レバガチャ・アーカイブ

鯨武 長之介

SNK 40th Anniversary

プロローグ - INSERT COIN –

「運転手さん、ここで降ろしてください」


 はやる気持ちを抑えながら、僕は車内の後部座席を掴んで声をあげる。目的地より、およそ1キロの距離を残した商店街入口の道路脇にタクシーは止められた。


 急いで支払いを済ませようとするが、足先だけはいち早く地面を求めるようにドアへと向かっている。


 数年ぶりに訪れた、故郷の商店街。休日の午後とあって人の姿は多い。しかしそこは、当時の面影や賑わいこそは残っているものの“あの頃のまま変化”を遂げていた。


 よく通った、甘さ控えめと称した、あんこが少ない鯛焼き屋。誰も知らないメーカーの食料品ばかり扱っていた個人経営のコンビニ。青春時代に同じ空気を吸い、時を刻んだ数々の思い出の場所がいくつか見当たらない。


 替わりに建ち並ぶのは、スマホショップや貴金属の買取り店など、時に世話にはなるが、面白みのない商売へと鞍替えされているか、もしくは主を失い固く閉ざされたシャッターが散見される。


 柄にもなく些細な感傷気分に浸りながら歩く僕の目の前に、同じスペースで連なる四店舗の一角が目に入る。


 左から順に 【 空き店舗 : 営業中 : 営業中 : 空き店舗 】 


「マルコとフィオが出撃中……かな?」


 両端の閉じられたシャッターを見て、思わず 【メタルスラッグ】 シリーズのキャラ選択画面が浮かび、一人で勝手に小さな笑い声が漏れる。

 

 ……メタスラは【7】まであったよな? いや、【2】と【3】の間にリリースされた【X】と、【7】の次に出た【XX】の他にも、アドバンス版やネオポケ版、アプリ版のシューティング、さらには遊戯マシンも含めれば20作品を超えるか……?


 些細な感傷やらはキャンセル技の前モーションのごとく掻き消された。

 作品の特徴と名場面をミッション・コンプリートすべく、記憶の追跡へと切り替えて歩いていた僕は、またも足を止める。


「映画館もなくなったのか……」 

 

 この商店街で一番の大きさを誇っていた建物である映画館も、マンガ喫茶へと形態を変えていた。あの頃、数多くの映画を上映していた文化の泉は【ザ・キング・オブ・ファイターズ ’99】のネスツ編のように、新世代の集い場へと移り変わったようだ。


 かつては、上映作品のポスターが飾られていた建屋壁面のガラス掲示板には、世界中で流行するオンラインゲームのイベントや遊戯設備の充実さを謳ったもので彩られている。


 周囲の駐輪場に多く停められた学生おぼしき自転車を見るに繁盛はしているようだ。中ではきっと、気の合う仲間同士が卓球やビリヤードをしながら談話をするか、もしくは、MMOで世界中を相手に、熱い戦いを繰り広げているプレイヤーたちがいることだろう。


 誰でも手軽に入手できる高性能な端末と発達した通信一つで、地球の裏側まで離れた相手と勝負ができる時代。それが僕らの当たり前になったのはいつからだろう……。


 今もなお進化し続けるゲームの容量やグラフィック。それらに一喜一憂しなくなったのはいつからだろう……。


 そんな思いを巡らせるうちに、僕は目的地へとたどり着いた。

 目の前にあるのは、あの頃と変わらぬままの形でそこに建つ、一店のゲームセンター。

 

 懐かしさと緊張が入り混じった固唾は、まるで筐体のコインシューターを滑り落ちる銀色の硬貨のように喉元を過ぎる。


 それをクレジットに僕の中にストックされていた、出会いと歴戦のゲージが一気にマックスへと跳ね上がる。


 この場所では、そう……


 ――― 闘いに飢えた狼たちがいた。

 ――― チームと仲間に夢を託した者たちがいた。

 ――― 無敵の龍や最強の虎を名乗る者たちがいた。

 ――― 刃で浪漫を語り、武士道に死を見付ける者たちがいた。

 ――― バリバリ撃って、ガンガン進む、何も恐れぬ者たちがいた。


 100メガあれば何も要らなかった、あの時代と僕の記憶が甦る。

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