第24話 疾走、森の赤い宝石
――翌朝。
クロウ、エリー、フェイの三人が食堂で何か話している。
クロウが自分の剣を眺めて呟く。
「この『フルティン』という剣、水属性なのか……」
「そうなんじゃない?」
「水属性なら剣から水が出てもおかしくないと思うんだけどなぁ?」
「水が出ても使い道が無さそうだわ……」
「その名前で水が出てもさ、オシッコみたいでヤダなぁ……」
「……小便小僧的な何かか……」
「砂漠で喉が渇いても飲みたくないわね……」
そのように三人が話していると、台所からリノが出てきた。
「朝食の準備が間もなく終わりそうなのですが、ヒナさんは?」
「外で素振りするって言ってたよ」
エリーがそう答えた。
「ちょっと呼んできますね」
そう言って、リノはヒナを呼びに行った。
「……九百八十一、九百八十二、九百八十三……」
ヒナは外で素振りを繰り返していた。
「ヒナさん、まもなく朝食ですよ」
リノが声をかけた。
「……九百八十八、済まない、間もなく終わる。九百八十九……」
「毎日その鍛錬をしているのですか?」
「そうだ、素振り千回でも実戦での一振りには及ばぬ。実戦で後悔しないようにな」
「すごいですね……」
「……そうでもない」
ヒナは真面目な顔で刀を振り続ける。そこへクロウも顔を出してきた。
「毎日か、凄いな、俺なら十中八九三日坊主で終わってしまうな」
「九百十…………! おい、今のでかぞえた数忘れてしまったぞ!」
ヒナが怒って叫んだ。
「えぇっ……、スマン」
「バカモノー!」
クロウは詫びたが、刀を持ったヒナに追いかけられてしまう。
「何をやっているのでしょうか……」
リノは呆れていた。
その後、五人は朝食を食べ、次のクエストを受けるため、冒険者ギルドへ向かった。
エリーは冒険者ギルドから出てきて、皆の元に戻った。
「クエ受けて来たよ。『カーバンクルの赤い宝石探せ!』ってやつ」
「カーバンクル? 小動物のイメージあるけどな」
「そうね~、でもどこに住んでるのかしら?」
「エルフの村の南の森林地帯だってさ」
「とりあえず行ってみようか」
五人はこうしてクエストの目的地へと向かった。
――『カーバンクルの森』
この森は『エルフの村』の南にあり、『カーバンクル』が出没するらしい。
だがこの森は、凶暴な魔物も出るという難所でもあり、帰らずの森とも呼ばれる。
一行は充分な準備をして、この森に入って行った。
「この森はどんなモンスターが出るんだろう?」
「森のモンスターか~、種類が多すぎてね」
「そうよね、森の精霊とか魔獣とか、そういう話多いしね」
「昆虫とかも多いかもしれませんね」
「木の魔物なら火属性に弱いかもな」
そんな話をしつつ、五人は奥へと進んだ。
一行は昆虫型や植物型のモンスターと戦いつつ、森の中を探し回った。
しかし、全くカーバンクルの手がかりは掴めず、捜索は難儀していた。
「……この森の中をノーヒントで探すのは難しくないか?」
「う~ん、ヒントくれる便利な人いないのかね~?」
「森の精霊とか妖精が助けてくれるといいのだけど……」
「せめてカーバンクルの足跡とかがあればいいのですが……」
「何か情報が欲しいな、彼の好物とか生態とか」
「とりあえず、手がかりになるものを探さないとな……」
……一行はさらに森を捜索する。
「あっ、これって……」
リノがなにか見つけたようだ。
「これ、森の精霊の『ドライアド』ではないでしょうか?」
彼女の指差した先、そこには枯れかかった人の姿の草があった。
「ん? 枯れかかってるのか?」
「水をやったら生き返るかな?」
「よし、この剣でやってみよう」
クロウは『フルティン』を取り出し、枯れた草へ向けた。
剣先で枯れた草に触れると、少しずつだが水が流れてきた。
その水は、ドライアドを濡らしながら地面へと伝い、そこの土を潤す。
「おっ!? 水が出た!」
「クロ、その後ろ姿、立ちションしてるようにしか見えない……」
「えぇっ!? そんな……」
「後ろ姿がねぇ……」
「森の精霊さんがかわいそうですね」
「水をやってるだけなのに……」
「こっち向くな!」
そうしているうちに、枯れかかった草が命を取り戻してきたらしい。
やはりその草は『森の精霊・ドライアド』だったのだ。
……ドライアドから話を聞くクロウ。
「……どうやら、カーバンクルは、『トロール』達に捕まったらしいな」
「そうなの?」
「……トロールに捕まって、どこかに連れ去られるのを見たそうだ」
「じゃあ、トロールを倒さないとダメなのかしら?」
「……トロールの集落は、ここから南西にあるらしい」
「そこへ行かないとだめなようですね」
「……でも、その途中に怖い魔物がいるとか」
「どんな魔物だ?」
「……その瞳に睨まれると、石になってしまうらしい……」
「それじゃあ、正面からは戦えないね」
「……もうこれ以上彼女から聞けることは無いみたいだな……」
「そうね~、石化対策、どうする?」
「一応、石化解除薬は持ってきてますが……」
「だが、背後から襲われてはひとたまりもないぞ」
五人はいい方法がないかと考えた……。
そこでクロウが口を開く。
「よし! ここは成り行き任せだ!」
「おい、いいのか? それで!」
「あ~、大丈夫、あたしらいつもこんな感じだし」
「クロっちのレアスキルのせいか、なんとかなってるからね~」
「む……、そうなのか?」
「あまり期待されても困るけど、今の所うまくいってる」
「ふむ……」
そのように話した五人は、ドライアドから聞いた方角を頼りに、トロールの集落へと向かった。
しばらく歩くと、前方の森の木の陰に何かモンスターがいるようだ。
一行は木の陰に隠れて様子を覗うと、鶏の体に尾が蛇の頭になっている魔物がいた。
いわゆる、――『コカトリス』である。
(あれって、睨まれると石になるやつだっけ?)
