第28話 昔ものかたり 告げる想いに

 おきつね銀翔様はずうっと松姫様とこうして抱きしめ合っていたかった。

 ですが、今日は大事な儀式の日でございます。


「松姫。わしならそなたを泣かすような真似など絶対にしない」


 それは松姫には痛いほど分かっておりました。

 おきつね銀翔様と大妖怪オロチと風森の村を一緒に守ることになった日よりここまでずっと。

 おきつね銀翔様が自分のことを想い守ってきてくれたことをひしひしと松姫様は分かっておられました。


「銀翔」

「んっ?」


 おきつね銀翔様は神楽殿に戻り儀式をしようと松姫様とそっと離れた時です。


「あなたの気持ちも優しさもずっと気づいていたよ。私は分かっていたんだよ」 


 じっと銀翔様を見つめる麗しき美しい松姫様の瞳は銀翔の大好きな瞳です。

 松姫様に見つめられたら何もかもを突き動かす大きな力ともなるのです。


 松姫様と会うと銀翔様は元気になり力をもらい、そして時々切ない想いを抱くのでした。

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