第22話 ナナコと薫の帰り道

 気づいた時にはナナコは元の稲荷神社の境内にいました。

 手には龍の涙の指輪が握られていました。

(良かった。夢じゃなかったんだ)

 今度はちゃんと夢じゃなかったというあかしがあります。

 

 さっきまで石のように止まっていた薫は普通に動いています。

 薫が賽銭箱にお賽銭を入れていました。

「葵が早くよくなりますように」

 薫が熱心に祈っている横に並んでナナコも薫と同じように賽銭箱にお賽銭をいれました。

「どうか葵ちゃんが早く治りますように」

 ナナコは誰の仕業かは分かっていましたが神さまにお祈りしたほうがきっと早く良くなる気がしたのです。


 

 二人が帰ろうと階段に向かう途中に薫はナナコに言いました。

「お前といると落ち着く。

 ナナコが俺の隣りにいてくれると、だめになりそうなこともうまく行く気がするんだ」

 いつになく薫は真剣な表情です。

 顔を真っ赤にして。

 薫は稲荷神社の境内でナナコを見つめています。

「急にどうしたの? そりゃあ同い年だし、私たちさ幼なじみだから」

 いつものナナコと薫にはない二人のあいだに沈黙が流れます。

 

 その二人の様子を狛きつねがじっと見ています。

 ナナコと薫の会話が気になって仕方がない様子です。


 ナナコの方も狛きつねが視界に入り気になります。

(銀翔くんが聞いてる……) 

 そんな気がしてなりません。


「ああ。いやあ」

 薫がなんとも歯切れがわるいかんじなのが気になります。

 薫は階段を駆け下りてしまいました。

「まっ待ってよ。薫〜」

 慌ててナナコも薫を追いかけます。


 あとには狛きつねがじいっと座っておりました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る