昔ものかたり　おきつね銀翔のおもいで

　遠い昔のことでございます。

　おきつね銀翔さまはここのところ浮かない顔でございました。

「はあ」

「どうなされたのでございます？」

「松姫を好きな者は男（お）の子（こ）も女子（おなご）もたくさんおるのじゃ」

「そうでございますなあ」

　松姫とは銀翔様の想い人。

　心優しき人で人々やこうして銀翔さまを惹きつけまして愛くるしい方でございます。

　それに松姫様には許嫁の方もおります。

　最近はその方と蜜月のご様子。

　つまり仲睦（なかむつ）まじくて、銀翔様の入る余地はないであろうと誰もが思っておりました。

「さきほど松姫とオロチも一緒に妖かしを退治して参ったら、わしは冷たくあしらわれてしまった」

　銀翔様は松姫様に一度ならず失恋をしておりました。

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