僕のガールフレンズ
華圖鬼
一
自転車に乗って帰宅しようとする降流斗の後を高がついてきている。二人はソフトテニス部の先輩後輩の仲で、先ほど他校のテニス部との親善試合を終えたばかりだ。高と書いてトオルと読む高校一年生のテニス部員は一つ上の先輩である降流斗(フルト)がずっと気になっていた。
降流斗と言う、俗に言うキラキラネームに近い名前はもちろんのこと、彼のことについては彼の同期すらも詳しくは知らず、住所も電話番号も誰一人として知らないのだ。降流斗は身長が高く、成績も優秀でサラサラとしている黒髪をなびかせ、その黒髪に似合う顔立ちでクラスメイトや部活仲間の女子生徒からも注目を浴びている。まさに世間の中高生男子生徒の理想像のような生徒だ。しかし降流斗自身はそのことに慣れている模様で女子からお茶会に誘われても用事がある、と断っていた。別に彼は人間不信でも友達を作りたくないわけでもないが、家だけには誰も近寄らせない。そのことが影響して彼の部活の仲間やクラスメイト、先輩や後輩からも不思議な奴だ、あいつは人付き合いが悪い、と思われていた。
降流斗は視線を上空へと向ける。空は雲ひとつない快晴であるが、降流斗の心情はそれとは真逆である。彼の心情を天気で表すとするなら、土砂降りの大雨だろう。降流斗は高に止めてくれないか、と懇願したが高はいいじゃないすか、と言うことを聞いてくれない。
「先輩って絶対他人を家に入れてくれないって聞きますけど、何か理由があるんすか?」
「ないけどさ、俺が困ってるんだから帰ってくれよ。孔子だって自分がやられて嫌なことは他人にもやっちゃダメって言ってただろ?」
降流斗は露骨に嫌悪の態度を露わにする。しかし、高はそれに構わず降流斗に先輩の家まで案内してくれませんか、と言う。挙げ句の果てには
「家の中見るまで帰りませんからね!」とまで言った。
降流斗は困惑する。高にもわかるように。高は背が低く、メガネをかけた男子生徒なのだが、一度決めたことや言ったことは最後までやり通す、頑固者なのだ。そんな彼を説得させようと試みたとしても彼は聞く耳を持たないだろう。ここは家の外見だけを見せて帰す方法が得策だと考えた降流斗はしばらくしてようやくわかったよ、と答えた。高は喜びを爆発させる。降流斗は高を自身の家に案内させるために高の前に出て、自転車のペダルを踏む足に力を込めた。しかし、その時の降流斗は自身の秘密が知られることに罪悪感と憂鬱を感じた。
僕のガールフレンズ 華圖鬼 @KAZU0307uc
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