらに警戒しているとうかつに近づけないわ)
(食べ物でも渡してみましょうか?)
(そうだな、嗅覚が鋭いなら、食べ物と一緒に我々を覚えるかもしれん)
五人はそのように相談した。
こちらの様子を覗っていたイエティであるが、こちらが動きを見せないので、洞穴へと戻って行った。
(よし、今のうちだ……)
クロウが食べ物の入った袋を手にし、イエティの洞穴の方へ向けて、放り投げた。
(おい、投げるなよ!)
(近づきすぎても困るだろ?)
外の音を聞きつけたイエティが様子を覗いに洞穴から出てきた。
近くに食べ物の臭いを感じ、そちらへ歩み寄り、その袋の臭いを嗅ぎ始めた。
(よし、そのまま食え!)
だがイエティは、その袋の臭いを何度か嗅ぐと、爪でそれを下の斜面へ投げ捨てた。
(ああっ!)
失望するクロウ。
(何やったんだよ!)
(カレーパン……)
(何でカレーだよ!)
(カレーはみんな好きだと思って……)
(イエティが戻って行ったわ)
(じゃあ次はあたしが……)
エリーはそう言って、足音を消してイエティの洞穴に近づき、袋を置いてきた。
そこへ、イエティが洞穴の中から出てきて臭いを嗅ぐ。
(おいしいぞ~、食べろ!)
イエティは何度も臭いを嗅ぎ、その袋を爪で破り、中の物を食べ始めた。
(何入れたんだ?)
(あんドーナツよ)
(おいしそうに食べてるわね)
イエティは袋の中のあんドーナツを食べ終わると、洞穴の中へ戻って行った。
(次はウチが行ってくるわ)
フェイがそう言い、手にツボを持ち、洞穴の入り口へ置き、戻ってきた。
(なんなの、あのツボ)
(ハチミツよ)
(食べるのかな~? クマの頭してるけどさ~)
イエティは三度洞穴から出てきて、ツボの臭いを嗅ぎだした。
(クマならば好きなはず……)
そして彼は、ツボを両手で持ち、中の物を一気に飲み干した。
(ハチミツ一気に飲んだ!!)
(そんなに好きだったとは……)
そしてイエティは、そのツボを持ったまま、洞穴に戻って行った。
(気に入ってもらえたようだわ)
(次は私が行ってきます)
そう言って、リノはビンを持ち洞窟の入り口へ置いてきた。
リノと入れ替わりにイエティが洞穴から出てくる。
(だいぶ警戒しなくなったみたいだね……)
イエティがビンの臭いを嗅ぎ、その中の物を一気に飲み干した。
(飲んだ!)
(リノっち、何入れたの?)
(練乳です)
(練乳!?)
イエティはビンを一気に飲み干し、その場所に座り込んだ。
そして彼は、飲んだ物を吐き出すと、洞穴の中へ戻って行った。
リノはそれを見て涙目になる。
(そりゃ練乳一気に飲んだらね……)
エリーはそう言い、フェイはリノの頭を撫でて慰めた。
(次は某の番だな)
次はヒナが食べ物の入った袋を手に、洞穴へ向かい、その袋を置いて帰って来た。
(ヒナ、何置いてきたの?)
(激辛せんべいだ)
(えぇっ!? 大丈夫かな……)
(甘いものは好きみたいだけど、辛いものはどうなのかしらね……)
(某の大好物だ、嫌いな訳は無い)
(どうかな~?)
クロウ達は疑問に思いつつも、その様子を見守った。
イエティが洞穴から出てきて、袋に顔を近づけ、臭いを嗅ぐ。
その時、上空から大きな灰色の生き物が地上へ飛び込んで来た。
――
飛竜はイエティの洞穴めがけて急降下し、そこにあった袋を奪い取った。
イエティは両腕を振り上げ、怒りを露わにするも、飛竜は高く舞い上がってしまう。
飛竜は洞穴の上のほうの岩へ着地すると、激辛せんべいが入った袋を貪り始めた。
すると飛竜の顔が赤く染まり、大声で絶叫しだした。
怒った飛竜は上空へ飛び上がると、急降下してイエティを襲う。
「まずい、助けよう!」
クロウがそう言い、五人は岩陰を飛び出し、洞穴へ走る。
飛竜はイエティの頭の上から火を吹いて彼を襲う。
「あの飛竜、火を吹くのか!」
ヒナがそう言うも、
「激辛せんべいのせいでしょ!」
と、エリーに突っ込まれる。
彼らが洞穴に走って近づくと、イエティは洞穴に隠れ、再び飛竜は飛び上がった。
五人は空を見上げ、飛竜と戦う構えを見せるが、上空の敵が相手では攻撃手段は限られる。
それぞれ攻撃手段を考えていると、飛竜が襲いかかってきた。
「
フェイの魔法が飛ぶが、飛竜には大きなダメージを与えられない。
リノの銃撃で飛竜の羽に穴を空けるも、小さすぎて効果は薄い。
飛竜は急降下して五人に近づくと、火を吹きかけてきた。
その炎をクロウがフルティンで薙ぎ払い、消化する。
飛竜の爪が彼らに襲いかかると、ヒナはすれ違いざまに爪を斬り払う。
エリーも飛竜の足を狙い、斬り抜けるも、小さい傷しか与えられない。
そして飛竜は上空へ飛び上がり、次の攻撃の構えを見せる。
五人は体勢を立て直し、次の攻撃に備えるが、迷っていた。
(このままでは分が悪すぎる……)
そうは思っても、飛竜は再び急降下しながら襲ってきた。
先ほどと同じように、フェイとリノが攻撃し、クロウが炎を斬り払う。
ヒナとエリーで飛竜の爪と足を攻撃するが、効果は薄いようだ。
再度飛竜は飛び上がり、こちらへ攻撃の構えを見せた。
その時、クロウは叫んだ。
「フェイ、雪の吹雪をくれ!」
「なんでよ!?」
「いいから早く!」
クロウにせっつかれ、フェイは魔法を唱える。
「
もちろん、その魔法は飛竜に遠すぎて効果は無い。
だが、クロウはその吹雪の中に剣を入れ、凍らせたのだ。
そして飛竜がこちらへ向けて、急降下してくる。
クロウはそこを狙い、フルティンを振り上げた。
するとどうだろう、冷えたフルティンの水しぶきが、氷の刃となり、飛竜に飛んで行ったのだ。
飛竜はその氷の刃に驚くも、そこへ向けて全力で飛び込んでしまった。
腹と片翼を斬られ、大きなダメージを受た飛竜は、絶叫を上げながら地面に落ちた。
飛べなくなった飛竜は、もう彼らの敵ではない。
時を置かず五人に切り刻まれ、命を落とした。
「まさか剣の水にあのような使い方があったとは……」
驚嘆するヒナ。
「なに、思い付きが上手くいっただけさ。フェイの氷魔法あってのものだしな」
「戦いにはこういうやり方もあるのだな、と、其方達に驚かされる一方だ」
「じゃあ、今度は怖い所で驚かせてあげる」
エリーがヒナをからかう。
「う……、それは困る……」
「今度は氷でお化けを作ってみようかな?」
フェイも続けてからかう。
「うぅ……」
ヒナは額に手を当て、固まってしまった。
「冗談はそれくらいして、イエティさんを見に行きましょうか」
「そうだな、もう警戒してくれないといいんだがな」
五人は洞穴に入り、イエティの様子を見に奥へと進む。
そこでは、彼がハチミツの入ったツボを抱えて、寝床でぐっすり眠っていたのだ。
その寝床の近くには、輝く鉱石が埋まっていた。これがオリハルコンだろう。
「幸せそうに寝てるわね……」
「起こさないよう、音を立てないように掘らないとな」
「結構難しいね」
「オリハルコンの外側の硬くない岩を削るといいですよ」
「刀の炎で削り溶かそう」
五人はイエティを起こさないように、そっとオリハルコンを抜き取ると、その洞穴を後にした。
リベルタスに戻った一行はオリハルコンを倉庫に置き、鍵をかけ厳重に保管した。
ドルフの話では、オリハルコンとアダマンタイトの両方があれば、ランクS相当の武器が作れるという事なので、彼らは次にアダマンタイトを探すことにする。
五人は街の中で一通り情報を集め、それらしき情報を整理し、今日はここで休みを取る事にした。
果たしてアダマンタイトは見つかるのだろうか、彼らの冒険は続く……。
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