第2話 残酷、オークの集落

 二人がリベルタスの街の酒場に入るなり、彼ら向かって若い娘が声をかけてきた。

「お~い、そこの戦士さんとメイドさん、こっちに来て座らないか~?」

そちらに目をやると、二つ離れたテーブルに腰かけている二人の娘がいた。

 一人はエルフだろうか? 長い金髪、とがった耳、端正な顔立ち、ドレスのような服と外套を着ている。

 もう一人は人間の娘だ。活発そうな表情、動きやすそうな服を着ている。

彼女はこちらに向かって手招きをして、隣に座るように指差している。


 二人は他に空いているテーブルも無いなので、そのテーブルへと向かう。

彼女に近づくと、隣に座るようにうながされ、二人は席に着いた。

「あたしは『エリー』っていう。職業は『盗賊』だ。で、こっちが……」

「ウチは『フェイ』っていいます。『魔法使い』やってます。よろしくね」

エルフの娘に続き、メイドの娘が言った。

「私は『リノ』っていいます」

「俺は『クロウ』っていう」

エリーと名乗った娘は話を続けた。

「あたしら、この酒場で前衛役と回復役のプレイヤーを仲間に加えて、四人くらいでクエストでもやろうかって話してたんだ」

「そこで丁度良くあなたたちが酒場に入ってきたので、声をかけさせてもらったの」

「声をかけたのはあたしだけどな」

エリーは口が早いようだが、フェイはその発言を気にせず続ける。

「そういうわけですので、よかったら一緒にいかがですか?」

「俺は構わないけど、リノちゃんは?」

「私も大丈夫です」

「二人とも知り合いか?」

「いや、さっきのクエで彼女に助けられてね、そこで知り合ったばかり」

「そっか、ちなみにあたしらはシーズン1からの連れでね」

「シーズン1って?」

「あれ、知らないのか? このゲームには複数の『勝利条件』というのががあって、そのうちのどれかを満たしたら、このゲームの勝利者となって、現実世界で『賞金』が支払われるんだよ」

「そうなのか? 初心者ガイドっぽいの飛ばしたからなぁ」

「そこはちゃんと見ておけよ……」

エリーはあきれ顔でそう言い、話を続ける。

「それでな、このゲームの勝利条件を達成したプレイヤーには、『賞金』に加えて、次のシーズンでゲーム内での願い事を一つ、叶えることができるんだよ」

「ふむ……」

「これは聞いた話なんだけど、シーズン1の勝利者は、このゲームの世界を滅ぼそうとしている『魔王』という者を倒して、その褒美に現実世界での賞金『十万ドル』を獲得したらしい。そしてさらにゲーム内の願い事で、自分が第二の魔王になることを望んだみたい」

「へぇ~、そんなこともできるんだ」

「そしてシーズン2の勝利者は、伝説の古代竜を倒し、『竜の心臓』というものを手に入れて、不死身の体をになることで勝利条件を満たしたらしい。あ、もちろん賞金『二十万ドル』も獲得してるね」

「なるほど、このゲームの勝利者になることで、現実で賞金を貰えるわけか」

「そんなことも知らないでこのゲームやってたのか? それに今のシーズン3は賞金が『三十万ドル』に値上げされたんだよ」

「三十万ドル? これは賞金を狙っていくしかないな」

「おいおい、そうは言っても簡単じゃないぞ? 貰えるのは数万人いるプレイヤーのごく数人だし、宝くじみたいなもんだよ?」

「そうか……、でもな、俺はキャラクターを作った時から変わったスキルを持っててね、幸運に恵まれてるらしい」

「なんだそれ? ちょっと見せてみろ」

 クロウはスクリーンを開き、スキルの項目を表示すると、エリーが覗き込んだ。

そこには『剣術F』、『盾術F』、『防御F』、『白いカラス』と表示されていた。

「『白いカラス』って何? ランクが無いから才能スキルらしいけど」

リノとフェイも、彼のスクリーンを覗き込んだ。

「本当にそういうスキルがあったのですね……」

「『白い烏』っていうの、初めて見たわ……、かなりのレアなのかしら?」

「その『才能スキル』って何なんだろ?」

「そっか、あたしのスクリーンを見てみな」

そう言ってエリーは自分のスクリーンを表示させた。

「これがあたしのスキルよ。『短剣F』、『回避F』、『忍び足F』、『開錠F』、『罠発見F』、『罠解除F』ってあるだろ? これが職業固有のスキル。そして私はまだ覚えてないけど、一般スキルというのもあって、それは店でも売ってる。それで、才能スキルってのはプレイヤー固有のもので、初めから持ってる人もいれば、ゲームをプレイしてる最中に突然目覚めたりする人もいるんだ」

