合法な薬漬けが遠方のカナダで毒を吐くかもしれない

ペイサージュ

第1話 カナダに来てもダメなモンはダメかもしれない

ワーキングホリデー―

システム的な説明はWikipediaに任せるとして、とにかくそれを利用して私はカナダに来た。


出発前は向上心と野心に満ち溢れており、「最低賃金が高額だから帰国したら上等な中古車でも買おう」とか「ひたすら勉強してデーブ・スペクターばりの英語を身に着けよう」とか「友達100人出来るかな」などと頭の中のスケジュール帳はトキメキの筆跡で真っ黒に輝いていた。

しかしダメ人間な私がそんな無理難題をクリア出来るわけも無く、貴重な12カ月中の5カ月は浪費された。

絵に描いた餅はしょせん絵であり、絵に描いたようなダメ人間でもその餅にはありつけないらしい。

現時点では「金銭的な損益を考えるとマイナス」とか「日本語能力が弱くなっただけ」とか「たまに連絡するだけの知り合いが二人出来た」という、

納期を10倍に伸ばしても落としてしまう様な進行速度である。


日本に居た時の私はそれはもうタチの悪いダメ人間であった。

ダメ人間とは基本的に半世捨て人であるため世間や社会との接点が限りなく少ない。

私の場合は殊更にハンパに世に出たばかりに世間様や社会様に迷惑をまき散らすという、ワンランク上か下のダメ人間だった。

そんな自分でもカナダに来れば変わるだろうという、能動的且つ受動的なよく分からない希望的観測を胸に秘め、カナダ行きを決意した。


異世界転生ものは読んだことは無いが、もし異世界転生を現実に落とし込んだ時に、

私はその主人公になれる程にチート級の恵まれた条件でカナダに転生しているだろう。


そもそもなぜワーホリの渡航先にカナダを選んだのかというと、

親戚の女性がカナダに10年以上居住している上に、市民権どころか一軒家まで持っているからである。その時点で私はカナダに来ている他のワーホリ渡航者に1歩どころか何歩もリードしている。おまけに現在はその親戚の家に住まわせてもらっており、おまけに親戚は金持ちのカナダ人と結婚しており、おまけにその家は高級住宅地に居を構えているという始末である。

おまけを書き連ねていくとキリが無いのでここまでにしておく。


親戚とはいえ、家賃は月々払っているが、親戚割引の為かなり安くして貰っている。

高級住宅街の為にそもそも家賃の相場という物が存在しないが、敢えて言うならば「都市全体の相場の最高額」の半額である。ありがたい。

購入した時の金額を聞くとウっと気分が悪くなる様な家の主は、英語のネイティブスピーカーであり、英会話の練習相手になってくれる。ありがたい。

親戚の家である為、家の設備を気兼ねなく使える。例えごま油で料理をして家中にアジアンな雰囲気とその独特な臭いが漂っても気兼ねが無い。嘘。少しは有る。


実家と同じ位のストレスレベルで海外でワーホリをやる、というのは高難度だろう。

しかも沢山のおまけがつくとなると、さらに難易度は上がるだろう。

この難関を全てクリアしたらチートと言って良いだろう。


チート級のイージーモードでワーホリに来たそんな私は、

「カナダ滞在中は毎晩日記を書く」というさらにイージーなミッションを、

2カ月とちょっとでリタイアしたのである。

そんな私の完結出来るかも分からないカナダ滞在記。


ワーホリでカナダに来たが、ダメなモンはダメかもしれない。

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