第15話 生徒会選挙②

 双子。

 金谷くんに弟がいることも知らなかったし、そもそも双子だったことも知らなかった。

 彼が語らなかったということもあるけれど、私があまり聞かなかったということもある。実際問題、普通ならきちんと訊ねておいて交流を図る手もあったのだけれど、結局そこまでには至らなかった。


「……というか、あんた、金谷くんの弟がいることも知らなかったの?」


 こくり、と私は頷いた。正直な感想、といえばそれまでかもしれないけれど、残念なことに私は金谷くんのことをそこまで詳しく知っているわけでもなかった。


「まあ、別にそこまで知っている話でもないか」


 しかし、案外簡単に優奈は私との会話を止めた。


「どういうこと?」

「金谷くんと、その弟さんは仲が良くないって話だよ。なんでも成績も拮抗しているとか。お互いに天才とかすごいよねー」


 私はそれ以上何も言えなかった。

 それはすなわち、金谷くんについて何も知らないということなのだから。



 ◇◇◇



「失礼する」


 そういった声が聞こえたのは、それから少ししたタイミングでの出来事だった。

 その声は、とても透き通った声だったが、聞き取りやすい声だった。


「……オイ、あれって生徒会長候補だったよな?」


 誰かのひそひそ話が聞こえてくる。


「ああ、そうだ。でも、どうしてこのクラスに――?」

「確か、このクラスって、あいつが居なかったか?」

「やあ、兄さん」


 そうして彼は、ある席の前に立った。

 それは紛れもない、金谷くんの席だった。


「――どうした、俊。別に僕は君のことを呼んでいないぞ」

「僕は兄さんに用事があるんだ。兄さんはいつも、僕の前に立ち塞がっていたよね。だから、警告しに来た」


 そう言って、彼はあるものを金谷くんの前に見せつけてきた。

 それは、どうやら試験の成績だった。


「――これがどうかしたか?」

「知らないとは言わせないよ。どうやら兄さん、前回の試験で二位だったらしいじゃないか。見てよ、この数字! なんて書いてあるか、読める?」


 人をあざ笑っていた。

 兄に認められたい。そう思っているのだろうか。残念なことに私は姉だから、弟や妹の感情がよく解らないのだけれど。


「……一位だな、おめでとう。それを言ってもらいたくて、ここにやってきたのならば、随分と幼稚なことだな」

「違うよ。兄さんに、僕を止めることは許されない。だから、僕は言いに来ただけだ!」

「……言いたいことは済んだか? だったら、そろそろ出て行ってくれないか。次の授業の準備が必要なものでね」

「ああ、解ったよ。だがこれだけは理解しておいてくれよ。僕のほうが成績が上、それで、兄さんは止めることを許さないということを」

「解った、解った。取り敢えず次の試験では本気で挑むよ」

「……は?」


 そこまで聞いて、俊くんと私は目を丸くした。

 本気――って、前回の試験では手を抜いていた、ってこと?


「ちょっと体調がよくなくてね、勉強時間を普段より減らしていたのだよ。だから、ちょっと解らないところがあった。これが顛末だ。どうだ? だから、健康さえ害していなければ何の問題も無いということだ。もっとも、そこについては、それも含めての試験となるけれどね」


 俊くんは何も言わなかった。唇を噛むと、そのまま教室を去っていった。

 私は金谷くんに質問しようと思ったけれど――出来なかった。その時の金谷くんがとても怖く感じられたから、かもしれない。

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