第14話 生徒会選挙①
二月。
学生全体が騒がしくなる時期が、今年もやってきた。
……まあ、私は二年目なので、メインターゲットになるのだけれど。
「生徒会選挙、ねえ……。これって興味ある人、いるの?」
廊下の壁にあるポスターを見つめながら、私は言った。
「でも盛り上がっている人には盛り上がっているんじゃないの? 私は別に、どうでもいいけれど」
そう答えたのは優奈だった。彼女らしい、いつもの回答だといえる。
「そうだね。確かに、そうよね」
私はそれに答えて、外を見る。外では生徒会長候補が今日も校門でチラシを配っている。本来、校則に則るならばそれは完全に校則違反なのだが、生徒会選挙のこの期間中には許されている。というより、そうでないと有用な選挙運動ができないのだろう。
私はそんなこと、どうでもよかった。ただ、普通に学校生活を送ることができればいいだけだ。だのに、勉強時間を増やすよう努力するとか先生とのミーティングを設けて学校の向上に努めるとか、ほんとうにそんなこと考えているのだろうか? と思う人間ばかりがそんなことを言っている。たいていそういう人間って先生の傀儡としていて、取り敢えず誰も居ないのはまずいから最低二人くらいの感じで出ているだけではないのか――そんなことを勘ぐってしまうくらいには、二月という時期は暇だ。特にバレンタインデーも終わってしまえば試験もなければまともなイベントもほとんどない。しいて言えば卒業式くらいだけれど、二年生は卒業するわけでもないからそこまで一大イベントというわけでもない。
「だから、暇というかなんというか……」
はっきり言って、彼らにも矜持はあるのだろう。というか無ければやってられないと思う。実際問題、彼らは本気で『学校を変えよう』と思っているのだから。より良い環境にしようと思っているのだから。
まあ、私にしてみればすでにこの環境自体がいい環境であると思っているので、そんなことは無駄な感情であると考えているけれど。
「そういえば、今回の生徒会長候補、かっこいい子がいるらしいよ」
優奈の言葉を聞いて私は我に返った。
「……ふうん。それで?」
数日前に誰かに告白したとは思えない雰囲気だったけれど、まあ、それは口に出さないことにしておく。
「かっこいいし、成績もいいんだって。そしてこの学校を変えようとしているらしいよ。どういう目的だったのかは、ちょっと覚えていないけれど。確か名前は――」
「なあ、金谷。お前、生徒会選挙に出るのか?」
誰かの言葉を聞いて、私はそちらのほうを向いた。
そこに立っていたのは、金谷くんと雪谷くんだった。雪谷くんが金谷くんに話しかけているのは随分と珍しい光景に見える。
「……だから何度も言っているだろ。僕は出馬しない、って」
「でも苗字は金谷だったぞ?」
「だから、解っていて言っていないか? 出馬するのは僕ではなくて」
「あ、弟だったか。確か。双子……ねえ。まったく違うように見えるけれどね」
皮肉った発言をして、雪谷くんは笑う。きっと彼なりの冗談だったのだろうけれど、金谷くんの目は笑っていなかった。
と、いうか、え? 弟?
「そうそう、思い出した。弟だ。双子の。金谷俊。聞いたことのある苗字だなあ、って思っていたら」
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