学校編 薫とナナコと銀翔と

第61話 ナナコの中学校生活

 朝、ナナコは目覚めたら銀翔の尻尾に抱かれていてフワフワとした毛並みの触り心地にホッとする。

 銀翔は夜通しナナコを抱いて守ってくれていたようだった。

 銀翔は壁によりかかりながら少し眠気に襲われてはいたが、ナナコの起きた気配に目を細め無事を確かめるようにナナコの頬に触れた。

「おはよう」

「おはよう……、銀翔。もしかして眠らなかったの? まさか一睡もしてないの?」

 心配そうに訊ねるナナコの瞳を銀翔はじっと優しく見つめていた。

「ワシは神の眷属けんぞくであるし元々妖狐じゃ。数日は寝なくても平気じゃ。知っておろう?」

「う〜ん、だけど」

 銀翔は自分も立ちながらナナコを立ち上がらせた。

 銀翔がナナコの部屋の勉強机の横の壁に手をかざすと、人が一人通り抜けられるぐらいの穴が開いた。

「やはりな、ワシの館とナナコの部屋とを繋げることにしたのじゃ。自由に行き来できるからの」

「いいね。いつでも銀翔に会えるのね」

 ナナコにそう言われて銀翔は照れたように笑っていた。

「ワシは少し支度をしてくるでの。警護には狛犬のシンラと爺やのバンショウを連れて来るからのう」

 スウッと銀翔は穴のなかに入り何秒かして、子供に変化へんげしたシンラとバンショウが代わりにナナコの部屋にやって来ていた。


「ナナコさま。銀翔さまが戻るまでこの銀翔様の側人そばにんのバンショウと狛犬のシンラがお守りします」

 兎のバンショウと狛犬のシンラはナナコに微笑んだ。

 シンラは人間にしては少し鋭い歯をニカアッと見せて、ガチガチと鳴らした。

 青龍くんがそんなシンラの頭の上に乗っかった。毛量が多いからちょうど良いのか気に入った様子で、鳥の巣のように調ととのえて丸まった。


「青龍くんはシンラの頭の上で寝るのかしら? シンラは良いの?」

「ウン。キニナランゾ。ダイジョウブ」


 バンショウはナナコの中学校の鞄を勉強机の上から持って来た。

「さあさあ。ナナコ様は中学校へ行き勉学に、励む時間ですぞ」

 ナナコは笑って「着替えるからごめんね」とバンショウとシンラには廊下に出て行ってもらった。

 二人はハッとなり、申し訳なさそうな顔をして慌てふためいて、ナナコの部屋から転がり出た。


 ――本当は不安だった。

 ナナコは、いつものように中学校に通うことが不安だったのだ。

 薫が学校に来るのかも気がかりだったし、もう今までのように気兼ねなく話せる気もしなかった。

 だって薫の押し隠していた真実ほんとうの気持ちを知ってしまったから。

 そしてナナコは銀翔を好きだということを思い出している。


 なにより、もう平穏な風森町ではないのだとが言うことがナナコを辛い気分にさせていた。


 また銀翔やオロチやみんなと離れるのはイヤだ。絶対にイヤだ。


 あの時と同じように銀翔を傷つけて悲しませるのではないか?

 止めどもない恐れや不安がどこまでも増殖して波のように襲う。

 ナナコの胸をキリリと締めつけていた。






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