異世界でとらんすせくしゃるでも負けたりはしないッ

無限ループ怖くない夫

第1話 いきなり衝撃の事実をブっこまれても狼狽えないッ

「マジか――――マジかぁぁぁぁぁ……」


 クソでかい溜息をつきながら俺は空を見上げた。

 でも勘弁してほしい。

 それ程の状況に俺はいる。

 なんなんだこの状況は。


 俺と言う一人称でわかる通り俺は男だった。

 そう、過去形である。

 黒田陸と言う平凡極まりない一般男子が俺の筈だ。


 だが今は違う。

 元々180センチも半ばほどあった身長なのに今は140センチあるかないかだと思われる。

 細身────と言うよりはただのつるーんぺたーんな幼児体型。

 しかし顔は凍るような冷たさを感じる物の将来は美人を約束されるだろうほどに整っている。

 ガイジン子役モデルがカスに見える程にな。


 髪なんか雪の様に真っ白ながら艶々した銀色に近い色で、触れると絹糸みたいにしなやか。

 気になるのは瞳だけが金色という中二病がカラコンいれたの? 状態。

 以上の事を総合するとだ、導きだされる今の俺の姿は――――異国の美人幼女である。


 年齢はどう贔屓目に見ても小学校高学年くらいにしか見えない程度の。

 なるほど、意味が分からん。

 仏教かなんかの概念で輪廻転生なんてワードがあるが、あれは命は巡る的なやつだろうし、現状の俺を思えばそれじゃあないだろう?

 だって乳児とかじゃあねえもん。


 うーむ、二日酔いの朝の様な不快な頭で俺がこの謎の美幼女として気が付いた直前までの行動を考てみる。

 ……そうだ、俺は長野のスキー場にいた。


 俺は都内の商社に勤めるサラリーマンで、そこは一応大手企業に名を連ねている。

 で、社内には福利厚生関連でいくつものサークルがあり、俺は”アウトドア同好会”に所属しており、その絡みでスキー旅行に来たのだ。


 とは言え誰かが思い付きで計画した旅行であり、時期もクリスマスと正月を控えた年末だ。

 実際この話が出たのはサークルの忘年会であるし。

 なので当然集まりは悪く、独身の相方なしのロンリーウルフしか参加しなかった。

 んで実際参加を表明したのは女3人男4人と言う合コン的な気配を非常に感じる、どこか無言の戦いの気配がする比率で。




 ああ、だんだん思い出してきたぞ。

 俺はそのメンバーの中のある女の子に恋をしていた。

 埼玉出身の彼女は、普段は無口で常に読書をしている文学少女だ。

 驚くほどに美人なんだけども、内気で人の目を見て話さない。

 何故ちゃらい飲み会を繰り返す我がサークルに参加したのかはホント謎だ。


 ただ近寄りがたい程の美人であるからして、逆に誰もモーションかけてないってのが俺には救いだな。

 本社ビルの中にも割と規模の大きい書庫があり、彼女はいつもそこにいいたのを何度か見かけている。

 とは言え彼女が持つ近寄りがたい雰囲気のせいか、誰かと話しているのは見た事が無いが。



 俺はロクな女性遍歴を持たず、奥手だった俺が初恋を覚えたのは中二の春。

 相手はクラス替えで見知らぬクラスメイト達との出会いの中、50音順で決められた席順の隣の席になった茶髪の似あう可愛い子だった。

 なんやかやあって俺はガッチガチになりながらも彼女に告白し、そしてオーケーを貰った。


 完全に世界を獲ったくらいの有頂天になった。

 そしてやはりガッチガチになりながらも嬉し恥ずかし初体験を経験。

 女体の神秘ってやつに目の前が薔薇色だ。

 いや~盛ったネ。その後サルみたいにやりまくった。


 だがしかし、彼女には秘密があった。

 結果から言えば、彼女は所謂ヤリマンって奴で、気まぐれにウブな俺の誘いに乗っただけだったのだ。

 数か月の蜜月の後、急に彼女は飽きたと言い、その後の逢瀬の際に見知らぬ女子を連れて来た。


 金髪のギャル3人だ。

 彼女は言った。

 こいつってばイケてないけどチ〇ポだけはヤバいからお前らも喰ってみ?

