第11話 ドラゴンとの戦闘
戦闘開始から5分。少ない人数ながら5分持っているのは親衛隊が精鋭中の精鋭だからである。特にゼックハルトは、ノサエルトでも第一人者として知られる剣豪であった。
ゼックハルトは中級貴族である。上級貴族のような大規模な攻撃魔法は使えないが、上級貴族と言うのは戦闘員と言うよりは兵器なのである。小競り合いの乱闘の中で核兵器を持っていても使いようが無いのと同じことであり、戦争でならばともかく戦闘では、ゼックハルトのような身体強化術を持つ中級貴族の方が強い。
ゼックハルトは若い時には、伸び悩んでいたのだが、その才能をイルモーロに見いだされ、イルモーロに仕えてからはその適切なアドヴァイスを得て、みるみる腕を上げた。
イルモーロが死を覚悟して戦闘に赴こうとした時には、その親衛隊員として、当然、イルモーロと命運を共にするつもりだったが、
「ゼックハルトのような剛の者はガレアッツォに遺したい。生きてスーペルビアに戻り、ガレアッツォに仕えよ」
とイルモーロより命じられた。イルモーロに命運を共にさせてくれるよう、ゼックハルトも随分粘って頼んだのだが、許しを得られなかった。
「スーペルビアの剣は次の総督を支えよ」
そう言われては、その命令に従うしかなかった。
スーペルビアの剣。
それがゼックハルトの二つ名である。
一国をも滅ぼすと言うドラゴン。
スーペルビアの剣がこの場にいなければ5分も戦闘を持たせることは出来なかっただろう。
撤退すべきだったが、撤退を容易にさせてくれるような相手ではない。撤退したとしても、追って来られればスーペルビアそのものが滅亡するだろう。
「総督様、攻撃魔法の準備が整いました」
総督秘書官のフェルカムがそう言った。
フェルカムは総督のガレアッツォを除けばこの場で唯一の上級貴族であり、ガレアッツォと違い魔力を温存している。
「斃せそうか?」
「無理でしょう。しかし、ゼックハルトに攻撃の機会を作ってやれるかも知れません」
「やれ」
フェルカムの超特大火力を感じて、親衛隊が即座にドラゴンから距離を置く。フェルカムの前に差し出された両手から、巨大な火球が発生し、それがそのままドラゴンにぶつかる。
「グギャアアアア!!!!!」
ドラゴンが咆哮を上げた。
フェルカムは、文武に治癒術と万能な人物で、だからこそ補佐官に抜擢されているのだが、中でもその火魔法は、過去の魔導師と比較しても抜きん出ている。これひとつで並の兵士であれば千人くらいは殲滅できる威力がある。動く戦略兵器そのものであった。
ただし、最大規模の攻撃魔法となるとあらかじめ時間をかけて体内に魔術式を構築しなければならない。魔力量の制限もあり、そう何度も連発できるものではない。
「そこだっ!」
すかさず、ゼックハルトは跳び上がり、ドラゴンの弱点とされる逆鱗に、剣を突き刺した。
「グガアアアアア!!!!!」
ドラゴンは痛みに悶えたが、しぶとかった。ゼックハルトを以てしても、倒しきるには至らず、ゼックハルトはドラゴンの尾に叩かれて、樹木に払われた。
「ぬぅ!!!!」
地面に叩きつけられたゼックハルトは立ち上がろうとするが、足が動かない。
「バカものめがっ動けえええええ!!!」
自らを叱咤するゼックハルトだが無理なものは無理である。二度までも使えるべき主を失わなければならないのか ― ゼックハルトは血が出るのも構わずに唇を噛んだ。
ドラゴンが、その視界に総督ガレアッツォを捉えた。
「ぐっ!」
ドラゴンが足を払って、ガレアッツォに向かって石を飛ばしたのだが、咄嗟に前に出て、槍でそれを払った者がいた。マタイである。
「兵よ、下がれ! おまえではどうにもならん! これは貴族の責務だ!」
もはやドラゴンに適うような魔法を出すことは出来ないまでも、次の攻撃魔法の術式を構築しながら、フェルカムが叫んだ。
「貴族様、儂は兵ではなく兵士長でしての。儂のような取り柄の無い者でも兵士長にしてくれた恩は知っておりますでな。総督様、お逃げくだされ!」
死にたくない、ガレアッツォは心からそう思った。守るべき者たちがいる。ここで死にたくない、ここで誰をも死なせたくないと。
だが ― 。
もはや打てる手はない。
ドラゴンがいよいよ総督たちに迫り、その爪を前衛のマタイに振り下ろそうとした時 ― 。
「させない!」
光の少女が突如飛んできて、その身体から発せられた光の条が、ドラゴンの爪をはじいた。
「…おまえさんは…マーヤか!?」
「下がって! マタイ!」
巨大な光がマーヤの身体から沸き起こり、それがそのままドラゴンを包む。
「ギャアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」
フェルカムの火魔法では火傷ひとつつけられなかったドラゴンの身体が焼かれてゆく。やがて骨が露になり、数十秒後にはその骨さえも消え失せた。
「マーヤ!」
マタイは駆け寄ったが、抱き起されたマーヤは、既に初めて大量の魔力を放出した反動で気絶していた。
「マーヤ!」
老人の呼びかけだけが森にこだまする。
「あの少女はいったい」
呆然とするフェルカムの横で、総督ガレアッツォは呟かずにはいられなかった。
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