(蛇に咬まれたら石になるんじゃなかった?)
(コカトリスに睨まれて石になった人は聞いたこと無いわ)
(私もです)
(なら行けるな)
五人はそのように相談して、コカトリスと戦うことにした。
クロウは用心しつつ敵に斬りかかり、フェイの魔法で牽制する。
その隙にヒナが斬りかかり、背後からエリーが尾の蛇の頭を切り落とした。
蛇に咬まれないように気をつければ、大したことのない敵だった。
「瞳に睨まれると石になるモンスターって、これじゃないよね?」
「そうね、他にいるのかしら?」
「用心しながら進むことに越したことは無いか……」
コカトリスを倒し、再び五人は歩き出した。
一行はさらに森の中を進んで行く。
どれくらい歩いたのだろう。そう思い、額の汗を拭う。
突然〝ガサガサッ〟っと背後の方で音がして、草むらから何かの生き物が出てきたようだ。
そのことに緊張してしまう五人、気軽に背後を確認していいのか悩む……。
「襲ってこないのか……?」
「でも後ろにいるよ……?」
〝フゥ~、フシュル~〟
確かに背後の方から何者かの息遣いが聞こえてくる。
「後ろを振り向くのが怖いわね……」
「どうしましょうか……」
「刀を抜いたら攻撃されそうだ……」
「ッ!?」
その時、五人の前方の木の陰から、大きなイノシシが顔を出してきた。
突然の外敵に怒りを表すイノシシ。その彼が牙を剥き、こちらへ突進して来る。
だがそのイノシシは、彼らの後ろの方を見た瞬間、石になってしまったのだ。
「石化しちゃいましたね……」
「……やっぱり、後ろ、やばいな……」
「どうする、逃げる?」
「走って逃げるぞ……。3……2……1……」
クロウの合図で一斉に走り出した五人。
〝フシュッ、フシュッ〟
だが背後の生き物は彼らを追いかけて来ているようだ。
一行は背後の魔物に追われつつ森の中を走る。
数分走ったところで目の前に何か原始的な建物が見えてきた。
(トロールの集落か?)
そう思いつつも背後の魔物は未だに後ろについてきている。
「突っ切るぞ!」
クロウはそう叫んで、トロールの集落を走り抜けることにした。
トロールの集落の入り口らしき門を抜け、さらに走る。
集落の中央の広場や周囲に、自分達よりはるかに大きいトロール達の姿が見えた。
だがここで立ち止まるわけにはいかない。
背後から追いかけてくる何者かがいるのだ。
クロウの目は集落の出口を探し、そこを見つけると、出口に向けて走る。
彼の前方にいたトロール達は、こちらを攻撃しようとするも、彼らの後ろの方を見るなり石になってしまうのだった。
周りに敵、後ろにも敵、そんな中では、前方しか活路は無い。
そして五人は集落の出口を駆け抜け、さらに走った。
ふと気が付くと、後ろから追いかけてくる生き物はいなくなってしまったらしい。
五人は息を切らせながらもその場で立ち止まり、呼吸を整えた。
トロールの集落の方からは、彼らの咆哮と戦闘らしき音が聞こえてくる。
呼吸を整え自分たちの背後の安全を確信した頃、後ろを振り向く……。
何もいなかった。おそらく、トロールの集落に置いてきたのかもしれない。
とりあえず彼らは、ここで一息いれることにした。
「なんとか振り切れたかな……」
「みたいだね……」
「トロールのところに置いてきたかな?」
「トロール達が石化していくのを見ました」
「一体なんだったのだ、後ろにいたのは?」
「分からん……、まだ集落にいるかもしれない。ちょっと様子を見てくる」
クロウはそう言って、トロールの集落の偵察に行った。
クロウはトロールの集落の近くにある木に登り、集落の様子を覗った。
集落には数多くの石化したトロール達が立っていて、すでに静まりかえっていた。
集落の広場らしき場所に、黒い大型の魔物がぼろ雑巾のようになって倒れている。
動いているトロールはもういないようだ。
村の外れに目を向けると、そこには縄で繋がれた大型の動物らしきものがいた。
クロウはそのことを確認すると、皆の場所へ戻った。
「トロールの集落には生き残りはいないみたいだ」
「う~ん、かわいそうなことをしたかな?」
「でも、ウチらも石になりたくないよ?」
「そうですね、私たちも危なかったですし」
