第7話

 お姉さんが家に帰ってきた。


 お姉さんは自分の部屋に入ると、

 荷物を置いて着替えてすぐに降りてきた。

 そして僕の話を真剣に聞いていた。


「完全に女性となってしまっていたか……」

 僕の話だけではまだ信じられないという感じではあった。

 こんなことが現実に起きるわけがないことだから当たり前なのだ。


「ちょっと調べさせてもらって良い?」

 お姉さんは僕の身体を調べようとしてきた。

 僕は着ている服を全部脱いで裸になってお姉さんの近くに行った。

 手や肩や胸やお尻などを触られた。

 横になって足も開いて全部見られた。

「やっぱり女性になってる」

 僕は服を着た。


「あれ?しっかりと立って」

 僕を立たせてお姉さんは僕の横に立った。

「私より背が少し低い」

 お姉さんは衝撃な事実を知った様子だった。

 僕は自分の身長や体重などのデータをお姉さんに伝えた。

「もしかしたら私の下着や服が着れるかも」

 お姉さんは着なくなった自分の服を持ってきてくれた。


「お姉さん、これってしないと駄目?」

 僕はお姉さんのブラを手にとって言った。

「しないと垂れてくると思うし、

 これだけあると重さを感じるからしたほうがいいね」

 お姉さんはずっと女性だから簡単に言えるわけで、

 昨日まで男をやっていた僕にとって、

 女性の下着を着けるというのはとても抵抗のある行為であった。


「ブカブカの男物の下着を着けるより良いでしょ?」

 なんに抵抗感も感じられないお姉さんの一言で、

 僕は女性下着を着ける事になった。


「つけ方知らないからお姉さん教えてよ」

 僕は裸になっているとお姉さんがブラジャーを持って近づいてきた。

「お姉さんやっぱチョイ待ち!」

 僕にはどうしても女性下着をつけることは無理だった。

 なんか着けると昨日まで男だったということが消えてしまう気がした。


「男だったら覚悟を決めんか!」

 そのようにお姉さんから言われるものの、

 女性下着を着る覚悟を決める男はどうなんだと僕は思う。

 そもそもブラジャーをつける男の覚悟ってなんだ?


「それならまずパンツから履いてみようか」

 お姉さんがパンツをほいっと渡してきた。

 縞々のストライプ柄のパンツ。先ほどのブラジャーと柄が同じだ。

「お姉さんさ。これってお姉さんのパンツだよね?」

「お母さんのパンツを持って来るとおもうか?」

「今までお姉さんが履いていたやつだよね?」

「それは履かなくてタンスにしまっていた下着だから大丈夫だよ」

 大丈夫って何が大丈夫だよ……。


 いきなり見た人はどういうシチュエーションかと思うだろう。

 女の子が二人して部屋に居て、1人が裸で下着をつけようとしている。

 それをもう1人の女の子がまじまじと見ている図。

 一体、何プレーだよ。


「今、結ちゃんは女の子なんだよ?

 そして女の子が男の子の下着を着けて歩き回っている。

 そっちのほうが変だと思われないかな?」

 お姉さんの言いたいことはものすごくわかっている。

 僕が女性の下着を着けるという抵抗感があるというだけだ。

(着けるしかないのか……)

 僕は勇気を振り絞って縞々パンツを履いた。


「まだブラジャーには抵抗がある?」

 お姉さんはまだまだこれからだ。と言いたげに僕にブラを見せた。

 縞々パンツを履いたことで、

 なぜか僕は何かを一つ失ったような気がする。

 でもここでブラジャーはとてもじゃ無いが

 さらに何かを失うもの大きさが違う気がする。


 そこでお姉さんはスポブラを持ってきた。

「これなら良いでしょ」と言って僕に渡してきた。

 何かを必ず着けなければいけない。

 しかしブラよりまだマシな気がしてきた。

 自分でも徐々に何かを失いつつあることは

 十分に判っているがこれは気持ちの問題だ。


 そしてお姉さんの衣類を着た。

 僕のサイズを聞いているためか

 ちょうどいい感じのサイズのものを持ってきてくれた。

「靴は、今日履いたあの靴そのままあげる。ぴったりだったんでしょ?」

 何もかもお姉さんに頼ってばかりだった。

 お姉さんのお古と言っても僕と一つ違いなので古さを感じない。


 すべて着る時にはもうすでに時計の針が午後5時を回っていた。

「お姉さん、本当にありがとう」

 1人ではどうしようもならなかったことも、

 お姉さんと一緒だと一つ一つ解決していくのを感じていた。


「もうすぐお母さんが帰ってくるから、そしたらさ、

 これからどうするかをしっかりと考えていこう」

 僕はゆっくりとうなずいてみせた。


          ☆彡


『ピンポーン』誰かが来たようだ。

 僕はちょっと扉を開けると近所のおばちゃんが玄関に来ていた。

「結ちゃん、ご飯まだでしょ。これ多く作ったからおすそ分け」

 おばちゃんは、なにか鍋(?)のようなものを持っていた。

「ありがとうございます」

 僕はそう言って、おばちゃんを家の中へと入れた。


「由依お姉さん。近所の人が来たよ」

 お姉さんが玄関に来るといつもの笑顔でおばちゃんと話をしだした。

(さすがお姉さん、このおばちゃんによく対応できるよな)

 こういうときも作り笑顔でお姉さんとおばちゃんの話を

 いつまででも聞いていなくてはいけない。

 時々おばちゃんから話を振られる。

「それにしても結ちゃん、とっても可愛い服ね。すごくお似合いよ。

 初めて会った時、服のセンスは本当にどうかと思ったけど」

(うるせぇ!)と本気でムカついたけど笑顔で対応した。

 がまんがまん……。


「それにしても結ちゃんってなんか由依ちゃんに似てるのね」

「由依お姉さんにですか?似てるかなぁ?」などと話に入っていく。

 そして一時間が経過。


 今は女性になっているが昨日まで男の子。

 これ以上付き合いきれるものでは無い。

 さすがにお姉さんもそのことに気が付いたのか、

「結ちゃん、おばさんから頂いたものをテーブルに置いてきてくれる?

 そしてあと大輔の様子を見に行ってくれる?まだ寝てると思うから」

「はい、判りました。由依お姉さん」

 僕はお姉さんからおすそ分けに頂いたものを手に取り、

「それではおばさん。失礼いたします」と言って

 その場から立ち去ることが出来た。

 僕は頂いたものをテーブルの上に置き、

 二階へあがって大輔じぶんの部屋に入った。


 男の社会とはまったく違う女性社会。

 特に近所との付き合いは女性にとっての社交場。

 そして目をつけられないように

 うまく振舞わないといけない戦場でもあった。


 仕事場が主戦場の男性諸君。

 女性社会を良く見て欲しい。

 道で何時間も突っ立って話をしていて良いご身分だと思うだろう。

 しかし女性にとって、その場所も戦場の一部なのだ。

 なにも仕事場だけが戦場ではない。

 慣れていない僕はおばちゃんにメッタメタにやられ、姉に助けられた。

 僕より一つ年上の姉なのだが、

 今日の朝に女性になったばかりの女性初心者の僕が、

 17年も女性をやっているお姉さんとの間には

 たくさんの修羅場を潜り抜けた経験の量の大きな違いがあるのだ。


(おばちゃんパワー恐るべし……)

 僕はとても疲れ果ててしまいベッドで眠りについた。



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