第54話 家に帰るナナコ
夕暮れが近づく。
「ナナコはそろそろ帰る時間じゃな。ワシが送ろう」
銀翔の館の周りはまだ明るかったが人間世界とは空間が違うのをナナコは『松姫』だった頃の記憶の中から思い出していた。
「銀翔」
ナナコは切なさがこみ上げてきた。
薫を助けたい。
そして銀翔あなたと離れたくない。
「ナナコ。ワシはそちを送った後、薫の家のようすを見てくる」
「えっ…」
「薫がうちに帰らなければ薫の家族も心配するであろう」
銀翔はナナコの薫を思う気持ちに寄り添い励ますつもりだった。
銀翔の屋敷に大狸の総大将の
「おお。久しゅうのう」
賑やかな男だ。
2メートル以上の長身で狸とはいえ人に化けた姿は人気俳優のような精悍さがあった。背後に化けてはいない子狸や狸たちが控えている。
「
銀翔にはなにやら考えがあるようだった。ナナコは銀翔をじっと見ていた。
大狸の総大将の
「松姫かっ?! 懐かしいのう」
「ソラチハさん…?」
戸惑うナナコに銀翔が助け舟を出す。
「ナナコはまだ松姫の記憶が安定しておらん」
「そうか。」
大狸の総大将は残念そうにナナコの手を離した。
「よお
天狗の荒天丸はバサアッと翼を広げて笑っていた。
「当たり前であろう」
憎々しげに空知葉は言い捨てた。
大狸一家とぬらりひょんの間には確執があり因縁と積年の恨みがある。
荒天丸は帰ると言い銀翔の館の扉に向かう。
「ひとまず俺は里に戻るが天狗一族は
天狗の荒天丸は気さくな男だ。あまり集団のなかに馴染めないオロチにも態度を変えることなどしない。
「良いもの?」
怪訝な顔をするオロチに荒天丸は肩を叩いた。
「きっと戦で役に立つ」
それを聞いたオロチは身支度をすると銀翔に言って部屋に戻った。
「
銀翔はナナコの手を握り扉に向かう。
「爺っ!
銀翔が空中に向かって話しかけるとポンッと銀翔の側人のうさぎのバンショウがなにもなかった空間から現れた。
「かしこまりました」
うさぎのバンショウが恭しく銀翔に頭を垂れ客人である大狸たちを奥の間に通し案内して行った。
「荒天丸。礼を言う」
「なにが? なにをあらたまってんだ銀翔?」
荒天丸に銀翔は微笑みかけた。
「お主の明るさには助けられることが多い。ではすまぬのう。ナナコを家まで送り届けてやらねばならぬでの」
「結界を忘れるなよ銀翔」
「ハハハッ。抜かりはない」
銀翔はかつての頼れる仲間が集い始めてほんの少し安堵していた。
「ナナコさあ帰ろう」
「うん」
ナナコは銀翔の手に温もりを感じながら家路につくことにした。
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