第104話 ぬらりひょんとうかのみたまの神さま

「そこだっ!」

 言うがいなや、緋勇は朱雀に変化へんげした。

 朱雀が全身から放つ炎が、広げた翼から火が吹き出した。


 おきつね銀翔がむぅっと短い声で妖力を込め狐火を出せるだけ出し、周りを囲って結界を作った。


 一人の侵入者が銀翔の目の前に空から降りて来た。


「やい、銀翔、うかのみたまの神。やるじゃねえか。このぬらりひょん様を結界内に閉じ込めるなんざ」


 ぬらりひょんの登場に一同みんなが皮肉めいた笑顔になる。


「お主が来るのはなんとなくはな、気配で分かっておったのじゃ」

「フフッ。来おったか」

 うかのみたまの神は扇を口元に優雅に持っていくと、炎の柱を扇からゴォーッといくつも投げ飛ばした。


 ぬらりひょんはスウーッと体を飛ばし次々と炎をかわす。

 

 炎の柱は境内の向こう側に向かって行く。


 うかのみたまの神が結界を張った矢先に佐藤薫を依り代にしたぬらりひょんが現れていたのだ。

 さらにそこに、銀翔が結界を張ったので、ぬらりひょんは閉じ込められた。

 これで激しい戦いをくりひろげても、人間世界に戦いの影響は出ないはずだ。


「久しゅうのう、ぬらりひょん」

「とんだご挨拶だな、うかのみたまの神よ」

「私の気配を感じ、参ったのかな?」

「ハハハッ。そうさ、俺様が直々にお前の顔を拝みに来てやったわ」

「お供もなしか? 私も随分見くびられたものだな」

「ちょっとした、偵察だからな」


 龍神の青龍くんが二重の結界を瞬間移動でスルリと抜け出し、どこかへ飛んで行った。


「そいつが玄武だ」

「はっ? 緋勇、なにを申しておるのじゃ?」


 緋勇が指を差す相手は佐藤薫の姿のぬらりひょんだ。


「銀翔、朱雀の言っていることは冗談ではないようだよ」

「俺はまだ冗談かませる余裕なんてないよ、銀翔」


 うかのみたまの神様と朱雀の緋勇に諭され、ようやく銀翔は現実を受け止めた。


「ナナコの幼馴染みの佐藤薫が……。この者が玄武とな? 四神獣の最後の一人が薫だったと申すのか?」

「ハーッハッハ。そうさ、俺が佐藤薫を依り代にしたのは、覚醒前の玄武の力を我が物にするため」


 玄武が佐藤薫だった。


「先代の玄武は、生まれ変わっても神獣使いのそばに居たいがために、人間に転生したようだな」

「ぬらりひょん。お主、いつから気づいていた?」


 銀翔はジリっとぬらりひょんと間合いを詰めていく。


「さあね。俺様は鼻が利くんでね」


 うかのみたまの神と緋勇はぬらりひょんを囲うように、ゆっくりと近づいた。


 夜風が荒れ狂う。


 遠くの山から異変を感じた獣たちの咆哮があちらこちらからあがっていた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る