 そう言って心底楽しそうに笑ったのだ。


 まったく意味が分からない。

 その後どうなったか。

 俺という砂糖に群がるアリの如く、彼女たちは呆然とする俺を飽きるまで貪ったのである。

 所謂ハーレム状態。


 誰かが俺を咥え込んでいる間、手持無沙汰な他の女は俺のどこかしらを愛撫している。

 気が狂いそうな快感なんだけど、精神的には凌辱されているだけの苦痛しかない。

 ぜんっぜん愉しくないんだよなぁ。

 早く終われとしか考えていなかった。

 結果俺は女性不信って奴になっていた。


 そんな失意の俺にトドメをさしたのはまさかの実の母親だった。

 うちは父さんが俺が小3の時に事故で死んだから母子家庭だ。

 母さんはキャバクラで働きながら俺を育ててくれる。

 とは言え片親特有の暗い感じはうちの家庭には無く、母さんと俺の間は極めて良好である。


 俺がとあるサンデーモーニングに真っ白に燃え尽きたジョーみたいになっていた。

 まあ前日が逆レイプ乱交祭りだったからな。

 明らかに憔悴した状態だった俺に、贔屓の客とのアフターを終えて帰宅した二日酔いの母さんが「あんたどうしたの!?」と声をかけた。


 ありがとう母さん、ちょっと聞いてくれよと俺は半泣きで昨日までの事を相談した。

 うちはその手の話題に照れとかなく話せるからね。

 そもそも中学に進学した時に母さんに渡されたのがコンドームだもの。

 ヤるなつったってヤるのがガキなんだ。

 それでガキでも作られるくらいならヤり方を教えとくってのが母さんの思想なのだ。


 まあ三十路に突入して久しい彼女が新宿のとあるキャバクラでトップを張っている理由は、その女だてらに男らしい性格がウケたからだもんな。

 女々しい男が多い現代、叱ってくれる美人さんってのは持て囃されるのだというのが母の言である。


 そんな母さんに慰めて貰おうと思った俺の目論見は見事に外れた。

 返ってきた言葉は「なんなのアンタ、情けない……」である。

 思わず「ファッ!?」とくっそ汚い悲鳴が漏れた俺だ。

 違う、そうじゃない。もっと優しい言葉を掛けてくれよ!


 母さん曰く、相手が複数だろうが逆に征服せずに何が男かだとさ。

 そもそもお前の名前の陸ってのは、クールで冷静沈着なナイスガイじゃないとダメなんだと力説された。

 なるほど、俺の名前には元ネタがあるのか。

 ナイスガイ……いいじゃないかいいじゃないか、そう思った。


 やっぱ親が愛情を込めて名付けてくれるってのは嬉しい物だ。

 その時はまあそれで気力を取り戻した。

 何というか元ネタに恥じない様にって言うか、名前負けしないようにナイスガイになるかとちょっとだけ元気を取り戻した。


 だがしかしである。

 その後ネットで自分の名前の由来を調べてみたらがく然としてしまった。

 何故ならその元ネタとはとある漫画であり、その主要キャラクターの名前だったのだ。

 確かに無表情で冷静沈着で職業が医者と言ういかにもモテそうなポジションにその男はいる。


 ────だが彼のヒロインは男だ。


 もう一度言おう。彼のヒロインは男だ!

 所謂びーえる。母さんは腐ってやがったのだ……。

 確かにそっちの陸はカッコいいよ。ビジュアル的には。

 ただベッドでエロエロする相手は男なのだ。


 よく検索してはいけないワードってのがあるが、俺にとってはこれがそれに該当したらしい。

 逆レイプで落ち込み、自分の名前で落ち込む。

 ネガティブ感情で二度おいしいである。ふざけんな。


 結局俺は女性不信街道をばく進し続けることになった。

 女なんて野獣だ! コワイ! そうやって小動物の様に息をひそめてハイスクールに通った。

 結果、周囲からは陸はモテる癖に女との噂をきかない=ホモだみたいに言われる様になった。


 なんだよこの名前! 呪いかよ!

