第2話

「大輔、中間テストの結果はどうだったの?」


 母親の小言を聞く時期に来たか。とうんざりする時期である。

 中間テストの結果なんて聞くまでも無いだろ。

 いつもと同じで悪いに決まってるだろ。ボケが。


「大輔。もうちょっとちゃんとしっかり勉強しなさい」

 ちょっとなのか、ちゃんとなのか、しっかりとなのか。

 学校の先生やってるんだろ?ちゃんと話せや。


 僕の母親は教師である。

 地元の女子進学高の先生で二年の担任をやっている。

 一つ上の姉さんのことについて話をしたように

 この母親も実は頭が良い。

 母親が教師ということもあり教育には厳しかったが

 姉とは対照的に僕は成績が伸びることは無かった。

 いわば落ちこぼれというものである。


 学校での落ちこぼれなら、まだ良かったのかもしれない。

 家庭でも姉と比較され落ちこぼれになっているのだ。


 僕たちには父親が居ない。

 小さいときに交通事故で亡くなったと聞いている。

 僕が幼稚園くらいだったと言っているが、

 実は僕には父親の記憶が無い。

 母親が女手一つで僕たちを育ててくれている。


 だからお母さんに迷惑をかけてはいけない。

 僕にもそれくらいは判っている。

 だからといって成績が上がるわけではない。


「大輔。もうちょっとお母さんには優しくしてあげなよ」

 ひねくれている僕に言う姉の言葉だ。

 もちろん母を苛めているつもりはない。

 僕が顔を合わせたくないだけだ。


          ☆彡


 このような僕なのだがぼっちということはない。

 友達?悪友?腐れ縁?どう言ったらいいのか判らないが居る。

 その人の名は佐伯恭也という。


 恭也とは、なぜか小さいときから同じクラスになることが多い。

 僕が覚えているのは小学校4年のときにさかのぼる。

 市立の小学校に通い4年生のときに同じクラスになった。

 席が隣同士だったということもあり、

 よくふざけあったりしてすぐに仲良くなった。


 そして地元の中学に通い、

 高校の進路を恭也とよく話したものだった。


『お姉さんと一緒の高校に行くのか?』

 恭也の意地悪な質問をよくされたものだ。

 僕の成績を知っているだろう。

 僕の成績で私立城北第一高校に入れっていうのか。


 そして僕は恭也と同じ県立城北第二高校に合格した。

 合格したときは二人で喜び合った。

 恭也の家に行き、恭也の家族が合格を祝ってくれた。


『恭也君も家に呼んで一緒に祝いましょう』と母が言ってくれたが、

 僕は嫌いな人が居る自分の家で祝うことを嫌い、

 恭也の家に行き合格を祝ったのだ。

 そして同じ高校生活を過ごすこととなった。


「大輔、放課後いつものところな」

 今日も恭也が僕に話しかけてくる。

 恭也が居てくれたから、ひねくれてはいるが、

 僕はグレる事は無かったのだと思う。


『いつものところ』というのは、

 僕と恭也の家から歩いて5分くらいの神社の境内のことだ。

 友人たちを呼んでは鬼ごっこをして走り回った場所でもある。

 いつもというくらいに頻繁に来ている場所ではない。

 小学校のときの遊び場だった場所である。


 僕は放課後になり恭也に言われた通り、

 いつものところと呼ばれている神社に行く。

 まだ恭也は来ていない様子だった。

 僕は小学生のときを思い出しながら神社の境内を歩き回った。

 6年も時が経っているにもかかわらず変わっていなかった。

 神社という場所は長い年月を経っても時が止まったように感じる。

 地元の神社というものは本当に不思議な場所だと思う。


 神社の広場で足を止めた。

 子供のときにこの広場で子供会が盆踊りを毎年行っている。

 小学校のとき僕には好きな子が居た。初恋の子だ。

 学校では好きな子に話しかけることが出来なかったが、

 盆踊りのときにその子と一緒に踊ることとなり、

 心臓がドキドキしながら踊った。


 好きな子の顔をチラッと見るとその子も僕の顔を見てくれていた。

 僕は恥ずかしくなって目を背けた。

 またチラッとその子を見ると笑顔で僕を見ていた。

 すごく可愛くってとても心臓がドキドキしていて恥ずかしかった。


「あれからもう6年か……」

 思い出というものはいつまで経っても消えない。

 好きな子との思い出はいつまででも思い出してしまうものだ。


「大輔。なにボーっとしてんだよ。しかも笑っていて気持ち悪いな」

「悪かったな気持ちが悪くて」

 好きな子の事を思い出していたところを

 こんなやつに見られていたとおもうとマジで恥ずかしい。

 しかも見ていた相手が恭也というのは勘弁してほしい。


「そんなことよりさ。大輔、これを見よ!」

 恭也は一冊の漫画本を僕にみせた。

 男子高校生が(男子中学生でもいいが)隠れて見る本と言えば

 そうエロ本である。

 恭也にとってのエロ本というのは、

 多くの人が考えているような本ではない。

 女性の裸体の写真が載っているものではない。

 恭也は特に二次元が好きである。

 漫画の世界のエロに走っているのである。

 今日はそのエロ漫画が手に入ったから一緒に読もうぜ的なことで、

 神社の境内(通称・いつものところ)に呼ばれたという次第である。


 ついでにいうと、このエロ漫画のストーリーはこうである。


 ある男子高校生が朝に起きてみると女性化していた。

 胸は大きくウエストは細くお尻は大きいグラマーな女の子である。

 身体が変化し困ってしまった女の子は友人に相談することを考える。

 そして友人をスマホで呼び出し相談をする。

 なぜかラブホテルに入りセックスをする。


 はっきりいって突っ込み所が満載の漫画である。

「恭也、はっきりというけど現実離れをしすぎてないか?」

「大輔、こういうものに現実感を求めるほうがおかしいだろ。

 現実にこういうことが起きないからこそ面白いんだよ」


 小説でも漫画でもアニメでも現実に起きないからこそ

 その物語にのめり込むことが出来る。

 このようなグラマーで超可愛い女の子と出会うことがまず無い。

 それ以前に男子が女性化するということは現実には起きない。


 よくネットのエロ動画を見て僕は思うことがある。

 女性はセックスのときにどのように感じるのか?

 これは女性にしか判らないことだ。

 どのように感じるのかを聞いても言葉や文字などでは判らない。

 エロ動画をみるとやっぱり男目線で見る。

 この可愛い女性を喜ばせていくという支配感というものであろうか。

 女性からみると男って本当に馬鹿じゃないの?ということが

 男性には楽しくそして喜びに思うのだ。


 だから恭也の言っていることは、僕には確かに正しいと思える。

「現実にこういうことが起きないからこそ良い」


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