天狗の里の白虎

第92話 大蛇妖怪オロチとひまわり畑

 天狗の里におきつね銀翔の使いでやって来た(ナナコのためと言われて半ば強引に引き受けざるを得なかった)オロチは、天狗の荒天丸の母の周防すおうが応接間にて、謁見えっけんした。


 旅館のような造りの屋敷には要所要所に人間界の物ではない美しい花が生けてあり、周防がうかのみたまの神の使いである客のオロチのために用意していたものかと思えた。


「ようこそ、いらっしゃいました。この荒天丸の母でございます。夫はすでに亡くなっておりますので、今は荒天丸に天狗の里を任せております」

「そう…か」

 オロチは格式張った挨拶も苦手だったし、荒天丸の母の他人にも自分にも厳しそうな雰囲気といちいち作法を気にしそうな所にも、打ち解けられる気がしなかった。


 だいたい俺は親兄弟はおろか親戚なんてものもいない。

 面倒くさいな。


 オロチはそう思っていたが、もっと面倒なことにこれから巻き込まれていくのだ。

 ある者の登場によって。



「では挨拶はここまで。荒天丸」

「ああ。じゃあ行こうか? オロチ」

「ああ」

 いよいよ、白虎と対面する。

 オロチは少なからず緊張した。ピリリとした自分の空気感を自分の肌で感じる。


 荒天丸は屋敷を出て里村に向かった。黙ってオロチは荒天丸についていく。

 どこまでも続いてそうなひまわり畑が広がっていた。

「……素晴らしいな。こんなにたくさんのひまわりを俺はみたことがないなあ」 

 風森町にもひまわり畑はあったが、この天狗の里村は比較するまでもない。

 黄色いひまわりの花。

 時々吹く柔らかな山からの風にいっせいに揺れる。

 オロチはひまわりに見入っていた。

「妖怪たちに恐れられてきたオロチが、こんなに美しいものを愛でるのが好きな感動屋だとみんなが知ったら、驚くだろうな」

 荒天丸はバサアッバサアッと翼を広げたり閉じたりした。

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