 おいそこの中性的な顔面の守ってやりたくなる系後輩よ、懐いてくるんじゃねえ!

 こうして俺の不遇な学生生活は続いたのだ。


 そして大学に進学。東京6大学に属する私立大は名門だけどチャらい生徒が多い。

 よし、ここで俺は俺と言う殻を破るのだ! と一念発起。

 所謂大学デビューを目論んだ。

 そして一番チャらいサークルに入ったのである。

 だが結局、就職までの間、やはり俺はホモの烙印を押された。

 だってサークルの女子が肉食過ぎて怖かったんだもの。


 長くなったが、この不遇を脱したい俺がその文学少女に恋するのは必然だったのだ。

 汚れきってやさぐれた俺に、彼女はまさに地上に舞い降りた天使だった。

 何だかよく分からない分厚い本を静かに読んでいる彼女を見ているだけで幸せだ。

 だからこそ参加人数が少なく、男性メンバーは女慣れした奴がいないと言うこの旅行は、俺にとって千載一遇のチャンスだったのだ。


 事前に打ち合わせをし、俺が彼女に告るからと告げ、彼らからのアシストは約束させた。

 完璧の布陣である。どこぞの自由惑星同盟の准将もこれには太鼓判を押してくれると思う。


 そして旅行初日の夜、ホテルの夕食の後に姿が見えなくなった彼女をナイターでライトアップされたゲレンデを見下ろすラウンジで見つけた。

 間接照明でほのかに照らされた彼女の横顔は相変わらず綺麗で、俺は久しく感じていなかったガッチガチの緊張をしながら彼女の横に座った。


 やはり本を読んでいた彼女に俺は少し話そうと言った。

 彼女はこてんと首をかしげつついいですよと微笑んだ。珍しく彼女の瞳はまっすぐ俺を見ている。天使かよ。

 そして告白。彼女は俺の恋人になった。


 聞けば自分の内気な性格を治したくてサークルに入ったという。

 けれども急に性格は直らず、中々溶け込めないでいたらしい。

 恋人にはオーケーしてくれたけど、それは条件付きだった。

 自分は恋を知らない。でも知りたいとは思っている。

 だからそう言う自分でも良いなら、少しずつ恋を始めてみませんか?

 それが彼女の言葉だ。


 それでも俺は受け入れた。絶対彼女に本気の恋をしてもらうぞ、そう誓いつつ。

 だから調子に乗ったのだ。

 これは運命。色々忌まわしい過去はあったが、実質これが俺の初恋だ! そう言い聞かせながら。


 俺は逆レされる子羊じゃないし、ホモ扱いされる残念イケメンでもない!

 ここから俺の人生は薔薇色になるのだ! 見てろよ母さん、俺は元ネタの様にはならん。


 で、翌日だ。みんなでレンタルのスノボでゲレンデに向かった。

 俺は実質初めての彼女の手を取りゴンドラに乗った。

 彼女もはにかみながら握り返してくれた。最高かよ。

 そしてスノボ専用のゲレンデで巨大なジャンプ台を見つける。


 所謂ビッグエアーと言う凄まじい角度の斜面で勢いをつけ、一回のエアーでとんでもないトリックをかます上級者の競技で使う物だ。

 調子に乗っていた俺は、彼女にカッコいい俺をみせたいと制止する友人を振り切って飛んだ。


 何故か行けると思っていたと当時の俺は供述している。

 因みに俺はスノボ初心者である。

 そして勢いよく空中に飛び出し、見様見真似でグルグルと回転したまま俺は地面に首から突き刺さったのだ。


 ああ……そうか、俺は死んだのか。

 何やってんだろマジで……。

 完全にバカの所業である。

 自業自得と言う言葉をここまで体現した人間もそういないんじゃなかろうか?


