善美 (the TALE on Love and Evil/*kalos kai agathos)

金村亜久里/Charles Auson

序章

 燎原、燎原の火、草を焼く橙の火、熱波が舐める、舐めるとそばから草は乾き、萎れて、乾ききったところで燃え盛る。芝は燃えている。ある、熱波が。






 熱波が。芝が燃えている。熱波、の中心にいる影、煙にまかれる黒い影が中央にぽつりとひとつ、煤けた贋金の色と塵埃を超越した青を纏ってひとり、影を中心に広がる乾いた熱波が燎原を成して草を燃やしている。薄汚い金色の小人が地から空を睨んでいる。



 草が燃えている。草が燃えている。熱波、の中心にいる影は天を見ていた。そこに怪物があった。翼に散った無数の玉石と光が星のようにかかやき、額に金星が降りてきて、黒い翼鱗に覆われた巨大な翼の端まで照らしだす。翼の端の爪のたまりのような濡れた反射に映る怪物の瞳は六。光の窪み。光の窪みである六つの瞳の並びは頂点を欠いた緩いV字放物線状。六つの光が怪人を見据えて、鱗、歯車と鉄筋と鱗で構成された姿は人工関節を埋め込まれた腐敗する竜であって、竜殺しの騎士の杭が突き刺さるだろう。竜殺しの騎士の杭が突き刺さることを怪物もそして怪人もまだ知らない。

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