第95話 襲撃

 夜の闇がさざなみのように迫ってくる。


 妖気で出来た敵の槍が翔ぶ。


 続けざまに弓矢が飛び、数本放たれる。


 俺たちよりはるかに上空からか。

 

 荒天丸は急降下して、肩を撃ち抜かれた仲間の天狗を助けて岩場に運んだ。


 大蛇妖怪オロチと四神獣の白虎が乗る籠を持つ数人の天狗が次々と襲撃され倒された。


 籠が落下するのを、天狗の荒天丸が間一髪で抱えて近くの岩場に籠を下ろす。


「ありがとよ。空中戦は俺には不利だな」

「俺は落ちた仲間を見に行く。オロチ警戒しろ」

 ギリッとオロチは歯を噛み鳴らした。

 荒天丸はそのまま仲間を助けに空を飛び、天狗たちが落ちた所に向かって行った。


「誰だっ! いったい」

 襲撃してきた相手の姿が一切見えない。

 妖気も感じられない。

 大蛇妖怪オロチは目を閉じた。

「スズネっ! 俺から離れるなよ」

「うん!」

 奇襲の相手はいったいどいつだ。

 何人いる?


 オロチは何もない空間から牙涼刀を二本出して両手に握る。

 瞳は閉じたままだ。


 気配を探る。

 敵の気配はなにも感じない。


 虫の羽音や鳥の鳴き声。

 獣の息遣いは聞こえる。


 妖怪や邪気を放つ者は感じられない。

 俺の勘が鈍っているのか?


 否――。

 敵は、もういない。


「オロチ! 私も運ぶから、怪我をした天狗さんたちを早く天狗の里に連れて行こう!」

 白虎は少女の姿から、普通の虎よりも2倍ほど大きい体の純白の虎に変化へんげした。

 白虎スズネの体は淡く白く月光のように光りだす。


 スズネは俊敏に四本の脚を力強く蹴り上げ、天狗の荒天丸の方に向かって走り出していた。

 その後にオロチが、傷にうめく天狗一人を左肩に担ぎ上げて、白虎の後を駆け出した。



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