 とにかくそうして、どうやら俺は死に、気が付くと美少女? いや美幼女になっていたのだ。

 まったく意味が分からない。


 就職活動を終えて新人研修も終わり、さあこれから立派なサラリーマン人生を送るのだ! 恋人も出来たし! と決意を新たにしていた俺は、なんと異世界で女の子に再就職である。

 ホントどうしようもねえバカだな俺……。


「しかし……どこだよここは」


 周囲の景色は多分どこかの洞窟の中って感じだ。

 岩と言うか岩盤を球体にくり抜いた様な割と大きな石室って言えばいいのだろうか?。

 それこそお台場にあるどこぞのテレビ局のアレみたいな。

 あそこほど大きくはないが、それでも声が反響するくらいの広さはある。


 俺が立っているのはその中心部分で、周囲にはやはり円形に何かの草みたいのが絨毯の様に生えている。

 何というか自然に生えたって感じには思えないな。

 だって綺麗な円だもの。


 そもそも俺が現在の俺の容姿をどう確認したかであるが、それは円形の草の絨毯の周囲には、2メートルくらいの幅で、50センチ程度の深さの掘り? が縁どりの様にあったからだ。

 流れは無く、けれど透き通った水が湛えられている。

 その底が淡く発光しており、水面に自分の姿が映るのだ。


 きっと俺はとんでもない状況に置かれている。

 これがドッキリでもないなら、多分俺は地球じゃないどこかにいるんじゃなかろうか?

 だってあのゲレンデから一瞬でここに連れてこられ、あまつさえ男から女にクラスチェンジ。


 こんなマネ、人力でのドッキリで出来るかよ。

 それこそネット小説にあるような、異世界転生とかその類いみたいじゃあないか……。


 しかしそんな状況でも俺は何故か落ち着いていた。

 この少女の身の上とか記憶とかなんか一切無い。

 でもだ、何の作用か知らないが、この状態に俺は馴染んでいる様な気がする。

 いや女の気分に馴染んでいる訳じゃないし、そこは違和感バリバリなんだけども。

 ただ何というか仕方ねえじゃんって思っている自分がいるのだ。


「誰かいませんか~? 誰か~~!」


 叫んでみても虚しく返ってくるのは鈴の音の様な可愛らしい現在の俺の声での山彦のみ。

 そのままてくてくと球体の部屋を歩きまわる。

 何だか腹がすいているのだ。


 そう思うと急に怖くなった。水はあそこにあるが、メシを喰えなきゃ飢え死にしてしまうと思ったからだ。

 暫くあちこちを観察していると、アールのかかった内壁の一か所に違和感がある。


「んっ……光が漏れている?」


 見れば微かに両開きのドア的な形状の光の筋があった。

 コンサートホールの観客席への入り口とかにあるような大きな扉っぽいのが。

 草の絨毯の周囲は明るいが、壁際はどんよりと暗い。

 だから余計に目立つ。

 そしてそこに触れた。躊躇なんか一切しない。


「うわっ、なんだこれ……」


 俺が扉っぽい暗がりの枠に手を触れると、枠の中に青白い幾何学模様がぼんやりと浮き上がった。

 なんだろ、四方八方から青のラインが無数に走り、不規則な場所で方向をかえてはまた進む。

 それが幾重にも重なる事で不思議な模様がまるで生き物の様に蠢いている。

 とは言えそれを見ていて恐怖や不快感は感じない。

 単純に綺麗だなってだけ。


 そして暫くの沈黙の後、呆気なく壁は本物の扉に変わり、パカンと開いた。

 あまりの眩しさに目がくらむ。

 そこは木々に囲まれた開けた場所だった。


「おお、千年の時を経て始祖様が出てこられたぞ……」

「始祖様! 始祖クローディア様!」

「これは吉兆の訪れであろうか……」

「ええっ…………なにこれ、エルフ?」


 最後のセリフが俺である。

 扉を抜けた先に待っていたのは、無数の美男美女の群れ。

 眩しさに目をこすりながら外に出た俺をぽかんと見つめると、連中はその場に膝をつき、俺に向かって始祖だのなんだの言いながら祈りだしたよ……。

 何故かみんな腰辺りをもぞもぞと動かしているが……。


 ってなに? 俺の名前ってクローディアなの?