「そうなのか」

「でも才能スキルって、レアだから情報が少なすぎてほとんど分かってないのよね」

「持ってないのが当たり前だから、無くても気にするほどのことじゃないからね」

「俺もこのゲーム始めたら何故かこのスキル持ってたんだよな……」

 エリーが何か決めたような感じで一度うなずき、再び話し始めた。

「よし、この四人でパーティー組んで、どっか行こうか!」

「そうね、このメンバーだと面白そうね」

「はい、よろしくお願いします」

「クロウは?」

「行こう。このスキルの効果、もう少し色々と試してみたいし」

「じゃああたし、冒険者ギルドに行って、なんかクエ受けてくるよ」

こうして四人は酒場を後にし、冒険者ギルドへ向かった。


 そしてエリーは、手早く次のクエストを受注してきて、皆の所へ戻ってきた。

「エリっち、どんなクエ受けてきたの?」

「Eランクの『オークの集落を壊滅させよ!』ってやつ」

「壊滅となると、雑魚十匹位倒すの?」

「さっきやたら強そうなの出てきたから、今度は楽なのがいいな」

「ボスもいないはずだから簡単だと思うよ」

四人はそんな話して、オークの集落へ向かった。



 ――『オークの集落』

 集落は枯れ木で作った柵で囲われていて、不器用な作りになっていた。

入り口にはオークが二匹、集落の広場にも二匹、見張りがいる。

その広場を囲むように原始的な小屋が二つ建ててあり、広場の奥には洞穴の入り口らしきものも見える。その洞穴も彼らの住居になっているかもしれない。


「まず見張りを倒そうか。あたしが石を投げて見張りを引っ張って来るから、クロウとリノで一匹お願い。あたしとフェイでもう一匹やる」

エリーがそう提案すると、皆うなずいて同意した。

「じゃ、引っ張ってくるね」

彼女は入り口のオークに近づき石を投げて、彼らを引き連れて戻ってきた。

「フェイ、お願い!」

氷結飛槍アイスジャベリン!」

フェイの杖から氷の槍が飛び出し、オークの足元に突き刺さった

その氷が徐々に広がっていくと、彼の足を凍らせてその動きを止める。

エリーはその隙を見逃さず、彼の背後に回り、その急所を刺した。

そのオークは悲鳴を上げて倒れ、動かなくなった。

 一方のクロウ達も、彼がオークを斬りつけると剣先から雷撃が放たれ、オークを一撃で倒してしまった。

「ちょっとこの剣、強すぎるんだけど……」

「なんだその剣? なんていう名前?」

「『雷神剣』っていうSランクの剣。さっきのクエで拾った」

「何だそりゃ? なんで序盤からそんな強いの持ってるんだよ?」

「俺も良く分からん。このゲーム今日始めたばっかりだしな」

「ふ~ん、とりあえず色々試してみようか」

彼らはそう話すと、クエスト達成の為、他のオーク達を倒す事にした。


 オークはいわゆる豚人間とでもいうもので、こういうゲームには序盤の敵としてよく出てくる魔物だ。もちろん序盤の敵だけあって弱い。

彼らはまず、見張りのオーク達を集落の外へ誘き出して倒した。

次に広場の小屋の中にいるオーク達をも倒すと、残るは洞穴の中のみとなった。

「楽勝だな、この中の奴も倒そう」

「油断するなよ、洞穴の中にもオークがいるんだし」

 一行が洞穴を覗き込むと、中にいたのは、赤い染料を体のあちこちに塗っている、大型の太ったオークだ。

彼は大きな鍋で何かを煮ていて、嫌な臭いが洞穴に漂っていた。

四人は洞穴の外から様子見しつつ、作戦を考えていた。

「やっぱりあれは魔物のボスでしょうか……」

「そうみたいだな……」

「ウチの覚えたての魔法で調べられるよ?」

「フェイ、大丈夫なの?」

「ウチに任せて! 健康分析ヘルスアナライズ! ……彼はレッドオークの『前立腺のザガン』よ。腹囲140、BMI値55.56、メタボリックシンドロームの疑いがあるわ」

