第99話 うかのみたまの神

 うかのみたまの神は外界に行くために、神々の許しを得なくてはならなかった。

 神々の住まう城の通路をうかのみたまの神は書類を山ほど抱えて歩いていた。

「まったく自由がないな」

 おきつね銀翔や藤島ナナコや大蛇妖怪オロチのことが気になって仕方がなかった。


 ぬらりひょんが風森町の結界を破ったことも気づいていたし、銀翔が自分の力の限界を感じて稽古をしたがっていることも、知っていた。


 藤島ナナコが力を発揮できずにもどかしい思いをしている事も、分かっていた。


 狛犬の北斗羅やシンラがおきつね銀翔の言づてを何度も持ってくる。


 うかのみたまの神は今にも走り出して、銀翔たちの元へ行きたい衝動を抑えて、神々からの仕事をこなしていた。


「イライラしてんなあ。うかのみたまの神」

 不動明王が声をかけると、うかのみたまの神は元来の柔和な表情を作り出して微笑んだ。

「イライラなどしてませんよ」

「そういうの俺には通じねえから。愛想笑いとか、建前とか」

 不動明王はムスッとした表情をして、うかのみたまの神の頬をぎゅっとつねった。


「なっなにをなさるんですかー!」

 うかのみたまの神が憤慨すると、不動明王は満足げに笑った。

「俺がうかのみたまの神の代わりに人間界に行って、キツネたちに稽古をつけてやるよ」

「えっ! よろしいのですか」

 うかのみたまの神は、ほんとに床から飛び上がって喜んだ。

 不動明王は腕っぷしの強さでは天界でも群を抜いているし、正義感もすごく強い。

 うかのみたまの神は不動明王に頼めれるのならば、これほどうってつけの方がいようかと息巻いた。


「人間界の危機だってえのに、なんだって他の神々が騒ぎ出さねえのか、俺は疑問に思っていたんだ」

「極力、神々は奇跡を起こしたりせず、人間たちが自分たちで人間界を守るのが正しいと…」

「まあ間違っちゃいねえな。だけど、妖怪たちは人間じゃないからな。藤島ナナコが前世で死んだのだって、妖怪たちが画策したからだろ?」 

 不動明王はなにやら一人で考えを巡らせたのかムウっとした。

「やっぱりお前が行け。うかのみたまの神」

「えっ?」

「考えが変わった。

 お前の仕事は俺が引き受ける。

 うかのみたまの神を信じて助けて欲しがってる者がいるなら、俺じゃなくてお前が行くべきだ」

 不動明王は、うかのみたまの神が両腕に抱えた書類をバッと奪い「急げ」と一言告げてきびすをかえした。


「ありがとう。不動明王ー」

 不動明王は、うかのみたまの神の方は振り返らずに、片手をヒラヒラさせて通路を颯爽と去って行った。

 不動明王の肩に掛けた上着がひるがえる。


 うかのみたまの神は雲の上から人間界を見て、そのまま目星をつけて落下し飛んで行った。

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