 そこにいる全員が何というかモロに指輪の物語の映画に出て来たエルフって感じ。

 アイルランド系に見える白人の美男美女で耳が凄い長い感じの。


 何なのお前ら。俺ってば幼女だぜ?

 金色の瞳でジト目が標準装備のクール系幼女なんだぜ?

 着ている服も白の無地な飾り気のないワンピース。

 こんな幼女崇めるお前らって何? ペド野郎の集まりなん?


「あ、あの……」

「おお、千年ぶりの降臨、まことに感謝の極み……ささっ、今代の巫女であるわたくしめになんなりとご命令をっ!」

「ちょ、やめっ、くすぐったいわっ!」


 とりあえずこのままじゃ埒が明かないから目の前に五体投地している一際目立つエルフ? に声を掛けると、そのままズザザザッっとゴキブリの様にホバー移動して彼女は俺の足に縋りついた。


 なんだよ巫女って。謎のワードを出すんじゃあないよ。

 いかにも高慢そうな金髪エルフ(180センチくらいあって勝気な顔の美人さん)はそのまま俺の身体をスリスリと滑り上がる様に立ち上がると、俺の手を引いて何処かに連れて行こうとした。


 周囲のエルフ? 達は俺に目を合せないようにしつつも、チラチラ見ながら平服している。

 とは言え情報が欲しい俺は、結局その巫女さんについていく事にした。

 巫女さんって言っても、ボンキュッボンのスタイルで妙にスリットの入った煽情的な白いチュニックを着ているけどな。

 胸元もV字にパッカーって開いてるし。眼福眼福。


 彼女についていくうちに周囲の景色を見たが、ここはどうやら森の中にある村の様で、屋久杉も真っ青な巨木がいくつも連なっており、そのあちこちに丸い穴が開いている。

 あれだな、天然の洞を利用したツリーハウス的な。


 そして巫女さんが先導してくれて着いた先は、この集落の中でも特に大きな木の穴だった。

 大きな木って言うか、雲にも届きそうな塔めいた巨木だが。


「尊きお方、お初にお目にかかります。今代の星詠みの巫女、イーシャでございます。ハイエルフたるクローディア様のご降臨、まことに嬉しく思いまする……」


 穴の中は普通の広間だった。

 何かの動物の皮をなめした様なカーペットが部屋の真ん中にあって、彼女はそこに正座し居住まいを正すと、俺にはコケの様な植物を丸めた感じがする丸いクッションっぽいのを勧めてくれる。


 そこに座ると思わず「ふわぁ~~……」と間抜けな声が漏れてしまった。

 これあれじゃん某無地な雑貨屋で人気の人をダメにするクッションだろ……。

 んでどうやら話を聞くに俺はハイエルフらしい。


 そしてハイエルフはエルフにとっての信仰の対象で、過去の俺は瞑想をするとかであの石室に引きこもったらしい。

 ハイエルフは精霊の加護がひときわ強い存在で、瞑想をすると森に神秘的な恵みをもたらすらしい。

 ってか千年って。千年って!


 ハイエルフってのはどうも突然変異的に表れる様だ。

 エルフの寿命は500年くらいらしいが、たまに何時まで経っても衰えず、老いもしないエルフが出現する。それがハイエルフ。


 で、元々は高身長で美男美女がエルフのデフォルトなのに、500年以上も生きると、どんどんちびっこくなっていき、最終的に幼女になるらしい。

 その小さき姿が尊いと彼らは感じる様で、直視すると色々な感情が溢れすぎて頭がおかしくなりそうだからこっちを見ないらしい。

 明け透けに言うと発情して辛抱溜まらなくなるってさ。


 やっぱりお前らペド野郎じゃねえか!

 発情って……だからさっきの連中はしきりに腰をモジモジしてたんか。

 エルフの美意識ってなんなんだよマジで……。


 んでだ、クローディアと言う名の今の俺だが、エルフの長老が代々書き記す書物に出てくる伝説のハイエルフらしい。

 初めて記録に登場したのが5千年前だとさ。

 やべえ……俺のガワの人、長生きすぎぃ!?


