その五 魔法と真封
【暁side】
どうするべきだろうか。世代によっては、拉致されて悪用される可能性もある。
“羽”を確認したいが、“羽”の出現場所は人により異なる。
例えば俺などは右手の手首の内側に現れた。
服をひんむいて確かめるか。いや、人として最低だろう、それは。
焼き飯を食べ終えたルスカとほのかは、仲良くテレビを見ようとしていた。
「な、なんじゃこれは!? ひ、人が小さくなって入っておる!」
テレビを初めて見たのか、驚いてルスカはテレビの周りを見て回る。
今時、珍しい……いや、本当にそうか?
俺の中にルスカが本当に異世界から来たのではないかとの思いが浮かぶ。
頭を振ってリセットしようとするが、べたべたとテレビ画面を触るルスカを見ると、リセット出来ないでいた。
「あーちゃん。ルスカちゃんて本当に異世界人なのかもね」
母さんがひっそりと小声で話かけてくる。
もし、ルスカが言っている事が本当ならば、彼女の言う“マホウ”ってのは、もしかして“魔法”のことなのか。
夢ではないのだろうかと、ほっぺたをつねるが痛い。
ティロリローン、ティロリローン
テレビの緊急放送の字幕が出る。内容はいつもと同じワーム出現のために近所の人は避難するようにと。
俺は時計を確認する。ワームが出現してから、既に三時間経っていた。
「おかしいな」
俺の呟きが聞こえて、皆が俺を見る。これだから狭い家は。
「あーちゃん?」
「あ、あぁ。いや、ワーム出現から三時間経つのに、まだ倒せないのかなって思ってさ。ほら、いつもなら一時間ほどで片が付くじゃないか」
苦戦している? バタフライは真封使いのスペシャリストの集まりだ。
特に今出撃しているのは、対ワーム急襲部隊の第一隊だとテレビは言っていた。
しかし、もたもたしているとワームが丸まり“魔物玉”になってしまう。
魔物の厄介なのは、その数の多さだ。
一体のワームから多種類のモンスターが多いときは数百生まれる。
対ワーム急襲部隊第一隊は、いわゆるエース部隊。
真封育成学園の生徒達は、就職先にここを希望する者が多い。
だが、その分人数は少なく、大量の魔物に対応しきれない。
俺は避難するかどうか悩んでいた。
俺達家族くらいだろう、この周辺で避難していないのは。
昔、一度避難したことがあったのだが、母さんとほのかがそこで危ない目に遭って以来、俺達家族は避難しなくなった。
「……よし!」
俺は急いで靴を履き出掛けようとする。
「あーちゃん、どこ行くの?」
「少し様子見てくる。それで避難するかどうか決めよう」
玄関を開けて、俺は飛び出した。
「さて、避難指示を出しに見回りしている警察をどう避けよう」
「様子見なら高い場所からが良いのじゃ」
「そうだな、わかったって、えええええ! ルスカぁ!?」
いつ出て来たのか、俺の後ろを懸命に走っていたようで、肩で息をしていた。
「どうしてついてきた!?」
「ワシもワームを一度見ておきたいのじゃ。ほれ、行くぞ」
俺に追い付いたルスカは、俺を追い越して先を行く。
「あー、もう!」
俺は走ってルスカに追い付くと抱き抱えてやる。やっぱり、見た目通りで、とても軽い。
近くで見ると、とても三百歳とは思えないほど肌艶も良いし。
「あの建物の上ならよく見えそうじゃ」
「エレベーター動いているか?」
「ぺーたー?」
今時エレベーターを知らないなんてことあるのだろうか。
本当にルスカは、異世界から来たのかと思ってしまう。
「くそ! エレベーターどころか、しっかり戸締まりされてる」
ビルの入口のガラス扉を何度も引くが開かない。このビルを諦めた俺は他のビルへと向かう。
「くそぉ、ここもダメか」
「アカツキ、アカツキ。飛び上がるのじゃ」
「そんなの出来たら初めからやってるよ!」
「いいから、飛び上がるのじゃ! あとは、ワシに任せるのじゃ!」
意味がわからず戸惑うが、このままだといつか警察に見つかる。それに今はルスカもいる。
頭に誘拐の二文字が思い浮かぶ。
「ほれ、早くするのじゃ」
「ああ、もう! わかったよ!」
俺は届きそうにないビルの屋上に向けて真上に飛び上がる。
“アイスブロック”
「え?」
「ぼやぼやするな、次じゃ次!」
飛び上がった俺の足元に、いつの間にか氷の塊が出来ており、それを足場に何度も飛び上がる。
俺の足元に氷があるのは一瞬で、飛ぶ度に出来た氷は地面に落下していく。
「くっ!」
“アイスブロック”
“アイスブロック”
何度、飛び上がったかわからない。しかし、今俺はビルの屋上へと辿り着いていた。
真下を見ると、あれだけ落ちたはずの氷の塊がない。
というより、下に人がいたら大変なことになっている気がする。
「それより大丈夫なのか?」
俺の腕の中でぐったりとしているルスカが心配だ。
「だ、大丈夫じゃないのじゃ……まさか、この世界だと、これ程魔力を取られるとは……」
どういう意味なのかわからずにルスカに聞くと、ルスカの使う魔法は“聖霊”というのに自分の魔力を餌に力を借りるという。
それがこの世界だと“聖霊”がかなりの大食いらしい。
「気休めにしかならないと思うけど」
“
俺の右手首の“羽”が白い光を放つ。ろくに使えない俺の
リリースサポートという系統の真封。
相手を回復させる。ただし、俺の場合は“第四世代”の為に効果は微量だが。
「今、お主何をしたのじゃ!?」
回復させたのだけど、それほど驚くことなのだろうか?
