第53話 ぬらりひょんと薫

「河童の総督が銀翔お前とぬらりひょんのどちらにつくか決めかねていると聞いたぞ」

「もうぬらりひょんから打診がいったのか?」

「ぬらりひょんが現れてからまだ数時間しか経っとらんというのに」

 銀翔は憎々しげに言い放った。

「ぬらりひょんは昔から頭がキレる奴だったからな。」

 オロチが昔に思いを馳せた。

「銀翔お前ちょっと前に川にいる河童の住まいを荒らしたろ?」

「荒らす気はなかった。神獣青龍を守るためじゃ」

 銀翔は表情を固くして荒天丸を見ている。


「ねえ。ぬらりひょんはどこにいるの?」

 ナナコは薫が気掛かりでならなかった。荒天丸はナナコを気の毒そうに見た。

「松姫。八百屋の息子はり代になった可能性が高い」

「生まれ変わりではないの?」

「俺が聞いた特徴からは生まれ変わりの証がない」

「証?」

「魂にな。紅い炎の花が俺たち天狗には視える。ぬらりひょんを偵察に行った部隊からはそんな報告はない」

「魂に。私にも?」

「ああ。視えるよナナコ。だが覚醒前には視えないのがなんとももどかしいのだ」

「そうなんだ。じゃあ、もしかしたら薫は……」

「ぬらりひょんが体を奪い取ったんだろうな」

 薫はぬらりひょんの生まれ変わりではないのか。

 良かったと思った。

 まだ救われる思いがした。

 ナナコはきっと薫からぬらりひょんを離す打つ手があると思えた。

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