終わりのお話
エピローグ第1話
とっぷりと日が暮れていた。
人間界と神界の狭間の世界は静かになった。
まんまるの満月が柔らかい明かりを地上に届け、笑っているかのように夜空に浮かぶ。
ぬらりひょんとの戦いが終わった一時間後に、神界からうかのみたまの神が降臨した。
その後の片付けのために風森町にやって来たのだ。
人間界に
その後すぐに高天原に移動してうかのみたまの神は、出迎えた眷属たちに微笑んだ。
「ふふふっ。君たちよく頑張りましたね」
うかのみたまの神様は、妖怪たちや自分の眷属に労いの言葉をかけていく。
ぬらりひょんの動かない体は地面に横たわっていて、うかのみたまの神は左手と扇をかざす。
「ぬらりひょんは死んだわけじゃあありませんよ。ナナコと銀翔は絶妙な力加減でしたね」
「どうする気だ? まさかそんな奴に慈悲をかけるのか?」
玄武の薫は険しい顔をして、うかのみたまの神を睨みつけた。薫の問いにうかのみたまの神様は、にこぉっと艶やかな表情で笑った。
「どうするって? 生かしてやりましょうよ」
倒れていたぬらりひょんは気がつくとキョロキョロして、
「傷を治し生かす代わりに、ぬらりひょんからはほとんどの妖気と記憶を抜き去りました。もう悪さはしないでしょう。他のぬらりひょんの仲間たちも同様に……」
高天原に倒れた妖怪たちに、うかのみたまの神は次々と扇の風を扇いでやると、
「ぬらりひょん様ー! ぬらりひょん様は
「おっ、お前!」
うかのみたまの神の背後に、かつてオロチが倒したかまいたちが二人立っていた。
「息絶える寸前に私が救ったのですよ。オロチ、あまり君に罪を作らせるわけにはいきませんからね。仕方ないとは言え、妖怪の命もまた一つの命」
「……俺のため……」
うかのみたまの神はそっとオロチの肩を叩く。
「では、私はこれで。妖怪から人間に戻った者は元いた場所へ」
「お願いです。私は妖怪のままでいいわ」
「俺も」
かまいたちの子供を抱えたろくろっ首の女とのっぺらぼうの男が、うかのみたまの神に片膝を着きながら願い出た。
「人間ではなく、妖怪に?」
「妖怪の方が俺たちにはしょうに合ってるから」
「そうですか。おや、心を改めましたね? ならば罪を赦します。良いでしょう。気が変わったら稲荷神社に来なさい。私の使いである眷属の、神狐銀翔に
うかのみたまの神は貧乏神一族を縄で束ねて「甚だしくも神を名乗るならば、あなた方には厳しい教育が必要ですね」と連れだって空に上がって行こうする。
「うかのみたまの神っ! 銀翔とナナコには会って行かないのか?」
緋勇が月光を浴び、仰ぎ見ながら叫んだ。
「ふふっ。せっかく二人きりでいるというのに。――緋勇、それは野暮と言うものですよ。心配しなくとも、近いうちに必ず私はまたこちらに降りて来ます」
まばゆい光を纏い輝きながら、うかのみたまの神が天界に帰って行く。
姿は小さく小さくなり、やがて空に消え入り溶けるように見えなくなった。
✱✩✱✩✱✩✱
人間世界の屋敷の銀翔邸に戻ったおきつね銀翔は優しげに表情を浮かべ、気を失ったナナコに寄り添っていた。
「うっ……。……んっ。……あれ? 銀翔? 私は……?」
ナナコが目を覚ました。
力を使い果たしただるさがあり、あちこちの擦り傷は痛んだが、ナナコは清々しい気分がしてる。
「ナナコ、よう頑張った。戦いは終わったのじゃ」
おきつね銀翔は神獣使いナナコを抱きしめた。衣擦れの音だけが邸に響く。
満月の美しい晩に、ようやく銀翔はほうっと安堵のため息をついた。
夜空には、一点の
二人をねぎらうように優しく優しくほのかに照らしていた。
月の光に照らされた寄り添う二つの影がなんともいえず愛しさを醸し出している。
屋敷の
ナナコと銀翔は月光を浴びながら、いつまでも飽きることなく満月を眺めていた。
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