 で、数世紀単位で瞑想の儀式を行ってきたらしいな。

 ハイエルフが瞑想するとあちらこちらから精霊が集まってきてその地を祝福するという。

 その豊穣効果は何世紀も続く様で、その力が弱ると瞑想の儀式に入ると言う。

 でもさ、多分だけど、長生きし過ぎて退屈だから寝るとかが真相じゃねえの?

 分からんけど。


 そしてイーシャみたいな巫女も一子相伝で引き継がれていて、ハイエルフが目覚めると世話をするのがお仕事だってさ。

 聞いた限りだと専属の執事的な感じかね?

 生活に関わる細々としたことまで世話を焼くのが普通らしい。

 普段は神殿(まあこのデカい穴なんだが)で、次代の巫女の育成をしながら生きているらしいが。


「うん、まあ、分った。イーシャが俺の専属なのね。まあよろしく頼むよ」

「ああんっ俺なんて雄々しきお言葉……尊きお方ァ……だのに何とも愛らしき声かしら……じゅるり」

「じゅるりって何!? いやその、なんでにじり寄ってくるの?! ふ、不敬だろっ!? メッだぞ!!」

「アアン……もっとくださいぃ」

「何が!?」


 おかしいな……俺は尊きハイエルフらしいのに。

 一通り話しが終わると、イーシャは妖しい笑みを浮かべるとコケのクッションに座る俺の腰に抱きついて来やがった。凄い速さで。

 というか完全に股間に顔を埋めてハスハスしてるよね?


 必死に顔をぐいーっと押しやるのに剥がれやしねえ!?

 え、ヤバない? ハイエルフって存在が媚薬みたいな感じなの?

 ネコにマタタビ状態になってるんですが……。

 ってくうぅぅ……なんかあれだ。


 あかんとこに彼女の尖った鼻が擦りつけられている!?

 巫女さん、まずいですよ!

 R-18になってしまうよ!


「ううううっ……やめろぉ!」

「キャン!?」


 男の尊厳が崩壊しそうな謎の快感の波に逆らうように俺は叫びつつイーシャの頭にゲンコツを落とした。

 びっくりした。

 無意識にやっただけなのに、ドゴンッ!! ってちょっと人の頭を叩いた時に出ちゃいけないレベルの轟音と共に、白目を剥きながらイーシャが気絶した。

 なのになんで幸せそうな表情なんですかねぇ……。


 とりあえず窮地は脱したのか……?

 ってかこの幼女、スペック高すぎね?

 変態巫女を踏みつけながら立ち上がり、俺は自分の身体を試す様にその場でシャドーボクシングをした。


 あれっすね、突風が起きたんですが……。

 何かの太い蔓を編んで作った様な部屋の中の家具が無残に散乱したぞ……。

 まあいい……。

 とにかく俺は何故か知らんが幼女めいたハイエルフになったらしい。


 そしてエルフ達の信仰対象であり、何故か彼らのセックスシンボルと言う謎の属性を持っている。

 まあ状況から見てここはどこかの異世界か地球じゃない別の星ってのが確定。


「……ふむ」


 アヘ顔で気絶する変態巫女を見下ろし俺は思案する。

 そして俺は今後の目的を決めた。

 だが取り急ぎは、だ…………。


「こんな変態だらけの村になんかいられるかっ! 俺は逃げ出させて貰うッッ!!」


 そう静かに宣言し、その部屋にあった旅に使えそうな物を壁に掛ってた袋に詰め込んだ。

 それをサンタクロースの様に担ぎ、巨木の裏手の森にダッシュした。

 あばよ変態エルフども。


 俺は、このロリババアだがスペックの高さを生かし、せいぜい異世界とやらを楽しむのだ。

 そして願わくば、読書好きのあの子みたいな清楚な美人さんを恋人にする。

 女になった? 知らねえよ。ガワがそうでも中身は男だ。

 だったら俺は女の子を好きになるのは当然だろう!


 これはその為の第一歩である。


 こうして自由への疾走、いや失踪を決め込んだ俺の、苦難の異世界生活は始まったのである!

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