「メタボに前立腺って何だよ! ガンなの? アレ」

「そういう名前みたいだし、再検査が必要かも?」

「せめて敵の弱点とか調べてくれよ~」

「病気はともかく、強そうだな……」

「どうしましょうか……?」

「やっぱ基本通り、戦士が魔物を引き付けて、回復しつつ皆で攻撃かな?」

「それでやってみようか。四人でかかれば何とかなるだろう」

「大丈夫? いけそう?」

「俺に任せてくれ、この『白い鴉』ってスキルは幸運の象徴だと思う」

「私はがんばって回復しますね」

「う~ん……」

エリーは心配そうにしていたが、彼がやる気なので、任せる事にした。


 クロウは手に雷神剣を構え、洞穴に入り『前立腺のザガン』に近づいて行く。

そして彼の後ろに隠れるように三人が続く。

ザガンはこちらに気づくと、手にした大きな混ぜ棒振り上げて襲いかかって来た。

氷結飛針アイスニードル!」

フェイの魔法が飛び、ザガンの顔に当たり、彼を怯ませる。

エリーはその隙に背後から斬りかかるが、彼の脂肪は厚く、致命傷にはならない。

次にクロウが攻撃しようとするが、彼の方が早く混ぜ棒を振り下ろしてきた。

クロウはその攻撃を剣で受け止めようとするが、

「熱っ! あっ!?」

混ぜ棒についていた鍋の汁を浴びてしまい、思わず剣を落としてしまった。

だが彼の落とした雷神剣は、地面に落ちるとそこから雷撃を放ち、その雷がザガンの足に当たったのだ。

〝ピギィッ!〟

と、急な足への雷撃にザガンはよろめき、後ろへ倒れてしまう。

だが後ろにあったのは熱い鍋である。彼はアツアツの鍋に尻もちをついてしまった。

〝プギィィィ!〟

と彼は尻に大やけどを負って回り転がりだした。

クロウとエリーが、転げまわるザガンに攻撃をためらっていると、

氷結飛針アイスニードル!」

そこへ再びフェイの魔法が飛んだ。

だが、今度は氷のつららが彼の尻の穴に突き刺さってしまったのだ。

〝パペェッ~~~~~ッッ!〟

ザガンはよく分からない叫び声を上げて、泡を吹いて動かなくなってしまった。


「……なんか勝ってしまったな」

「フェイ、ずいぶん残酷な殺し方するね……」

「……絶対に事故よ、ウチは狙ってないわ……」

「ちょっとオークさんがかわいそうですね……」

四人はザガンの最後に呆れていると、彼の死体が消え、そこに何かの箱が残った。

「ドロップアイテムかな?」

エリーがそれを拾い上げた。

「宝石箱っぽいね、高く売れそう。とりあえずあたしが拾っておくよ。街に戻ったら山分けにしよう」

「そだね」

過程はどうあれ、敵のボスを倒してクエストを達成した四人は、街へ戻る事にした。



 リベルタスの街へ戻った一行は、クエストを報告して報酬を受け取った。

そして酒場で休憩しながら、オークが落とした宝石箱を開けてみた。

宝石箱を開くと、中に入っていたのは『ホルスターに入った銃』と貴金属だった。

「「「「銃!?」」」」

四人は驚いて大声を出してしまう。

「じゃあさ、リノっちが銃のスキル持ってるみたいだから銃をあげて、貴金属は三人で山分けかな?」

「えっ!? 銃なんて高い物、私が貰ってもいいのですか?」

「うん、それでいいよ」

「そうそう、貰っておきなよ」

「ちょっとそれだと後ろめたいので、貴金属のほうを換金してから、もう一度考えるのはどうでしょうか?」

三人はリノがそう言って譲らないので、食事を取ってから貴金属の換金に向かった。


「貴金属と宝石箱で六万シルバーだって」

「結構いい値段だな」

「やっぱさ、最初の案の銃以外三人で山分けでいこうよ」

「うん、ウチはそれがいいと思うよ」

「俺もそれでいいよ」

「えっと、本当にそれでいいのでしょうか……?」

「そんな気にしなくてもいいと思うよ」

「では、皆さんのご好意甘えさせて頂くことにします」

リノは深々とお辞儀した。

「そんなに気にしなくてもいいのに」

「うん」

「じゃあ、貴金属換金して配るね~」

「は~い」

「じゃあちょっと装備買ってくるよ」

「あたしも」

「ウチも」

「私もですね」

「じゃあ、買い物してから冒険者ギルド前に集合しよう」

彼らはそう話すと、それぞれ買い物しに街へ散らばった。


 その後、四人はそれぞれ買い物を済ませて、広場に集まった。

皆それぞれ装備を新調して、見た目も所々変わっている。

その中でも目立つのは、やはりフェイだった。

「今回はヨーロッパの民族衣装みたいなやつにしてみました」

「また衣装買ったの?」

「召喚魔法も買ってきたよ」

「あんまりおふざけは勘弁してくれよな~」

「今回は、いや今回もちゃんと実用性のあるものだよ」

「リノ、大人しいけど、どうかしたの?」

「はい、突然高いアイテムを貰ったりしたので、ちょっと困惑気味です」

「そうよね、あたしらも急に大金入ってきたし、クロウのスキルの力なのかな?」

三人はクロウの顔をじっと見つめた。

「俺は特に何もやってないんだけどなぁ……」

「まあいいさ、なるようになる。じゃ、次のクエ受けてくるね~」

エリーはそう言って、次のクエストを受けに冒険者ギルドへ向かった。


 こうして彼らは、この四人のパーティのまま、次のクエストへ向かうのであった。

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