ルスカは、まるで化け物に出会ったような目で俺を見ていた。
◇◇◇
【ルスカside】
(こやつ、今ワシに何をしたのじゃ!)
正直ここまで消耗するとは、思わなかった。
この世界は、あまりに自然が少ない。
自然の少なさは“聖霊”の少なさを表している。
アカツキが何故こんなに疲れているのか聞いてくるので、説明してやったのじゃが恐らく良くわかってないだろう。
心配そうな顔でワシを見てくるアカツキ。本当にお人好しじゃな。
そんな事を考えていると、アカツキの手首が輝き出す。
どうやら、こっちの世界の魔法を見せてくれるみたいなのじゃが……
「今、お主何をしたのじゃ!?」
思わず口に出してしまった。何でもポンポンと思った事を口に出すのは、ワシの悪い癖。
それよりも問題はアカツキの魔法。
「何って、真封で微量ながら回復をかけただけだ」
「微量……? 完全に魔力が回復しておるのに!?」
アカツキは微量と言うとるが、ワシの魔力は完全に回復しておる。
もしや、アカツキ達の使う魔法は、それほど強力なのだろうか。
今、ワシの視線の先にいるワームと呼ばれる魔物、それと戦っている緑色の服を着た者達。
苦戦しているのが手に取るようにわかる。
それほどあの魔物は強いのか……
「おかしい」
アカツキの言葉が耳に入り、ワシはアカツキの顔を見上げると、非常に難しい顔をしていた。
「どうしたのじゃ?」
「え、ああ。今ワームと戦っている人達は、対ワーム支援部隊なんだよ。あの緑色の制服がその証なんだけど。
テレビでは急襲部隊の第一隊が出ているっていっていたはずだし」
なるほどの。多少攻撃手段はあったとしても戦闘に特化している者達ではないのじゃな。
しかし、どうもアカツキが眉をひそめて悲痛な顔をしているのは、それだけが理由ではなさそうじゃが。
それはそれとして、ワームを改めて見るとその奇妙な姿に嫌悪感を抱く。
黒く丸みのある硬い殻に覆われて、複数の触手が歩行を可能にしておる。
目があるのかは、ここからは見えぬが明らかに人間を襲う前提で行動しているのが見受けられる。
アカツキからの話だと、更にあれから魔物が大量に生まれるとは。
「どかまで通じるかのぉ」
本来ならば下から突き上げてひっくり返したいどころじゃが、距離がありすぎる。
燃やそうにも、あの硬い殻に隠れてしまえば、それほど効かぬじゃろうな、ならば。
「アカツキ。さっきのやつはまだ使えるかの」
「使えるけど……え! なにする気だ!?」
「ふふーん、まぁ見ておれ」
“大地の聖霊よ 汝の力をもって一粒の星となれ 光の聖霊よ 我の目指す場所へ導く一筋の道となれ メテオロード”
おおお、思った以上に魔力を吸い取られ、ワシは焦る。
複合魔法は、無茶だったかと。
しかし、ここで止めてしまえば、却って周囲に被害が及ぶ。
ワシは急遽魔力の割合を調整する事で、大地の聖霊を少なくして威力を抑えこむ。
「ぐぅぅっ……! 行くのじゃあー!!」
遥か上空に出来た人の頭位の大きさの岩。
ワシはそれをワームに向けて落とした。
クシャアアアァァァァッッ!!
ワームの断末魔、そしてメテオロードで落とした衝撃の爆音が、かなりの広範囲に響く。
舞い上がった煙と砂ぼこりが晴れるのを待ち、ワームの姿を確認すると、ワームの殻は粉々に砕けて潰れておったのじゃ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます