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「あなたこれから
八
「カロン。お母様にサンドイッチを作ってもらったのよ。
アンリエットは両手を広げてそう言ったが、一つ年下のカロンはその
アンリエットは腹を立てて、近くにあったテーブルをバン! と
「カロン=デマルシェリエ! 返事くらいなさい!」
するとカロンの背中がびくりと
「ああびっくりした。来てたの? アンリ」
「来てたわよ! 少し前からね! あなたが食事もしに来ないから、こっちから持ってきてあげたんじゃない!」
アンリエットはびしりと隣の部屋を指差した。そちらには
「モリスが出かけたとたんこれだわ。あのね、人間が生きていくためには食事も
モリスは、カロンと共にこの離れに
「それとも
「そんなことは言わないけど……今いいところなんだよアンリ。後で行くから、
「あのねぇ、そんな言葉を私が信じると思ってるの?」
ジト目でアンリエットが低く告げると、カロンは困ったように首を
カロンは魔術師の
四年前、行く場所をなくしていた魔術師の
それ以来カロンはアンリエットの弟のような存在だった。それも、手のかかる弟である。
日に当たらないせいで白い
そして同時に彼女は、長い前髪と眼鏡の下のカロンの
カロンは瓶底眼鏡の向こうでにこりと笑った。前歯がかけているのがいかにも
「約束するよアンリエット。昼過ぎにはそっちへ行く」
「ちなみにそれは何をやってるの?」
「ティーラッド式の魔術
「私は単語の
アンリエットは息を
「わかった、いいわ。でもお昼過ぎてもこなかったら、この小屋を燃やしにくるからね。お母様が、あなたの好きなチョコレートのデザートを作ってくださったのよ」
「わあ
アンリエットは目を細めてふんと鼻を鳴らしたが、カロンはすでに床に顔を戻していた。
時々、いじめっ子がカロンをからかう気持ちが理解できるアンリエットである。カロンは一つのことに夢中になったら他が目に入らないのだ。特に魔術は彼を夢中にさせる最たるもので、アンリエットはそれがあまり気に入らなかった。
それでもカロンを無理やりこの場から
どうして? 確かにここに置いたはずなのに。
もしや竃にはおかしな魔術でもかかっていたのだろうかと疑ったが、犯人はすぐ見つかった。開けっ放しであった外への戸口のところに、バスケットを
「だめよ、返しなさい」
アンリエットは
「中のサンドイッチはあげる。けれどバスケットはだめ。返しなさい」
しかし猫に幼いアンリエットの言葉は通じなかったようで、一秒ほどじっと彼女を見つめていた黒猫は、ふいに反転して外に
猫を追って外に出ると、ちょうど黒い
魔術師とその弟子に貸し
猫が逃げた方向はこんもりとした薔薇の茂みになっていて、ここ数年庭師も入っていないので
「待って!」
アンリエットはなんとか茂みが
小屋の南側に位置するその場所は、日当たりがよくぽかぽかとしていた。薔薇の茂みに囲まれて、まるでちょっとした秘密基地のようである。実際、庭がよく手入れされていた祖父の時代はよくここでゆったりとした時間を過ごしていたのかもしれない。二
自分の家の庭だというのに、この空間に
その時アンリエットは、テーブルの上で赤い薔薇が花を
この時幼いアンリエットが頭に
バスケットを左手に
「アンリエット!
外での声を聞きつけ、慌てた様子で駆けつけたカロンの制止は
アンリエット=オードランは魔術師の庭に生えた薔薇を
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