第103話 地上に降り立つうかのみたまの神さま

 夜八時過ぎ、稲荷神社の横の銀翔が神楽舞いを奉納する拝殿に、金色の光が灯った。


 階段の端の灯籠にも火がボウッ…ボウッ…っと、点いていった。


 満月の明るい光が、稲荷神社と神楽殿を包むように強く注いでいる。


 異変に気づいたのは、たまたま稲荷神社の境内に散歩に来ていた銀翔と青龍、それに銀翔に誘われ外の空気を吸いに来た緋勇だった。


「青龍に朱雀ですね。それに銀翔まで、まあ揃いましたか」

 威厳を含む気高き声がした。

 おきつね銀翔は彼と会うたびに心のどこかが苦々しい思いでその声を聞いていた。

 あの戦いの最中さなかに自分を眠りにつかせた、張本人を。

 尊敬する我が主を。


「なぜ昼間、約束の時間に参られなかったのじゃ?」


 ナナコも北斗羅もうかのみたまの神さまに会えるのを楽しみにしていた。


 神の足元が見える。

 やがて言葉を続けながら、うかのみたまの神の全身が現れた。


「申し訳なかったねえ。神の世界にもとやかく言う頑固な者どもがいて、邪魔だてしてくるもんだからね。

 しかし、青龍と朱雀は銀翔といるのにね。……玄武は何処いずこかな?」


 うかのみたまの神さまは緋勇をちらりと見やって、含みのある笑いをした。


「銀翔とナナコの手を煩わせなくたって、一人で探せたさ」

「見つかったのかな?」


 うかのみたまの神は服の袖から扇を出した。

 ひと振りしたらば人の形の和紙が、桜吹雪のように舞っている。

 たくさんの式神をうかのみたまの神は地上に放った。飛ばした式神は結界を作り出している。


「玄武はすぐそばにいる」


 おきつね銀翔は、はっきりと断言した緋勇の言葉に、驚き目を見開いた。

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