得と愉しき

青山えむ

第1話

 どうやって生きると得なの? 愉しいの?

 私はよく「いい人」って云われる。

 それは誉め言葉じゃない。「都合のいい人」なんだ。

 私はよく「優しい」って云われる。


 他人の気持ちを優先してしまい「私はいいよ」と云ってしまう。

 正直、周りの目を気にしている。

 それに、こうやって他人と上手くやっている方が、後々やり易い。

 後々の事を考えて、この決断をする。

 満足の行かない結果になったとしても「ゆくゆくはこれで良かった」になる。

 と思い込んでいる。


【今】を生きていない。

【自分の人生】を、生きていない。

 他人の気持ちばかり優先してきて、自分の本当の気持ちが解らない。


                〇


「いらっしゃいませ」

 お客の顔を見ると反射的に云う言葉。

 私は、CDや本や雑貨などを扱う店で働いている。

 大型のショッピングセンターにテナントで入っている店だ。

 全国で展開しているチェーン店だ。

 全国チェーンとはいえ、各店舗に置く商品は、そこのスタッフが決める。

 スタッフのセンスが問われると云い換えてもよい。

 スタッフの年齢幅は、二十歳から四十代までいる。

 二十五歳という私の年齢は、ちょうど中間にあたる。


 制服は無く、私服で働いている。

 色々な服の組み合わせを試せるので、ちょっと愉しい。

 それに私はCDも本も好きなので、何気にこの仕事が好きだ。


 楽器やCDを買いに来るメンズと仲良くなれる、と友達に思われている。

 私服でお洒落ができる、と友達に思われている。

 良い事尽くしに見える? 

 メンズとはほぼ毎月のように顔を合わせていると、自然と顔見知りの雰囲気になる。

 ただ、相手はお客である。そこを超えたらやりづらくなるのは自分だ。

 私は顔なじみになったお客相手にも敬語を使う。当然と思うが、同僚は違う。

 ちょっと仲良くなった相手にはすぐにタメ口を使っている子もいる。

 色んなスタッフがいた方が面白いだろう。私はそう思い込んでいる。

 上司には、「小泉は力の抜き所が解らないんだな」と云われる。


               〇



 休日は友人の経営するカフェに行く。

 販売業の私の休日は、ほぼ平日だ。

 平日の飲食店は、会社勤めの人が多い。

 ショッピングセンターでも、フードコートはいつも混んでいる。

 休日はゆっくりしたいので、カフェの選択になる。


 私の友人・貴子たかこが経営するカフェは、駅からまっすぐに歩いて小路に入った所にひっそりとある。

 周りに緑が多くて、ガラス張りの店内には直射日光が当たらない。

 BGMは川のせせらぎや鳥の声など、自然の中にいるような音楽だ。


 ここでは時々イベントをやっている。

 個人の作品の展示会やライブなど、アーティストの卵が集う場所でもある。

 ライブや絵画の展示などには私もよく行く。

 集まった人達と気軽にトークが出来る場所でもある。

 同じ趣味を持った人達が、刺激を与えあったり情報共有出来る場所として、密かに流行っているようだ。


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