「……成程、これを狙っていたのか」
「いや、狙ってた訳じゃ無いし。とりあえず、集落に行ってみよう」
「なんかあったの?」
「縄で繋がれた動物みたいなのが見えた」
こう話して、五人はトロールの集落へ向かった。
集落のあちこちには石になったトロール達が立っていた。
広場らしき場所にいた黒い大型の魔物は、すでに息絶えていた。
「この魔物、『カトブレパス』ね。目を合わせなくて良かったわ」
「この魔物と目を合わせたら石になっていたのでしょうか」
「多分ね」
「でかい動物がいたのはこっちだ」
クロウはそう言い、皆を先導する。
そこにいたのは、大木に縄で繋がれた大きな『カバ』だった。
そのカバはこちらに気づくも、特に怯えた様子もみせず、足元の草を食べていた。
そしてその額には、赤い宝石が光っているのが見えた。
「この赤い宝石……もしかして……」
クロウがそう呟いた。
「
フェイの魔法がその動物を分析した。
「じゃあ、これが『カーバンクルの赤い宝石』?」
「そうみたいですね……」
「カバとは……」
五人は目的の物を見つけ、安堵した。しかし、
「この宝石、どうやって取ろう?」
「取ったら怒るかな?」
「どうだろう? 大人しそうに見えるけど」
「体が大きいですからね」
「近づいてみるか?」
ヒナはそう言って、カーバンクルにゆっくりと近づいて行った。
だがその時、見慣れない人間に近づかれた彼が、狂ったように暴れだしたのだ。
突然の事に驚く一行、武器を構えて警戒する。
カーバンクルはこちらに突進しようと走るも、縄に繋がれてるので止まってしまう。
ヒナはひとまず距離を取ると、五人はどうすべきか考える……。
そこで再び彼がこちらへ突進すると、縄が切れて勢い余って転んでしまった。
「まずい!」
縄が切れたカーバンクルは立ち上がると、目の前にいる者に向かって、狂ったように突進してきた。
エリーがそれを横に飛んで躱す。
「
フェイが魔法で足を止めしようとするが、カーバンクルの巨体は止められなかった。
リノが銃で撃つも、彼は蚊に刺された程度にしか感じてないようだ。
さらに突進してきた彼の巨体を、ヒナは横に飛んで躱しつつ刀で斬る。
彼は体から出血していて、さらに怒り狂っている。
もう一度カーバンクルはこちらへ突進してきた。
リノがそれを躱すと、彼は木の幹に突っ込んで行き、頭を打ったようだ。
だが、それでも彼は怯まない。立ち上がって振り返り、再び突進の準備をする。
「あの額、宝石が取れてるわ!」
フェイがそう言って、全員でカーバンクルの額を見ると、確かに頭の宝石が取れて、そこから血が流れていた。
エリーがすかさずその『赤い宝石』を拾い、彼から離れる。
彼が今度はクロウに突進しようとするも、足がもつれて転んでしまう。
何とか立ち上がろうとするも、疲れているのかその足取りは鈍かった。
「
突如、リノの魔法が飛び、カーバンクルの傷を癒した。
「逃げましょう! 急いでください!」
リノがそう言い、察した四人はリノに続いて走った。
彼はこちらを追ってきたが、体力が尽きたのか、間もなく諦めてしまったようだ。
トロールの集落を駆け抜けて、カーバンクルが追いかけて来ないのを確認すると、一行は休息を取った。
「ふぅ、リノが回復魔法使った時、一瞬焦ったけど、あれで良かったんだな」
「あたしが石拾ったのもあるけど、いい考えだったね」
「そうね、傷は癒えても、体力はすぐに戻らないしね」
「うまくいって良かったです。このまま戦うよりいいかな、と思ったので」
「……こういう戦い方もあるんだな……。勉強になった」
「いえ、思ったよりうまくいっただけです……」
リノは照れてしまった。
「なんにせよ、クエストは達成できたし、上出来だな」
「カバも殺さずに済んだしね」
こうして五人はクエストを達成し、街へと戻って行った。
街に戻り、冒険者ギルドでクエストを報告し報酬を受け取った一行。
明日はどのような冒険が待っているのだろうか。
五人はそう思いつつ、今日は休む事にしたのだった
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